21年秋アニメとか(2)※ネタバレありき
前回、「ヒーローになりたい」アニメが増えたよなという話をしましたけど、なぜ、なりたい→から本物になっていくというストーリーラインがこのクールにこうも多用されることになったのか。
なってしまったでも、既になっているからでもなく(この言い回しだと某仮面ライダーのTVスペシャルみたいになってしまうな)。
じゃあ彼らのなりたいと言っているヒーロー像には、思い描く先がなければならないんです。それらの真贋はひとまず横に置いて、思い描く“原点”と“着地・到達点”とがそれぞれになければこれらの作劇はまず成り立たない、そういう構造なんです。
ただし実は、その理想像が具体的である必要はない。
また、ここでのヒーローとは、正義の味方と同義のようでありながら、実はもっとより形而下の存在、似て非なる、象徴性とある種の(超常的な)実行力を有した存在と考えてもありかもしれません。
アニメというワンダーをこそ具現し得る媒体、だからこそそうした表現に一定のリアリティを与えながら陳腐になりにくい耐用力があり。
「正義の味方」と「ヒーロー」はほとんど同義に用いられるでしょうが、こと昨今のハイティーン向けアニメにおいてこれらに定義されるのは、『法を執行する機関組織』、もしくは『法の執行機関と作中社会問題の境にあるもの』、さらには『そもそも社会規範を完全に突き放した超常(その案件において超法規的な存在ないし法で動く他の組織の介入を許さない、もしくは一般社会に存在を認識されない)』の三つあたりにそう定義されるキャラクター像が所属することがおおい、という持論を置いておきます。
ハイティーン向けアニメと俗に呼ばれるもののなかにも、まぁいくらかの区分はあるんでしょうが、ここではバトルものに絞って考えます。
今回は前回タイトルをあげた『ディープインサニティ ロストチャイルド』『逆転世界ノ電池少女』『シキザクラ』について、おおよそのあらすじと多少のネタバレをタメ口込みで話していきます。
ただしここまで書いたヒーロー談義にはあまり関係なくなると思います。
これらまだ観てないから読みたくない方は、どうぞブラウザバック推奨です。
①『ディープインサニティ ロストチャイルド』
ディープインサニティはメディアミックス企画らしく、アニメを導入としてソーシャルゲームのほうに客層を動員するつなぎみたいな内容ですね(言い方)。個別用語はわからないでも、世界観は雰囲気で追いましょう。
アサイラムという異空間が、南極の地下の穴に広がっている。そこに入るにはSAN値チェック(???)というか、その特殊な空間への耐性を持つ人物らのみが正気をたもってダイブできるという設定らしい。
アニメ版は、ヒーローになりたいという動機を携えた主人公が配属されたチームとの絆を紡いでいく→隊長から『ある少女を殺せ』という作戦指令を受け、以後この作戦に彼は従事することとなる→作戦を実行しよう過程にて、中盤にムードメーカーしてた副隊長が死ぬ→ここから副隊長の遺したもの、それを起点に描かれる、「隊長がなぜ少女の暗殺に躍起になっている」か、副隊長はじめとしたチームの面々と疎遠だった彼女の動機と作戦の真相に迫っていく……。
という順序でたぶん。まぁいいんじゃないかな。
終盤の要は、それまでの各話のサブタイトル『take』が、隊長であるヴェーラと主人公の間にやり取りされたある「力」についてを裏付けるような回収劇であったことです。
シリーズ構成、下山さんでしたね。近年はハイティーンアニメや特撮界隈でよく重宝されるあのお方。ジオウとかシンカリオン好きだったのでこの方の作劇目当てで観てたんですが、普通に面白かったです。終盤は「力」の細かい設定は気にせず、取り敢えずドラマ的勢いを味わってた。
ヴェーラが過去複数回にわたり力を利用していたなら、副隊長を死なさず作戦を続行・再立案する芽はあっただろうか、とか、描写されないだけで「力」は移譲する前に摩耗したり、外から何等か観測されたりしえたか、とかの疑問まではアニメ本編ではあまりあきらかにならず、ヴェーラやチームの面々はゲームに続投しそうなので、そのへんで「力」について種明かしや考察はすぐるところでしょう。ゲームは……気が向いたらさわりたいなぁ。キャラデザめっちゃかっこいいので。
アニメの画的な動きについては、ほどほどバランスとってたぐらいで、止め絵は多かったけど不自然なほどでもない。よくあのキャラデザの線数多い衣装で一クール保ったでしょ。予算と時間があればもっと作りこまれただろうかと一瞬考えてみるのですが、監督とアニメーション制作会社のクレジットを見て、ただでさえ沢山のラノベ原作付きアニメとかほかの毎クールに見かけるぐらいなので、よくご多忙な中でちゃんとこれを成立させる職人の技とさえ感じましたね。本腰入ったら、もっとすごい動くシリーズもあったはずなので、今回は控えめだったな、程度に。ああいうとこにこそ、もっと融通利く予算あげてほしい。
②『逆転世界ノ電池少女』
実はあんまり書きたいことがないです。いや、面白かったんですよ。脚本の質も高かった。作画の質も標準以上。特に序盤から中盤にかけてはすごく気持ちよかったんです。
最終盤の二話、話はほんとよかったんです、ほんとに。ただ作画が……崩壊したわけでなく、不自然な止め絵と、これ確認する時間なかったんじゃないかって露骨にしてヤバい作画(というよりCGレンダリング?)ミスが普通に起きてたので、なんというか本当に予算と納期ぎりぎりだったんじゃないかって、そこばかり世知辛い感じに惜しいことになってしまいましたね。
