Venice VR Expanded 2020に参加してみて
かなり久しぶりのnoteの更新となってしまいました...!
昨年に引き続き、伊東ケイスケ監督作品『Beat』の制作チームのメンバーとして、今年も9月2日〜13日に開催されたベネチア国際映画祭のVR部門に参加して、色々なVR映画を体験しました。
昨年までは「Venice VR」という名称でベネチアの小さな島を貸し切って開催されていたのが、今年は「Venice VR Expanded」という名称に改められ、自宅からVRゴーグルを被って参加できるバーチャル上での開催と、世界15箇所のサテライト会場での開催が行われました。(ベネチアでの物理的な会場での開催は行われませんでした)
VR Chat上のバーチャル会場
バーチャル会場では、VR Chat上にベネチア国際映画祭の雰囲気を再現した特設会場が開設され、ベネチア名物の仮面をつけてみたり、ゴンドラに乗って上映会場に向かったり、トークセッションやパーティーに参加できたりと様々な体験ができました。
会場の様子は、Venice VR ExpandedのキュレーターであるMichel ReilhacさんとLiz Rosenthalさんが解説している、上記の動画がわかりやすいです。(お二人は黙々と案内していますが、実際に会場に行ってみると、童心に帰ってアバターで会場内を走り回ってしまうくらい面白かったです...笑)
作品体験
今年のラインナップは44作品あり、作品毎にViveportやOculus Questのアプリ、Oculus TV、また独自に開発されたアプリなどで視聴することができました。
不具合で体験できなかったものや、ライブで参加する作品で予約チケットが取れなかった数作品をのぞき、ほとんど全作品を視聴した中で、個人的に印象に残って何か書き留めておきたいなと思った作品を、今日のnoteでは3作品ご紹介します!
THE BOOK OF DISTANCE
こちらはカナダ在住のアーティストであるランドール・沖田さんが、1935年に自分のおじいさんが広島からカナダに移り住み、そこで過ごしてきた日々(日系人の強制収容や、故郷への原爆投下などを経て、どう幸せな暮らしを取り戻していったか)をVRで描き出した作品です。
月並みですが、本当に素晴らしい作品でした。この作品ではランドール・沖田さんが語り部として作品内にアニメーションの姿で登場し、所々でおじいさんへのインタビュー音声も挟みながら、体験者と一緒におじいさんの記憶を回想をしていくような形で作られています。このような作り方は、今までVR映画の中でありそうで無かったと思いますが、とても分かりやすくて物語にどんどん引き込まれていきました。
またアニメーションもあえて細部まで作り込みすぎないことで、最初から最後までカクついたりといったストレスもなく見られました。ストーリーの描き方は素晴らしく、またアニメーションもシンプルながら引き算の美学があるような感じでとてもクオリティが高かったです。カナダの方だけではなく、日本の方にもぜひ見て欲しい作品だと思いました。
GRAVIDADE VR
こちらはかなり寓話的な作品で、好き嫌いは分かれると思うのですが、個人的にはとても惹きつけられました。
物語の主人公は、紐で結ばれた兄弟です。二人は底の全く見えない世界に生きており、一定のペースで下へ下へと落ち続けていきます。しかしある時から下の方にある穴がだんだん大きくなっていくことに一人が気がつき、心配した彼は恐怖を覚えはじめます。しかしもう一人は自由を望んでおり、穴が大きくなっていくことを全く気にしていません。そして穴が大きくなるにつれて、二人の行く末にも変化が訪れていきます....。(体験者はこの二人が迎えるエンディングを、それぞれ両方とも体験することができます。)
ここからは私の個人的な解釈ですが、おそらく心配しすぎて足場を固めようという人と、自由に自分の道を生きていく人の対比を描こうとしている作品だと感じました。その発想が面白いし、また作品の世界観や設定がとてもユニークで斬新でした。そしてこの作品は元々2Dのショートフィルムだったのを、VRバージョンとして再度作り直したということなのですが、VRでしか表現ができない体験がしっかり作られていたと思います(2Dでストーリーを客観的に眺めるのと、自分自身がキャラクターとともに下の穴に吸い込まれていくのとでは、全然感覚が違うと思います)。
SHA SI DA MING XING (KILLING A SUPERSTAR)
この作品ではLISAというスーパースターが、自身のスキャンダルが報道された後に、熱烈なファンから殺害予告を受けます。しかしリサのエージェントであるBinは、著名なインタビュアーであるShanをライブ配信のホストとしてアサインしているため、様々な事件の予兆が現れているにも関わらず、強引に収録を進めようとします。そして配信が始まるとともに、残念ながら人が亡くなる事件が起きます。しかしその収録場所は密室であり、出演者やスタッフの他には誰もいません。これは事故か、あるいは殺人かー?体験者は様々な手がかりをもとに、この事件の真相を推理していきます。
この作品は、直線的なストーリーを楽しむというだけではなく、別々の部屋で同時進行でそれぞれの登場人物のストーリーがくり広げられており、どの部屋を見るか選択したり、巻き戻しもすることができます。以前日本でも『ゴースト刑事 日照荘殺人事件』という推理系のコンテンツはありましたが、直線的なストーリーの時間を自由に行き来できるという点で、既視感のない新しいフォーマットとして確立されていると感じました。映画好きな人にはストーリーの深みがなくて物足りないかもしれませんが、誰でも迷いなくシンプルな操作で手がかりを探して推理をしていくことができ、テレビドラマ的な感覚で誰もが楽しめるコンテンツだと思いました。
まとめ
今年のラインナップは、昨年以上にそれぞれの作品がいずれも何らかの新しい技術の活用や、今までに無かった表現に取り組んでいるように感じました。今日は私が特に書きたいと思った3作品についてご紹介させて頂きましたが、自分の中での上位3作品ということでもなく(頭の中の整理もついておらず)、まだまだご紹介したい作品が沢山あるので、また時間ができたら追って更新したいと思います!
ちなみに受賞作は下記の3作品でした。
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