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型の無償保管について

最近、下請法改正に向けた動きが目立ちますが、ここ数年の公正取引委員会による勧告事例をみると、それ以外にも重要な運用の変化が見受けられます。

とりわけ、2023年3月以降、型を無償で保管させることは下請法違反であるとする勧告事例が、異常なほど相次いでいます。

そこで、今回は、型の無償保管について、現時点での考え方を整理してみたいと思います。


型の管理責任を負うのは誰か

部品の製造委託先に対し、部品の製造に必要な型を無償で保管させることは、いわば当然の商慣習として続いてきました。

しかし、製造委託先に保管させる型が発注者の所有物である場合には、その保管責任を一義的に負うのは、型の所有者である発注者です。

量産中の型の保管費用

もっとも、型を用いた部品の製造が継続して発注されている間は、その型の保管に要する費用は、通常は、部品の発注単価に含まれていると考えることができます。

そうであるならば、量産中は、別途、型の保管費用を支払わなくとも、特に問題となるものではありません。

量産終了後の型の保管費用

これに対し、型を用いた部品の量産終了後は、部品の製造委託の対価から型の保管費用を回収することができなくなるのが通常です。

また、型は、特定の部品を製造するために用いられるものであり、他の部品の製造に用いることはできませんから、型を預かる委託先としては、型を用いた部品の発注がなければ、型は無用の長物となります。

さらに、型は、大形の重量物であることが多く、移動させるのは大変であり、また、保管にはスペースを要するのが一般的です。

そのため、部品の発注を「長期間行わない」にもかかわらず、製造委託先に対して型を無償で保管させることは、経済上の利益を不当に提供させるものとして、独禁法上または下請法上問題となりやすいといえます(公取委勧告令和5・3・16〔岡野バルブ製造〕ほか)。

型の保管のために要する費用(倉庫保管料、倉庫等への運送費、メンテナンス費用等)を負担させることや、型の棚卸作業を無償で行わせること、不要となった型の廃棄のために要する費用を負担させることについても同様です。

また、型(ここでは金型だけでなく、木型等も含みます)だけなく、専用工具といった治具についても同様のことがいえます。

部品の発注を「長期間行わない」場合とは

それでは、部品の発注を「長期間行わない」と判断されるのはどのような場合でしょうか。

公正取引委員会においては、

① 委託先から長期間発注がないこと等を理由として型の廃棄等の希望を伝えられていた場合
または
② 発注者自身も次回以降の発注の有無または次回以降の具体的な発注時期の見通しを示せない状態になっている場合

のいずれか早い方である、として運用されているようです(公取委勧告令和5・11・30〔サンケン電気〕、菅野善文=関場良二郎=石田高章「サンケン電気株式会社に対する勧告について」公正取引884号61頁(2024年)64頁)。

②発注者自身も次回以降の発注見通しを示せない状態になっている場合には、部品の発注を「長期間を行わない」ものと判断されますが、それよりも早い段階で、①委託先から型の廃棄等の希望を伝えられた場合には、その時点で、部品の発注を「長期間行わない」ものと判断されるということです。

次回以降の発注見通しを示せない状態とは

最終発注日からどのくらいの期間が経過すれば、②の発注者自身が具体的な発注の有無や発注時期の見通しを示せない状態になると判断されるのかについて、これまでのところ、明確な基準は示されていません。

もっとも、公正取引委員会と中小企業庁は、令和6年度の「下請事業者との取引に関する調査」(親事業者に対する書面調査)から、型に関する設問として、「下請事業者に金型・木型等の型、治具、設備等を貸与して部品等の製造を委託した後、当該部品等の量産製造が終了(又は、最後に部品等の発注をしてから1年以上経過)していた場合に、下請事業者に貸与している(していた)当該金型・木型等の型、治具、設備等を回収しましたか。」を追加するようになりました。

このことからすれば、公正取引委員会や中小企業庁は、発注者が、委託先に対し、量産製造の終了を通知していたならばその時点、明確に量産製造の終了を通知していなかったとしても、最後に部品の発注をしてから1年を経過した時点をもって、②発注者自身が具体的な発注の有無や発注時期の見通しを示せない状態になったものと考えている可能性があるものと思われます。

製造委託先が型の所有権を有している場合

以上に対し、部品の製造委託先が型の所有権を有している場合には、型の保管に要する費用を負担するのは、基本的には委託先となります。

現行の下請法運用基準や下請取引適正化推進講習会テキストでは、型の無償保管が問題となるのは、発注者が所有する型を部品の製造委託先に預ける場合であることを前提として記載されています。

そのためか、これまで公表された型の無償保管に関する勧告例は、全て、発注者(またはその顧客)が型の所有権を有している事案です。

しかし、発注者が、量産終了後などにおいても、型の廃棄や管理の在り方について発注者の了解を得ることを要するものとするなど、委託先に対し、委託先の所有する型を自由に廃棄させず、その保管を求める場合には、管理の主体は事実上発注者にあるものと認められ、その費用は発注者が負担すべきものとなります 。

このことは、下請法改正に向けた「企業取引研究会」においても検討の対象とされ、「現行の下請法運用基準を見直し、金型の所有権の所在にかかわらず型の無償保管要請が下請法上の問題となり得る旨整理し、どのような場合に下請法上問題となるのか、発注者や受注者にとって分かりやすい基準を明記すべきである。」との方向性が示されています(企業取引研究会報告書27~28頁)。

支払うべき保管費用の額

以上のように、型の所有権の帰属にかかわらず、発注者は、製造委託先に型を保管させていながら部品の発注を長期間行わない場合、下請法上問題とならないようにするためには、型を引き取るか、発注者の費用負担で型を廃棄してもらうか、または、委託先と十分に協議した上で、合意した型の保管費用を委託先に支払う必要があります。

保管費用の算定方法としては、近隣の倉庫業者における保管料を参考とすることが考えられるほか、金型保管サービス提供事業者の価格例等を提示して委託先から見積書を徴求した上で、委託先との間で十分に協議をして定めることも考えられます(公取委勧告令和5・11・30〔サンケン電気〕、前記菅野=関場=石田・公正取引884号61頁(2024年)65頁)。

また、部品の量産開始時において、製造委託先との間で、量産終了後の型の保管期間をあらかじめ合意し、その間の保管費用について、量産時の部品の発注単価に明示的に反映して支払うことも、許容される余地があるものと考えられます。


このnoteは法的アドバイスを提供するものではありません。ご相談につきましてはこちらのフォームからお問合せください。

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