あのアクリル板は今どこへーコロナ後のアクリル板活用方法まとめー
自転車で帰宅途中、どこかの家から漂う美味しい香り。
この瞬間、私はようやくコロナの呪縛から解放されたように感じた。
そう、遂に3年間付け続けたマスクを外し、私の日常に香りが戻ってきたのである。
5月上旬に新型コロナウイルスがインフルエンザなどと同じ「5類」に移行したことで、感染対策は個人の判断に委ねられることとなった。
コロナ禍の象徴とも言えるマスクと同様に、近頃あまり見かけなくなったモノがある。飲食店などに設置されていたアクリル板である。
私の通う大学の食堂からも先月、突如としてパーテーションが姿を消した。と同時に、学生たちの賑やかなランチ風景がようやく戻ってきた。
そのような変化を喜ばしく思うとともに、ふと疑問を抱いた。あのアクリル板たちは、一体どこへ行ったのだろうか。
感染予防アクリル板、9割超が焼却処分に
そんな疑問を抱いた私は、「アクリル板 行方」で検索してみた。
すると、アクリル板リサイクル率1割以下という見出しの記事がヒットした。
コロナ禍でほぼ全ての飲食店に設置してあったアクリル板は、何かに再生されることもなく、ほとんど廃棄処分となっている現実。非常にもったいないことこの上ない。
「SDGs、持続可能な社会、環境に配慮した○○」といった言葉が林立する今日、感染拡大防止に一役買っていた(?)アクリル板は、そんな時代の流れに逆行する運命を辿っているようだ。
廃棄を先読みした緑川化成工業
ここで、アクリル板の廃棄を予測し、いち早くアクリル板リサイクル事業に乗り出した企業を紹介したい。
プラスチックを中心に、残材の再資源化に取り組む緑川化成工業株式会社である。緑川化成工業はコロナが5類に引き下げられる以前から、大量のアクリル板が捨てられる未来を予期し、アクリル板の回収事業を開始した。
緑川化成工業のスピード感、先見の明には本当に脱帽する。また、こういったワールドトリガーの某予知キャラ的企業がコロナ後の社会に求められていくのではないかとも感じた。
アクリル板に新たな価値を
アップサイクルアクセサリー、SHITURAE
SHITURAEは、廃棄予定のアクリル板を用いてアクセサリーを制作しているブランドだ。NYでPOPUPを行う等、その創造性は海外でも高く評価されている。最近では、アクセサリーにとどまらず、フラワーベースといった小物まで展開している模様。
公式インスタに掲載されている商品画像をご覧いただきたい。
透明なアクリル板を存分に生かした彩色にトキメキが抑えられない。普通に欲しい。
廃棄されるモノの可能性に気づき、新たな価値を生み出そうとする姿勢。こうした姿勢が消費者の共感を呼び、国内外で人気を博す要因となっているのではないだろうか。
アクリル板に描き出されたファンタスティックな世界
もう一つ、一風変わったアクリル板再利用の取り組みを取り上げたい。神戸出身のボールペン画家、橋本薫さんによるアクリル板アートである。
緻密な画面構成と橋本さんの幻想的な世界観がアクリル板上に描き出されている。デヴィ夫人も大絶賛である。
透明なアクリル板に描かれることで、カラフルでファンタスティックな橋本さんの世界が一層際立っている。部屋に飾っていたら窓からアラジンが現れそうではないか。絨毯に乗ってプラスチックごみのない世界へと飛んでいきたいとさえ思わせる作品だ。
リサイクル業界の現状
こうした非常に素敵な取り組みがある一方で、9割を超えるアクリル板が廃棄処分となっている事実も忘れてはならない。
アクリル板に限らず、プラスチックのリサイクルはどん詰まり状態にある。
詰まりに詰まってどうしようもない排水溝のように。(一人暮らしを始めてようやく排水溝の攻略難易度の高さを知った)
何が言いたいかというと、つまり、生産量が多すぎてリサイクル現場が追い付いていないのが現状だ。
サーマルリサイクルは本当にリサイクルと言えるのか
リサイクルには大きく分けて、マテリアルリサイクル・ケミカルリサイクル・サーマルリサイクルの3種類があり、今回紹介した事例は、プラスチックをそのまま再利用するマテリアルリサイクルや、科学的に分解し、製品原料として再利用するケミカルリサイクルに属する。
3つ目に挙げた、サーマルリサイクルとは、プラスチックなどの廃棄物を燃焼する際に得られる熱エネルギーを有効利用することだ。
ここで一つの疑問が生じる。
サーマルリサイクル、これは単なる廃棄物の燃焼処理ではないか?
プラスチックの国内リサイクル状況をみると、2019年には85%が再利用されていると報じられている。しかし全体のリサイクルのうち、サーマルリサイクル率は60%と大きな割合を占める。
海外ではサーマルリサイクルはリサイクルと見なされておらず、英語では「Energy Recovery(エネルギー回収)」や「Thermal recovery(熱回収)」という別の言葉で説明される。
私たち人間は、言葉を用いて本来境界のない世界を区分し、同一言語間でその認識を共有する。信号が日本語では「青」、英語圏では「緑」といった具合に。
このようにサーマルリサイクルという語は、廃棄物の燃焼処理を都合よく認識し、国内のリサイクル状況を楽観視させる危険があるのではないだろうか。
私たちの A Whole New World へ
再利用の可能性に目を向け、どうにか試行錯誤しながらリサイクルの方法を模索する姿勢の重要性は繰り返し述べてきた通りである。
しかし、世界の潮流はやはり「リデュース(削減)」である。廃棄を減らすために何か再利用できないかと可能性を探るのではなく、そもそも廃棄を出さない形を模索する。そして、生産したモノを責任を持って循環させ続ける社会を、今を生きるわたしたちが、形作っていく必要があるのではないだろうか。
持続可能な社会の実現は、ファンタジーの世界の話ではなく、現実世界に生きるわたしたちの喫緊の課題なのだ。
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