スパイスウォーズ 第二話

毎週金曜日の20時からRBCにて放送されているラジオ番組「シンカの学校」に投稿した文章です。採用されたのは一部でして、このまま闇に消えるのも勿体無いのでここに書き出しておこうと思います。なお、他の方が採用されて設定が変わるため、物語の前後が噛み合わない所もあります。

スパイスウォーズ 第二話
SE(鐘が鳴り終わり、生徒のざわめき)
「はぁー…」思わずため息が出た。
数日前の売店での出来事を思い出す。月に一度だけ販売されるスターカレーパン争奪戦の結果は、ライバルのみさきも私も入手出来ずに謎の男性に奪われてしまった。正確には、パンと共に私の心まで奪われた。まるで恋のスパイスでもかけられたように。

そんな私の様子を見て心配してきた人がいる。スターカレーパン購入No. 1と言われるチアキだ。同級生とは思えぬ落ちつきぶりの割には運動神経が凄く、ヒエラルキーで頂点に立つ彼女は男子の憧れの的だ。
チアキは優しくこう言った。
「最近元気ないけど大丈夫?」
「大丈夫です。最近暑くて、ばててるみたい」
「貴女は頑張り屋さんだから、無理をしないでね」
そう言って、素敵な香りを残して去っていった。
涼しげな風みたいに素敵な子だ。

そんな彼女でも私の悩みは分からないだろう。
頭の中は彼の事で占められている。
彼は何者なんだろう?転校生だとしても、同級生には見当たらない。他の学年を探す勇気はなく、モヤモヤしたまま部活のため体育館へと向かった。

私が所属するバレー部は強豪ではないけど弱くもなく、私も一応レギュラーで試合に出てる。だから運動神経には自信があった。それ故にカレーパンを見事に取り上げられた時は驚いた。彼は絶対只者じゃない。
そんな事を考えていたその時、まるで漫画のように目が点になった。
体育館のコートの反対側で男子が練習しているのだが、そこに彼が立っていた。そして目があった。彼は笑った様に見えた。
私は途端に練習着で適当にまとめた髪ですっぴんの自分に気づき、目を逸らした。「どうしてここにいるの?彼もバレーをやってるの?」
ドキドキでパニックになりつつも遠くから見ていると、男子バレーの顧問が男子部員に集合をかけた。横には彼が立っている。耳をダンボの様にして顧問の話を聞いた。
「えー、今日からバレー部に入った『カマダ タツロウ』君だ。転校して来たばかりで3年生だから短い付き合いになると思うが、仲良くやってくれ」
彼の名はカマダ君。転校して来た3年生。どおりで見かけない顔だ。もう少し聞いていたかったがこちらの練習が始まったので立ち上がった。
が、何か違和感があった。
違和感のした方向を見ると、みさきが男子コートの脇に立っていた。
「何してんのよ!」と声に出してしまい、私に気づいたみさきがこちらに向かって来た。
「こんにちは、ご機嫌はいかがかしら?」
「帰宅部のあんたが何でここにいるのよ!」
「あら、知らなかったの?私は今日からマネージャーになったのよ」
「えええ!」思わず大声になった。何という行動力だ。呆れるやら驚くやらで絶句してしまった。
その声が彼にも届いてしまい、こちらにやって来た。
「やあ、また会ったね。君もバレーやってるの?」カマダくんが例の耳心地の良い声で話しかけて来た。
「はい!私も全力でバレー頑張ってます!カマダさんも全力ですか?」テンパって意味がわからない事を言ってしまった。きっと顔は真っ赤だ。
彼は笑顔でこう言った。
「できる範囲でやってるよ。お互いに練習頑張ろうね」そう言って立ち去ろうとして、更にこう付け加えた。
「そうそう、スターカレーパン。あれはうちのパンなんだ。来月はゲット出来ると良いね」
えっ…?突然の話に困惑していたら、彼は練習に戻ってしまった。
うちのパン?あれは有名なパンメーカーのはず。彼は御曹司なの?分かったような分からないような展開に、またしても彼に不思議なスパイスをかけられた様な気がした。
彼の事をもっと知りたい!
スターカレーパンを手に入れ続けたら、彼にもっと近づけるかもしれない。来月はみさきにも誰にも負けずにゲットしよう。接点はこれしかないのだから。
続く

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