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戒野ミサキの希死念慮に関するあれこれ

※この記事は音声作品「【ブルーアーカイブ】ミサキASMR~なんじ、健やかならざる時も~」の感想です。

 戒野ミサキはゲーム「ブルーアーカイブ」に登場する生徒のひとりだ。

 彼女を表すキーワードを三つ挙げるとすれば「希死念慮」「栄養失調」「虚無主義」だ。哀しき過去を纏うアリウススクワッドのなかでも、ミサキの物語はとくにシリアスなトーンで語られる。

 ミサキはいつも深い絶望を身に纏っている。幼少期の悲惨な体験が原因なのか、みずからの身体を「」と捉えて、どこか自分の生命を軽視するような言動を繰り返す。精神年齢が高く、サオリ不在時のリーダーでもある一方で、身体の不調や暗闇への恐怖心からふだん通りに振る舞えないこともある。ミサキと向き合うにあたって、先生はそういった〝危うさ〟に対処していかなくてはならない。キヴォトスでも「まともな大人」を必要としている生徒だと思う。

 ミサキは頭がよくて内省的でありながら、同時に離人症のような振る舞いを見せる。生きているという実感や先生や友人たちに愛されている意識が乏しく、目を離せばどこかへ消えてしまいそうなところがある。その行き着く先が自殺衝動希死念慮だ。
 彼女がどうしてそのようになってしまったのかはわからない。大切なものが奪われていく日々のなかで、未来に希望を抱けず、自分の率直な気持ちを抑圧しつづけてしまったからだろうか。いずれにしても、いつ命を絶ってしまうかわからないミサキとどう対峙していくのかというのが、彼女と先生を巡る物語の焦点となっている

「生きたい」と言ってくれ……

 ミサキの絆エピソードはきわめて濃密で完成度も高いので、未見ならぜひ読んでほしい。メモロビのストーリーもかなり良いし、個人的には愛用品(木彫りの熊)のエピソードも好きだ。さいきんHardでもミサキの神名文字が出るようになったので頑張って周回しよう。

 基本的に無表情で笑うことができない性格であったミサキだが、夏イベ(Sheside outside)では笑顔も見せるようになった。うれしすぎる……。ブルアカは「成長」のゲームだと勝手に思っているので、ちゃんと生徒の心の移ろいが読み取れると嬉しい。


 そして、ついに出た。

 ミサキの音声作品だ。

 内容としては、先生がミサキを看病する話、逆にミサキが先生を看病する話、そして……という感じ。アリスクの面々は放浪生活を送っていて、ミサキも常に栄養失調なので、「看病」のトーンもかなり暗い。音声作品というと甘味でセロトニンを促してくれるようなものが定番だが、これについては苦味と酸味のなかにかすかな甘さを探すような……葛根湯の顆粒を飲み込むみたいな体験ができる。

 環境音は少なめかつ小さめで、ボイスがメインだ。全体的に息遣いというか、間というか、文字起こししたセリフでは表現できない要素が全面に出ていたように思う。ミサキは基本的に本音をいわない生徒なので、なんやかんや特殊なシチュエーションになって、ふだん思っていることがぽろっと口に出るような展開が多かった。いいね。いいけど、緊張感もある

 音声作品としては説明セリフが少ないほうなので、聴いているうちに情景がわかったりリスナーの想像に委ねられたりしている箇所が多かった。詳しくは後述のネタバレ感想で書くけど、なにをしでかすかわからないミサキと、それとは別の意味でなにをしでかすかわからない先生の行動にそれぞれビビりながら聞く感じだった。シャーレを盗聴しているコタマさんとかはいつもこういう気持ちなのかもしれない。

 ミサキは何度も「命令なら従うけど……」というスタンスを見せる。そういうふうに振る舞うようになってしまった経緯を思うとつらいし、ほんとうになんでもしかねない危うさも怖い。とはいえ、言葉とは裏腹にミサキは自発的に先生を看病してくれるし、ある程度は好きなように振る舞っているように見えて、変わりつつあるものを感じられて嬉しかった。これも「成長」の一種なのだろうか。
 なんのかんのいっても、やっぱりミサキは善性をもったキャラクターで、それが行動の端々に見え隠れするのが良い。仲間思いなのも伝わってくる。サオリがいない間にいろいろ重圧とか感じているのかなあとか考えてしまうが、ミサキはそういう苦悩を表に出さないし、たまに見せる内面は断片的で曖昧だ。でも、すこしずつ彼女が希望を持てるようになってきているのであればこれ以上に嬉しいことはない。

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 ここからはすこしネタバレ。




 トラック5がヤバい。

 シャーレで停電が起きて、暗闇におびえるミサキを介抱するという話。絆エピソードの延長線にあるような内容だが、長尺ゆえに暗闇の怖さやミサキの焦りなどが生々しく感じられる。いろいろつらい。
 先述の通り、雨音とか雷鳴みたいな環境音はかなり抑えられている。臨場感としてはそういうのがあったほうが良いと思うけど、あえてそうしていないのはミサキと先生の閉ざされた空間を演出する意図だろう。

 途中でミサキと先生が椅子に座るのだが、これはソファじゃなくてキャスター付きの椅子だろうか。眼の前に大窓があるということがミサキのセリフからわかるので、間取り的にソファのほうではなさそう。(先ちょを参照すると、こういう構図だろうか)。

 先生がミサキの手を握る場面もある(5:54くらい)。ここから11:30くらいまでずっと握りっぱなしなんだよなあ。キメラアント編の名シーン(ラストシーン)が脳裏によぎる。

 そして18:00からの問題の場面だ。

 どうなってるんだこれ。右側から心臓の音と声が聞こえてくるということは、ミサキが先生の頭を抱いて、先生がミサキの胸に耳をつけているとしか思えないんだけどそれっていろいろまずくないか。教師倫理的に。いやでも、暗所恐怖症のミサキがそれで安眠できるならいいか……。実際、数分で寝入っているっぽいし。

 14:00あたりでミサキがいっている「痛みを感じると形が把握できる」という話は、彼女を象徴するようなセリフだ。生きている実感の薄さから自殺未遂を繰り返し、そのたびにかろうじて自分の生を体感するというのがミサキのこれまでの人生だからだ。不幸な生い立ち不自由な身の上に苦しんで、いつしか悲しみや苦しみの感覚が鈍麻してしまった彼女が、肉体的な痛みを通じてのみ生に結びつけられているというのがあまりにもつらすぎる。
 でも、最後にミサキは先生と心臓の拍動音を共有して、先生も自分も「生きているんだね」という実感を得る。いままで痛みによってしかそういう実感を得られなかった彼女が、先生の存在と、先生の反射で見る自分自身の存在を通じて、自傷以外の方法で自分の鼓動を意識できるようになるというのが美しい。
 彼女にとって恐怖の対象でしかなかった夜闇に、違った意味あいが生まれてくるというのも、今後のミサキの変化を期待させる良い演出だった。

 トラック5以外も、非常に良かったです。美しき日本の伝統文化である耳かきパートもちゃんとあったし。寝起きのミサキに歯磨きするのはさすがにどうかしてるだろとは思うが……。


 今年の夏は水着ミサキが実装されるはずなので、心を強く保って待ちたい。


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