歯ブラシ

思いもよらない返しだった。



だって私はすでに妥協していた。

この人の彼女のポジションには
なれそうにないなと
ちゃんと理解して
独り占め出来なくても
その中の1番ならいいやと
譲歩していたのに

私は複数人いる中の2番だった。






だいたいこの人はおかしい。

この状況なら、一時的にでも
1番だよと嘘をつけばいいのに
あえて2番だと言ってくる目的は
なんなんだろうか。

いや、真相はわからない。

もしかしたら本当は
3、4番目なのかもしれない。

それはわからないけれど
今正直に2番だと言う必要はあっただろうか。

2番だと言われて
「そうですか、じゃあどうぞ」

だなんて言う人は
いったいどれくらいいるのだろうか。





私は
「1番じゃないなら嫌だ」

と言って
その日初めて好きな人に背を向けて眠った。






そんな事があっても
私はその人の事を諦められずにいた。

リサーチしたところ
最近、遠距離の彼女が出来たらしい。

遠距離ならば
近くにいる私の方がどう考えても有利だ。


攻めなければと思い
私から飲もうとメールを送り
いつものように
何事もなかったかのように
その人の家に行った。


私は何事もなかったかのように行ったのに
彼の部屋には変化が見られた。


今までこの部屋にはなかった
女性ものの雑貨が少し置いてあったし
洗面所に色違いの歯ブラシが並んでいた。


この幸せの象徴のような
2本並んだ歯ブラシは
私に強力なダメージを与えた。

毎回持参し、持ち帰っていた
私の携帯用歯ブラシと違って
この歯ブラシは
ここに置いておくことを許されている。

当然のようにそこにいる。

何も言えなかった。






いつものように隣で寝ようとすると
彼は私に近づいてきた。

当然だ。

下心があるとわかっていて
のこのこやってきたのだから
そうゆうことだろって思うのは正しい。


後ろから抱きついてくる彼に


「歯ブラシ私のも置いてもいい?」
と聞いたら

「それはダメ」
と彼は答えた。




「私がもっと痩せたら1番になれる?」

「もっと可愛くなったらいい?」

と聞くと

彼は

「〇〇の方が細いし可愛いよ」
と言った。

じゃあなぜ?
なぜ私じゃダメなんだろう。

努力の仕方がわからなくなった。





彼女はずっと好きだった人だそうだ。

ずっと好きだったけれど
その子は先輩の彼女だったらしい。



最近その先輩と別れたと聞き
彼から告白し付き合うことになったそうだ。


そんなことを言われて
私はいったいどうしたらいいのだろう。




その日も彼に背を向けて眠った。







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