カンノーリの舟/魅力的な友人/アールグレイ・オハラ
朝早くに家を、というかベッドを出る予定が入っていてよかった、と台の上にうつ伏せになりながら思う。毎回毎回、20分程度で終わる整体に物足りなさを感じている。たった20分で、歪みまくったこの体がどれだけ元通りに近づくのだろうと訝しむ。近くのパン屋さんで色々を買って帰る。この前買っておいしかった「けしの実入りケーキ」を探すも見当たらず、店員さんに聞くと「けしの実入りのデニッシュはあるんですけど…」と困りスマイルで言われて(んーでもそれは「けしの実入りケーキ」ではないのよ)と思いながら「じゃあそれひとつお願いします」と発話する自分についてメタに。要らないのに買っちゃった。遣わなくていい気を遣っちゃった。牛乳を切らしていたのでコンビニにも寄る。無糖のカフェオレが飲みたい。最近はコンビニの牛乳の方がスーパーより安いことがあって、これは卵も同じで、(何か分からないけど、世界の何かが歪んでいるんだろう)と判断のつかない気持ちでいる。
カンノーリは、おいしいからというよりも見た目に惹かれてつい買ってしまう(もちろんおいしいけど、おいしさよりもビジュアルのかわいさの方により注目してしまう)。
ご覧の通り、手で持って食べ進めるのが好き。空中にカンノーリを泳がせるのが好きだ。筏のようなパイ生地に、幸せの積荷たるクリームが積まれて波打っている。この小さな舟で、いわば乗り物遊びをしている。ここではないどこかへ連れて行ってくれる舟だ。同じ場所にいながら、いまここではないどこかに意識を引いていってくれる舟。おいしいものが口に入っている間は、味覚に神経を集中させるけど、それは精神の「移動」だ。いまこの身を置いている世界から少し離れること。目をつむって魂を小旅行へ解き放つこと。この世界に存在することで生じる数多のストレスを一度棚に上げること。ちなみに、近所のパティスリーで夏にだけ売られるマンゴータルトは、マンゴーがたくさん積まれていて帆船に見える。こっちはカンノーリより躯体がゴツい気がするので、舟ではなく船だ。丸く膨らんでいるから、宇宙船でもいいなと思う。おいしい生地に、おいしい積荷が搭載されていると、うれしい。
予定していたのより30分遅く家を出る。高いコートを、まだ(このコート高いやつ…)と思いながら着てしまう。見た目はどうか分からないけど、少なくとも心にはまだ似合っていない。このコート。
原宿のここらへんは小さなテーマパークみたいだよな、と思いながら、行き過ぎたり戻ったりしてギャラリーに着く。(最近、Googleマップの矢印が、進行方向と逆向きを指すので困る。)絵をぼーっと見ていたら、北澤さんが手を振りながら話しかけてくれる。覚えてもらうために毎回個展に行っているわけではないけど、覚えてもらえているのはうれしい。今回の展示は、イラストレーターの北澤平祐さんと、デザイナーの河西達也さんの共作。元々僕が北澤さんのイラストに出会ったのはフランセの包装紙で、これもお二人の共作なので、今回はとても楽しみだった。僕も誰かとこうやって、一緒に何かを作れたらなと思う。買った本にサインを書いてもらって、北澤さんと少しお話ししていると仕事の話になり、「いつかお仕事できたらいいですね」と言ってもらえた。名刺をもらって、(名刺持って来たらよかった!)と思ったけど、別にかっこいい名刺じゃないからいいか。北澤さんにイラストを描いてもらえる案件があったら何が何でも僕がやりたい。
HIGASHIYAへ。だいすきな柿衣、今しか食べれないので機会があればできるだけ食べた方がいい。すごくおいしい干し柿(長野県産の市田柿)に、おいしいバターとおいしい白餡が挟まっていて、食べると他にないようなおいしい味がする。柿衣の味は、柿衣でしか感じたことがなく、食べるたびに感動する。あと、日の光を受けると、柿が透けて赤く光るのがきれい。
午前休も残りあと少し。ビュリーに行って、もうすぐ販売終了してしまうルーブルコレクションを見る。この前、僕の香水をいい匂いと言ってくれた友達に、誕生日プレゼントとして同じ匂いの石鹸を「お試し」としてあげたのだけど、その子に「もし買うなら今のうちだよ」と伝えなきゃなと思っている。まだ言ってない。元々、その子に似合いそうだなと思っていた香りだったのに、僕が先に自分用に買ってしまった。似合うと思うけど、これ以上魅力的にならないでほしいので言わないでおこうかな。
忙しい。Uf-fuに寄って、切らしていたアールグレイの紅茶を買う。煎茶のアールグレイが目に留まり、煎茶のアールグレイ……と思って見つめていると、「人気ですよ」と声をかけられて、(人気なら買ってみるか)と買う。UN GRAINにも行って、生菓子を自分用に3つと、クッキーを、友達の顔を思い浮かべながら4つ買う。忙しい。もう帰らなきゃ。少し急いで家に戻り、PCを開きながらケーキを食べ、考えなければならないことを考える。
夜は、同僚とお寿司を食べたり、プリンとカモミールティーを楽しんだりし、「私が言語化できなかったことを、言語化して整理してくれるからたのしい!」と言われて、うれしくなる。最後は車の中でセックスの話をひとしきりして盛り上がって解散する。カモミールティーもおいしかったので、よく眠れそうだと思いながら寝る。