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強請り鴉

充さんは、カラスと寝言が恐ろしいという。

恋人の愛理さんは非常に物知りで、ある時、叉骨のおまじないをしたいと言い出した。
それは鳥の喉元にある骨を用いる、願い事を叶えるタイプのものであった。
叉骨は二又に分かれていて、頂点にはつまみのようなでっぱりがある。
端を引っ張り合い、割れた際にでっぱりが付いていた側の願いが叶うと説明された。

いざ「そおれ」と二人で引っ張り合うと充さん側にでっぱりがついていた。
結果を見て、愛理さんは非常に残念そうな顔をする。
普段から強請ることが苦手な彼女。
それほど大事な願いだったのかと内容を尋ねてみたが、教えてもらえなかった。
充さんの願いは『ずっと恋人でいたい』という単純なものだった為、少し胸が痛んだらしい。
それから頻繁におまじないに誘われることになる。
丸鶏も食べていないのに、叉骨をいくつも持ってくるのだ。
綺麗に洗われており、新しくも感じられる骨。
彼女からは今度こそと気概を感じるのだが、結果はなぜかいつも同じだった。
しかも、願いの内容は頑なに教えてもらえない。
充さんは、日々気持ち悪さを溜め込んだ。
追い打ちをかけるように、同時期から愛理さんが寝言を言い始める。

「かぁ…かぁ…」

この寝言が聞こえるのは決まって日の出近く。
最初は寝息かと思ったが、日を追うごとにハッキリと聞こえるようになった。
毎朝ベランダに来るカラスの声と重なり、不気味な時間だった。

「かぁ…かぁ…」
『カァ!カァ!カァ!』

この日も、薄暗い部屋に鳴き声が満ちていた。
窓を見るとカーテン越しにカラスの影が並んでいる。
限界を感じた充さんは、追い払おうと窓を開けた。
だが、そこにカラスはいなかった。羽根ひとつなかったのだ。

背後に気配を感じて振り返ると、寝ていた愛理さんが立ち上がっていた。
虚ろな目をして、手には叉骨。
そして口を大きく開けて「カァー」と一言鳴いた。
充さんは震え上がり、愛理さんの肩を強く掴んで大声をあげた。
「なんでも叶えてやるから!おまじない、もうやめよう!」

愛理さんは急にぼんやりとした状態になり、徐々に正気を取り戻した。
尋ねてみたが、先ほどの出来事も一回目以降のおまじないも覚えていなかった。
以来、寝言もぴたりと止んだそうだ。

願いを聞き出した充さんは、結婚をした。
しかし、引越しを重ねても、そこにはいないカラスの声がベランダから聞こえるのだという。

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今回も最終選考まで。
尊敬してる相互さん達と名前を並べられたこと、誇りに思います。
本当に、嬉しい。

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