視界の端
同級生の西野さんが入院したと聞いて、私はお見舞いに向かいました。
地元で唯一の小さな病院です。
彼女の部屋に到着するとなぜか浮かない顔をしている。どうしたのかと尋ねると「階段の女って覚えている?」と言われました。
それは私達の通っていた中学校で噂になっていた幽霊で、使用禁止の階段を使うと昔そこで転落死した女性に突き落とされるというものです。
「もちろん覚えているよ。赤い服着てるやつでしょ。それがどうしたの?」
「その階段の女が運ばれた病院がここなんだって。転落死した女性は実在していたんだって…
それで、私、一階にある喫煙所向かう階段でなんとなく視界に赤い服の女性が立っている気がしてて。
こう、視界の端に何かあるなってわかるってのあるでしょ?
そんな感じで毎回いるし、消灯後もいるのよ。看護婦さんに聞いてもそんな服着てる入院患者いないと言うし、お見舞いや外来なら消灯後なんていないよね?
階段の女の話も思い出しちゃって余計に不気味に思えちゃって…」
随分不安だったようで堰を切ったかのようにワーっと話してくれました。
私もちょっと怖くなりましたが、しっかりと目視してないわけだし気のせいだろうと思いました。そして彼女が少しでも安心するならと一緒に階段を降りることを提案しました。
二人で階段を降り、一階に間もなく着くぞという時に空気が淀んだ気がしました。
そして急に西野さんが話し始めました。
「私、中学の時階段の女、見ているの…その時も視界の端で確認しただけで怖くて逃げだしたんだけど…ほら、見て、今、左の端に立っているでしょ…」
息苦しさを感じながら、私は西野さんに言われたまま見てしまいました。
眼球が出てしまいそうなほど目をむき出しにした形相でこちらを見ている赤い服の女性。
その瞬間、衝撃を感じました。
「ごめんねごめんね」
起きると隣で西野さんが泣いています。
体の痛みを感じ、自分が病室で寝ている事に気付きました。
あの時私は残り十段ほどの階段を飛び降りたらしいです。
幸いにも怪我は捻挫のみで、病院だったこともあり大事にはならなかったようです。
「あの時、あなたが飛び降りた瞬間に女が視界から消えたよ…」
恐怖から解放されたと感謝を述べる彼女から、わざと私に見せたというのが伝わってきます。
私は怒りを感じ、彼女に伝えることをやめました。
西野さんの視界に入らない、真後ろに階段の女が立っていることを。
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竹書房さんのマンスリーに出した作品です。
怪談を作るのは2作目。
150作以上の応募の中、2次選考までいけました。
めちゃくちゃ嬉しいです。
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