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PRパーソンが一度は読んだ方がいい、超個人的おすすめ本5選(実用書じゃないよ)

日本の書店のPRや広報の棚に行くと、海外と比べてスキル習得を目的としたタイトルが多いな、といつも感じる。プレスリリースの書き方やメディアに売り込む方法——などなどの実用書が本当に多い。

もちろん、必要とされているから、とはわかってはいるけれども、個人的にはちょっと残念だなと思っている。なぜなら、いまだにPRが狭く解釈されている証拠だから。プレスリリースやメディアリレーションズといった手法はPRのほんの一部に過ぎない。

そういうわけで、先日Twitterで次のようにつぶやいたら思ったより大きな反響があった。

もしかしたらPRパーソン、特にこれからPRパーソンを目指す人たちは本来出会うべき本に出会えていないのかも——?

そこで今回は、書店のPRの棚に行っても出会えない、でもPRパーソンなら読んだ方がいい、僕の「超個人的おすすめ本」5冊のポイントを簡単に紹介しよう。

『ドキュメント 戦争広告代理店〜情報操作とボスニア紛争』/高木 徹

キーワードひとつで国際世論を喚起するPRのダイナミックな力

PRで最もダイナミックなのが国際世論の喚起だ。この本は、ボスニア紛争を舞台に、国際世論をセルビア非難に向かわせることに成功したPR会社の情報戦略に迫った名著である。

PR戦略のテクニックのひとつに、「戦略的なPRワード」がある。

戦争の情報戦において何が重要かというと、相手がやっていることがいかに酷いかを国際世論に訴えることだ。ただし嘘や捏造はダメ。いわゆるフェイクニュースは絶対にやってはいけない。実態に伴ってファクトは押さえ、いかにキャッチーに訴求するかがポイントになる。

ボスニア紛争においては、”エスニッククレンジング(民族浄化)”という言葉がそれにあたる。このキーワードが衝撃的な映像とともに国際的に相当数流通した。

これは広告で広まったキーワードではない。メディアがこの言葉に飛びついたのだ。PRのプロフェッショナルは、どういう言葉にするとメディアやジャーナリストが飛びつくのかを熟知している。メディアがこの言葉を流通させ、ボスニアに同情的な国際世論が喚起されたのだ。

実は僕自身この本を読むまで、この言葉がボスニアが雇ったPR会社から提案されたものとは思ってもいなかった。そして世論形成においてPRがいかに大きな力を発揮するのか、改めて強く認識させられた。

なお本著は2000年に放送された『NHKスペシャル 民族浄化~ユーゴ・情報戦の内幕~』の番組をもとに2002年に出版され、講談社ノンフィクション賞・新潮ドキュメント賞を受賞している。いまは講談社文庫で手に入る。

『ティッピング・ポイント―いかにして「小さな変化」が「大きな変化」を生み出すか』/マルコム・グラッドウェル

PRという仕事の面白さを確信した一冊

初版2000年の本書はPRの本ではない。けれども、ちょうどPRの世界に飛び込んだ頃の僕が非常に影響を受けた本だ。こうやって世の中の変化は起きるんだと目から鱗が落ちるほどの衝撃を受けたし、PRの仕事が面白くなりそうだと確信を得た、いわば僕にとっての「ティッピング・ポイント」になった本だ。

何かが大流行したり社会的構造が変わるほどの大きな変化が起こる時、実はそこには小さなきっかけがある。本書ではそれを、それまで表面張力で保たれていた水がほんの少しのきっかけでコップから溢れるような劇的が瞬間があるからだと述べている。

その劇的瞬間が「ティッピング・ポイント」だ。

本書ではニューヨークの犯罪発生件数が5年間で64.3%もダウンした事例を取り上げ次のように解説している。——この事例のティッピング・ポイントは、荒廃していた地下鉄をクリーンアップし、無賃乗車を厳しく取り締まったことにあるという。

地下鉄をクリーンアップするという小さな「原因」がじわじわと感染のように広がり、やがてニューヨークの犯罪率の大幅減少という「劇的変化」の瞬間を迎えるというわけだ。

本書では「感染」を広げる少数者の存在や「ウィルス」の特徴、それが作用する環境について解説しているのだが、これがのちのインフルエンサーマーケティングや戦略PRにつながっていく。20年前の本だけれども、今でも十分に役立つ示唆に富む本だと感じている。

さて、本の内容とは別にもうひとつ言いたいことがある。
本書は世界的にベストセラーになり、日本でも大いに売れたのだが、版元が変わるときに改題された。『急に売れ始めるにはワケがある』——こちらの方が有名だろう。

僕はこれもとても日本的だな、と思う。

アメリカの本は象徴的なキーコンセプトや主題をタイトルにする。本書の場合は「ティッピング・ポイント」だ。日本の場合はコンセプトというよりも、事例や即効性が大好き。日本では「急に売れ始める理由」が書いてあると推測できるタイトルの方が売れると踏んだ版元の判断は間違っていないと思う。

