人口爆発の背景にあるもの【肥料の歴史】vol.2
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1898年、クルックス卿が演説で訴えた内容はこうです。
まず地球上にはもう未開墾の土地が残っていないことを指摘し、徐々に増えていく人口を支えるためには大量の肥料が必要だと言うことを訴えました。そこでチリ硝石をはじめとする化石資源だけでは20世紀の需要を満たすことが出来ず、このままいけばチリ硝石は1920~40年の間に枯渇し、グアノ枯渇のときと同じ轍を踏むことになると主張し、最後には「空気から窒素を固定化する技術」、つまり空気の約80%を占める窒素を肥料にすることが出来れば、この肥料問題は解決するだろうと提言しました。
この「空気から窒素を固定化する技術」こそが、のちのハーバーボッシュ法となるのです。
科学の貢献
このあたりの時代になると、科学が肥料の分析を本格的に始めます。そして解明が進展していく中で、ある事実を発見します。それは、グアノを含め有用な肥料はどれも、窒素、リン、カリウムの含有量が多いということです。
この発見から、窒素、リン、カリウムを含ませた水の中で植物を育たせるという実験が行われ、見事成功します。
それまで天然で採れる肥料(有機肥料)しか使えなかったのが、人為的に作った無機肥料も肥料として機能することが分かったのです。
しかし問題は、この窒素、リン、カリウムをどこから供給するかです。窒素は、空気中に無限のように存在し、一見供給しやすそうに見えますが、クルックス卿の提言にもあるとおり、空気中の窒素はそのままでは肥料として使うことが出来ないのです。
窒素は空気中で窒素分子として窒素原子が2つ結合した形で存在し、肥料として使うにはこの結合を切り離す必要があります。しかし、窒素分子は三重結合という、化学結合の中でも極めて強い結合なので、簡単には切り離すことが出来ません。それを切り離す技術というのがクルックス卿の提言の「窒素を固定化する技術」の意味だったのです。
そしてクルックス卿の歴史的演説の後、多くの研究者の間で技術開発競争が行われます。その中で成果を出したのが、ハーバーボッシュ法に名を残すドイツの化学者フリッツ・ハーバーでした。
ハーバーは、空気から窒素を固定化する反応、つまりアンモニアを生成する反応の最適条件を特定し、さらにオスミウムという触媒の発見もしました。
するとそれに続いて、アンモニアの大量生産に同じくドイツのカール・ボッシュ率いるBASF社のチームが名乗り出ます。そしてハーバーボッシュ法として後世にも残る方法で、空気から肥料を取り出すことに成功します。
このハーバーボッシュ法は当時、「水、石炭、空気からパンを作る技術」とも称えられました。またこのハーバーとボッシュはそれぞれの功績を称えられて2ともノーベル賞(1918, 1931)を受賞しました。
そして1898年のクルックス卿の演説から僅か15年後の1913年にはアンモニアを大量生産するための本格的な工場が稼働し始め、人工肥料が出回ったことで、世界で養える人数が増え、世界人口の急増に繋がっていきます。
また、20世紀半ばには、人工肥料を前提とした高収量品種が開発され、人口爆発に拍車をかけます。これは「緑の革命」と呼ばれています。
そして人口が急増し、更には農業をより少ない人手で行うことを可能にする、つまり農業の工業化により、工業やサービス業に従事する人が増えていきます。その行き着いた先が今の現代なのです。つまり、今の便利な社会の実現は、ハーバーボッシュ法という偉大な技術があったからこそなのです。