最恐戦本線を見た ②
休憩を経て、観客である私が何故か手に汗握る。
これから結果発表だ。
ワガママを言わせ貰えば、もう1回ずつ話を聞きたい。
出来れば別の話でおかわり希望したい。
聞き方がわからない初心者は、ふりかけご飯を食べてしまった気分なので白米が食べたい。
味わってから全員優勝だ!と叫びたい。
しかしここは賞レース。
勝ち上がるは
田中俊行、中山功太、夜馬裕、伊山亮吉 ※敬称略
の4名。
話のジャンルとしては霊現象、霊現象、霊現象による人怖、オカルト現象、の並びだと思う。
ステージの上、悔しさを滲ませた8名の表情に胸が熱くなった。
ここから、準決勝が始まる。
田中さん
最後にポツンと謎を置く。聞いてる側に想像を促す手法だろうか。
霊現象、オカルト現象、人怖と考えれば考えるほど不気味のロジックにはまり込む。
中山さん
想像するも演技を見るも厭な状況説明で、命を大事にしたくなった。
話自体の恐怖よりも自分の生命という本能的な危険信号を打ち鳴らしに来る演技だった。
夜馬裕さん
テープを流すがごとく澱みなく話は進み、綺麗な話で終わる。わけがない。
1転2転とした先に人怖を突きつけるさまは、怪談という刃物を喉元に突き付けられるかのようだった。
伊山さん
彼の語り、存在感がある。まさに怪異そのものを目の当たりにするような強さ。
ご本人も繊細そうで話も細かく組み立てられている上での存在感に圧倒された。
また選ばなくてはいけないのか。
投票時間になり、私は再度考え込む。
ふりかけご飯から白米のつもりだったのに、まさかの牛丼がきた。濃い。
フィーリングに全てを委ね、結果を待った。
決勝戦
田中俊行VS夜馬裕 ※敬称略
海鮮丼とうな重、どっちにする?
先行 夜馬裕さん、後攻 田中さん。
最後は時間無制限の戦い。
始まるまで、私は最初から濃いものがドカンときて胸焼けすると思っていた。
夜馬裕さんは粛々と語り始めた。
最恐戦という舞台で自分なりのテーマを持って話を選んできた、と。
無制限の中にどっさり恐怖を詰め込んでくるわけではなかった。
大人の余裕のようでいて、これは誠心誠意だと感じた。
この正しさみたいな、色気みたいな、人を裏切らない気配に酔いそうだった。
恐らく、ここから会場の空気が変わったように思う。
怪談話が始まった。
洞窟の中で水音が響くように、ひとつひとつの言葉が広がる。
怖い。とても厭な話だ。
水音は滝のようになり、クライマックスまで怒涛のように客席に流れていく。
話芸とはこうも恐ろしいものなのか。
とても厭な厭な話は、匠の技で私の胸を突いた。
田中さんは余計なものは一切削いだ。
ポツポツと蝋燭を灯すような語り口は、怖い話において強い。
話しているだけで、語り手までもが怪談の1部なのだ。
この世の者じゃない。
得体の知れないイキモノに命を取られそうだ。
さっきまで洞窟にいたのに、森に置き去りにされているように思える。
背筋にスっと汗が流れた。
きっとこうなる。きっとこうなる。
観客はいつだってオチを想像する。
『やっぱりね…』の反対は『来ないで!』という気持ちに近いかもしれない。
オチを想像して、その通りに進んでいても最後まで聞くのが怖い。
逃げたくても耳に流れ込む恐怖。
何かあるかもしれないという予想。
突きつけられた恐ろしい結末。
あの時の衝撃は忘れられない。
どちらの話も甲乙付けがたく、やはり同票だったそうだ。
ルール上、同点時に発動する最後の1票が優勝を決めた。
夜馬裕さん。優勝おめでとうございます。
ここからは本当に主観とウンチク。
恐怖の理屈を知らねば恐怖はわからぬ。
最恐戦前日、私が調べたことは構成でも怪談でもない。
恐怖はなぜ感じるのか。
要素は3つあり、肉体的・精神的・知識的とある。
肉体的とは死。
精神的とは想像力。
知識的とは理解できないこと。
そして付け加えるとしたら。
明確な対象があることを指す心配、対象がないことを指す不安。
この2つを合わせた5つの要素を巧みに構成したものが、怖い。
更に言うなれば、笑いを入れられると脳が活性化する。
快楽を感じる部分が恐怖を感じる部分と重なるところにあるからだ。
そう紐解けば、夜馬裕さんには全てがあったのではないだろうか。
ベテランならではのバランス感覚か。
どの要素が1番強いもなく、五芒星のようだった。
清潔感のあるルックス、個性的な語り口調。
丁寧な姿勢と心配り。
お辞儀も所作もなかなかに美しい。
好印象派爽やか怪談師(イケおじ)心の中で呼ばせて頂こうと思う。
本来なら一人一人怪談師さんを褒めちぎり考察するべきなんだろう。
私は最恐戦で怪談に出逢ったのだから。
怪談を知れば知るほど、恐怖がわからなくなる。
目で耳で、経験してしまうから。
樹海のような場所だ。
知っていたはずの場所が、深い所の入口にいるようだ。
出逢ってしまったら戻れない。
もう最初に怖がった話では怖がれない。
人生への色合いとして、新しいエッセンスが加わった日だった。
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