けれどもこの本は決して「売るため」だけのものではない。ぜひ、本質的に大事なのは何かを頭の片隅に置いておいて読んでほしい。

『ブランドは広告で作れない 広告 vs PR』/アル&ローラ・ライズ

PRの大切さが国際的に広まるきっかけとなった一冊

ブランドという観点から、広告とPRの役割を明確に説いた本。著者は名著『ブランディング22の法則』の著者でマーケティング、ブランディングの第一人者であるアル・ライズと、その娘ローラ・ライズの二人だ。この本も世界的なべストセラーになった。

本書は広告を打たずに成功したスターバックスなどの例を挙げ、ブランディングの観点から見るとインパクト重視の広告では信頼性の醸成は難しい、信頼性を得るにはこれからはPRの役割が必要だと述べている。こう書くと、広告とPRが対抗軸として扱われているように感じるかもしれないが、そんな表面的なことではなく、本質的な役割の違いを解説している。

ちなみに2003年に日本語版が出た際、副題に「広告 vs PR」とついているため、日本では両者が対抗軸として語られるきっかけとなってしまった感がある。しかしそのおかげで、PRの役割に目が向けられるようになったとも言えるだろう。

いずれにしても、本書は世界的にPRの大切さが大きく発信されるきっかけになった本だ。原題も『The Fall of Advertising & The Rise of PR(広告の落日、PRの台頭)』と挑戦的で、僕は「これからはPRの時代である」と宣言するこのタイトルにとても元気付けられたのを覚えている。

『「空気」の研究』/山本七平

「空気」が私たちの行動を規定する

40年以上も前に発表された本にもかかわらず、今でも多くの論者に引用される名著なのでご存知の方は多いだろう。とはいえ、今回紹介する5冊の中で最もPRに関係ない内容の本だ。

ではなぜおすすめするかというと、僕が2009年に上梓した『戦略PR』の中で、戦略PRを「空気づくり」と定義し、世の中の「空気」をつくることこそがPRの役割としたからだ。

『「空気」の研究』は、日本社会を覆う「空気」という存在を指摘し、なぜ日本人は重要な局面において論理的な判断ではなく、その場の「空気」で物事を決めてしまうのかを解説している。例えば太平洋戦争で、日本軍は客観的に見ても理屈として理解不能な決断や判断を多く下しているが、その犯人は「空気」だというのだ。

古い本で硬い文体なので読みにくさを感じる人もいると思うが、「空気」というものが人をどう動かすのか理解するために一読をおすすめする。

なぜなら「空気」は私たちの日常にあり、私たちの行動は「空気」という存在に判断されるのだから。

『プロパガンダ』/エドワード・バーネーズ

「PRの父」が記したバイブル

PRの父と呼ばれる人物が二人いる。
一人はプレスリリースを発明したアイビー・リー。もう一人が『プロパガンダ』の著者、エドワード・バーネーズだ。本書はアメリカで生まれた「PR=Public Relations」を初めて体系的にまとめたもので、PRパーソンなら必ず読むべきバイブルだ。

『プロパガンダ』というタイトルだけ見るとその不穏なイメージに敬遠する人もいるかもしれないが、刊行当時(1928年)は「プロバガンダ」という単語にネガティブなイメージは付いていなかった。どうやったら世論を喚起したり仕掛けることができるかということを「プロパガンダ」という言葉で広めようとしただけだ。バーネーズも著書の中で、プロパガンダに必要なのは倫理観だと述べている。

悪いイメージがついたのは、戦争における宣伝に巻き込まれてしまったから。ちなみにナチスの宣伝相ゲッベルスはこの本に影響を受けたとも言われている。そのため後から悪いパーセプションがついてしまった。

改めてこの本を読むと、100年前の著作物なのに今でも通じる要素が多いという気づきがある。例えば、バーネイズが手掛けた1920年代の女性の喫煙キャンペーン。当時、公共の場での女性の喫煙はタブーだったのだが、1929年のニューヨークで行われたイースター行進の時に女性モデルにタバコを「自由の松明」としてもたせて自由の女神を想起させ、「女性の権利」と絡めてニュースとして取り上げてもらうことに成功した。これにより女性の喫煙も許容されるようになっていったのだ。他にも今でいう「インフルエンサー」の活用など、現在に続く手法がすでに紹介されている。

温故知新という意味でも、ぜひ読んで見てほしい。

PRは世の中を動かす力を持つ。だからこそ特に若いPRパーソンには、プレスリリースなど手段のノウハウも勉強しつつ、同時に大きな視点でPRのダイナミックさを(そして同時にその怖さを)理解してほしいと思う。ここで紹介した5冊は、それを教えてくれるはずだ。ぜひ、読んでみてほしい。

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