本当に話はまとまっててよかったんですけど、当該箇所円盤修正来るかな。制作予算あげて。
キャラデザとかスタッフは間違いなく実力派そろってたゆえに、なおのこと惜しまれる。
ホストを主人公に据えたロボットもの、というなかなか衝撃の一閃を業界に投じてくれたことと、ロボット戦の熱さとユニークなロボットデザイン、オタクカルチャーと表現規制に対する真摯な問いかけ、ここらは本当に世相というか、よく練って作られていて、ハイセンスにして鮮烈なものをくれたなぁ、ほんとそこらへんの要素の組み立て方が面白いアニメでした。
基本的にアラハバキという作中集団は、占拠された都下におけるテロリストであり、『既にアニメやオタクサブカルチャーが排斥され市民がある程度それを受け入れてしまったディストピア社会』でややアングラな部分を包摂しながら、オタクの熱い魂が闘っていく話でしたね。アングラのなかで自由を求めて戦うヒロインや主人公、なんつーかあれですね。平成後期以降の仮面ライダーがウィザード最終回で某世界の破壊者が総括してたさまばかり浮かんでしまう。
正義と自由は似て非なるところにあり、自由のために戦うってことは、誰かの正義の尺度と真っ向からぶつかってなお、これを認めさせる胆力がいる。
③『シキザクラ』
正直秋アニメ中盤に一挙配信でドはまりしてしまってから、これの話ばっかりしたくて仕方ないんで、また別に記事用意して書くかもしれないです。
かつて小原の地で起きた災害、ただひとり生き残った少年。
災害で生き残った少年って時点で味付けが途端にs〇ay nightくささを露骨に伴うんですが、そういうのも含めて、中二病とヒロイック&往年ロボットアニメ的アクションを多々携えて令和の名古屋・東海方面から打ち出されたハイティーン向け王道アニメのほんとうに丁寧な良作です。
秋アニメにおいて、特に3DCGアクションの動・静止画的な映えで言わせてもらえば、これと逆転世界ノ電池少女の中盤あたりをうちではまず上げさせてもらいます。
声優を務めたキャスト陣については、今作で初アニメ声優といった方もおられ、ですがレギュラーの方々はじめ、「要点をはずさない」メリハリのきいた熱演をなさっており、それが他アニメのすでに練達した豪華声優陣とは、また一風違う新鮮な心地を齎してくれます。
ここでは序盤二話において、主人公翔の存在、その在り方のコンパクトにして濃厚なシフトについてしたためます。
第一話、翔は隔世(かくりよ)に踏み込んでしまい、オニという敵の襲撃を受け、これは翔自身の「心の弱さ」にオニが引き寄せられたため、彼を捕食しにやってきたことがシロ組として活動する涼の言葉から明かされます。その後、ふとしたことから直前の知り合っていた本作のメインヒロイン、逢花の危機を救うものの、彼は地下へ落ち、そこでパワードスーツとそれに取り憑いた新たなオニ、イバラと出逢い、暴走することになります。
彼は一話時点にして、災害から「自分だけ生き残ったこと」に対するうしろめたさ、罪悪感を抱えているらしきことが所々描写されており(やっぱり伝奇ADVじゃないか!?)、そんななかでその後(義)兄弟となった吉平に特撮アニメカルチャーなど教え込まれていく過程で、彼なりの「ヒーロー」を目指していくことになります。
しかしながら某伝奇ADVの主人公とは違い、本作のヒーローとはけして「他者を優先とした、自己犠牲の産物としての偶像」などではない、ことは、最初の二話にしてコンパクトにまとまっているんです。
すると逢花は二話にして暴走後の翔に、「自分を捨ててはならない」旨を諭します。やがて決意を固め、隔世のオニとの戦場に舞い戻った彼は、自分を捨てることない契約を、イバラと結んで新たな“変身”を遂げるに至ります。
そのほかにも特にバトル時の演出とか、CGアニメとしての優れた部分が多々あります。あとは時折、完全に手描きのときのパートでのキャラクター作画のクオリティーは控えめになってしまうのですが、シリアスとコミカルなパートとは、それぞれが独特のユニークさを開拓しており、一クールの勧善懲悪活劇として、なかなか飽きさせない内容です。企画の成り立ち経緯ゆえに、東海ご当地ネタが本当に多いんですが、東海民でない自分が興味をそそられるぐらいで、あとは主題歌やゲスト陣は、陰ながら本当に豪華な面々だったりします。これが令和のご当地アニメなのか……オニを基軸としたアクション活劇ゆえに、なかなかえげつないというかシビアな展開は多いのですが、ゆえにたぶん、当初ターゲットとしてただろう客層、刺さる人には本当に刺さる熱い内容だったとおもいます。
東海はこのアニメを生み出せたことをほんと誇っていいでしょ。パワードスーツヒーロー活劇という、ありそうでなかなか開拓されてこなかった需要の旗手となってくれること請け合いです。パワードスーツ版鬼滅、と視たてる向きも一部にはあるようで。(その一部ってニコニコのコメ欄とかだろうが)
日本アニメ産で装着型パワードスーツってなると、もうあと「ULTRAMAN」とかなってくるのでしょうかね。
今後も開拓の可能性ありそうなジャンルですよね、装着型パワードスーツ。SF的な意味でも、特撮アニメが往年やってきたヒロイックアクションの傑物としてアーカイブされておいてほしいひとつだと思います。