彼の欲しいもの
彼はかわっている。
多趣味な彼の最近のブームは野球だ。
中学時代、野球少年だった彼は
数か月前から地元の友達と野球を始めた…らしい。
(実際見に行ったことはないので本当かどうかは知らない)
毎週金曜日の夜
どこかのグラウンドに集まって
数時間野球をして遊ぶそうだ。
2週間前に彼から
「野球の後、肩が痛くなる。
投げ方が悪いんだろうか」
と相談された。
野球について知識も興味もない私は
その相談にはうまくのれなかったが
彼は彼なりの解釈で、自身の筋力不足を疑い
自宅でケンスイに励むようになる。
そこから1週間後、彼は
「カーブボールを投げれるようになりたい」
と言い出した。
すでに投げれる球種はあるけれど
彼いわく、
もう1種類増やせたらもっと良くなるらしい。
自宅でケンスイをしていた彼は
今度は仕事の残業をこなした後で
自宅の庭で夜な夜なタオル片手に
ピッチング練習をするようになった。
彼はまだまだ止まらない。
やっぱり実際にボールを投げて練習したくなった彼は、
壁当てをするべく家の敷地内をぐるぐる回って
よさげな壁を探したそうだ。
想像してほしい
30歳をこえた成人男性が
休日の昼間にグローブとボール片手に
壁あてに適した壁を探して
家の周りをぐるぐる回っているところを。
すでにおもしろい
残念ながら
適度なコンクリートの壁が見つからず、
仕方なく諦めて
またタオルでのピッチング練習に戻った彼は
休日の昼間に汗だくになりながら
ひとりで黙々とピッチング練習をする。
自身のフォームをチェックするために
iPhoneを固定して自らを撮影し、
撮影した動画を見て、ここがもっとこうだなと
フォームの修正点を見つけ、
練習してはまた撮って
チェックしてを繰り返す。
何度も。何時間も。
(その時撮った動画をのちに私に見せてくる)
本気だ。
やはり実際にボールを投げて
練習したくなった彼は、
Amazonでゴム紐つきのボールを購入する。
ゴムボールにゴムの紐がついていて
その紐をバンドで自分の手首につけられるようになっており、
ボールを投げてもどこかに跳んでいかず
戻ってくる仕組み。
グローブを持っていたら守備の練習もできる。
まさに一石二鳥
とてもいい方法だと思った彼の考えとは裏腹に、
この練習方法は上手くいかない。
そもそもカーブを投げる練習をしたいのに
ゴムボールだと勝手が違ってくる。
さらに、思い切りボールを投げたくて購入したはずなのに、
ゴム紐のおかげで
力一杯投げれば投げるほど、
勢いよくボールが戻ってくる。
危険だ。
そろそろ告白するけれど
彼はピッチャーではない。
ピッチャー志望ですらない。
また、
彼がやっている野球は少人数のため
試合などないし
する予定もないそうだ。
そして話はタイトルに戻る。
彼が今欲しいのはピッチング練習用のネットである。
あの緑色の、
よく、野球少年が自宅で練習するために
お父さんに買ってもらうあれ。
「ボーナスも少し入ったし
買おうかと思うんだけれど」
と先日相談された。
なんのために?w
あまりに真剣な彼には
とてもじゃないけど言えなかったが
私の頭の中は
割と序盤から
この言葉でいっぱいだった。
この人は
「なんのために」
こんなに頑張っているんだろう。
筋トレをして、
フォームのチェックをして
仕事後のヘトヘトな状態で
夜な夜なピッチング練習をして
いったいゴールはなんなんだろうか。
想像すればするほど面白くて
本気な彼が可愛くてたまらない
彼はまだ、ピッチングネットの購入には至っていないが
(Amazonで購入しようと思ったら
Amazonプライム対象外商品だったらしい。
その点は少しイラッとしているようだった)
おそらく購入は時間の問題だと思う。
(私も購入することに反対していない)
そして購入後しばらくの間
毎日本気で
ピッチング練習に取り組むのだろう。
ピッチャーでもないのに。
試合の予定すらないのに。
愛おしい。