映像表現の4原則
僕は数年前から定期的に映像のワークショップ活動を行っています。ワークショップというとカメラの操作方法や実践的な制作ノウハウを教えるのが一般的なイメージですが、僕のワークショップやセミナーでは明日から役立つ実践テクニックなどはやらずに、映像の原理、ストーリー作り、人の想像力を喚起するにはどうすれば良いかなど映像が人の心に与える基本表現を中心に教えています。
「感情を揺さぶる作品を作れるのは結局センスだよね」というフワッとした言葉で片付けられるのが昔から嫌いでした。基本は理系人間なので何故この表現方法が人の心を揺さぶるのかを理屈で説明できなと気が済まないんですよね。
僕は映像を教える際に「映像表現の4原則」という独自の理論で教えています。映像作りの要素といえば「構成」「撮影」「編集」など制作工程で分けるのが一般的かと思います。以前映像の専門学校で講師をしていましたが、その時僕は「編集・CG」の授業を受け持っていました。他にも「撮影」に特化した授業。「企画構成」だけをやる授業などに分けられていました。これは映像制作が「ディレクター」「カメラ」「編集」「MA」など分業制のため、講師もそれぞれの分野のスペシャリストが教えていたからです。
しかし一人で全てをこなすビデオグラファー は撮影しながら頭の中で常に編集をしています。予想外の素晴らしい1カットが撮れたら、その瞬間に構成を大きく変えて行くことも可能です。
つまりビデオグラファー とって「構成」「撮影」「編集」「演出」は直列的な作業工程では無く、常に並列的に同時進行しているのです。
だから映像を教える際に「撮影技術」「編集技術」「構成技術」に分けて教えるのは効率的ではないと個人的には思っています。
前置きが長くなりましたが僕が考案した映像の4原則は「リズムメイク」「情報認知」「感情誘導」「ストーリーテリング」の4つです。簡単に1つずつ解説をして行きます。
「情報認知」
映像の仕事というのはそのほとんどが情報を伝えることです。情報量の多さと伝わりやすさが映像の持つ大きなメリットですから必然的に商品や企業の紹介、記録動画、報道などの動画制作が多くなります。
この情報伝達の良し悪しの判断は「伝えたいことが如何に短い時間で分かりやすく伝わるか」の一点です。映像は写真や文章と違い視聴者の一定時間を拘束してしまいます。時間は短けれ短いほど良いのです。
短い時間で伝えて理解させるというのはとても難しいことです。ただ早いテンポで見せるだけでは脳が処理しきれないので結局伝わりません。
情報伝達は「映像の世界観を楽しむ」と言った感覚的要素を排除して考えることが重要です。
この情報伝達に必要な技術はまず何を伝えて何を伝えないかを決める「構成力」、分かりやすい構図とカメラワークで表現する「撮影力」、最小限の時間で伝わるよう調整する「編集力」などが求められます。
常に意識するのは「4W1H」です。5W1Hじゃ無いの?と思うでしょうが僕の考える情報伝達に置いて「Why(なぜ?)」は必要ありません。Whyは映像作品の本質的な部分なので「ストーリーテリング」の技術に分類しています。 4W1Hの中で特に重要なのは「What(何が)」と「How(どのように)」ですね。「When(いつ)」「Where(どこで)」「Who(だれ)」はテロップでも説明できますがWhatとHowを文字表現したら映像を作る意味がありません。
「リズムメイク」
映像は写真や絵画のような「空間芸術」とは違い「時間芸術」です。映像を含め音楽やダンス、演劇などの「時間芸術」は鑑賞する人の一定時間を拘束するというデメリットが発生してしまいます。そのため見る人を飽きさせない適切なリズムを作り出すことが基本となります。
人間は鼓動、呼吸、脳波、生活習慣など生きている限り生体リズムを刻んでいます。この生体リズムと映像リズムをシンクロさせると高揚感と集中力が高まり映像に没入しやすくなります。どれだけ内容が素晴らしくてもリズムの悪い映像は見てられません。逆に内容がくだらなくてもリズムとテンポが良ければついつい最後まで見てしまいます。TikTokの動画なんかは内容がさほど面白くなくてもリズムがいいからついつい見入ってしまいませんか?
リズムメイクの技術は単純に音楽に合わせればいい訳ではありません。まずリズムの元となるのは「動き」の要素です。「動き」は「画面内の動き」と「カメラの動き」に分けられます。そして編集による「画面変化のコントラスト」そして「音」の要素の組み合わせで決まってきます。
これらの要素をコントロールして、人間の「生体リズム」とシンクロさせることがリズムメイクの基本技術となります。
リズムメイクは編集だけの技術では無く、撮影時に如何に動きのある要素を撮れるか、役者の動きやセリフの間などを適切に演出できるかも大きく関わってきます。
「ストーリーテリング」
「映像を作る」=「ストーリーを作る」と同義というくらいストーリーは映像作品の屋台骨です。ストーリーというと映画やアニメなど話のあらすじをイメージするかもしれませんが、ここでいうストーリーはもう少し本質的な部分を指しています。
まず物語は何かが「変化」しないと進んで行きません。具体的にいえば「状況の変化」と「感情の変化」です。特にストーリー作りにおいて最も重要なのは「感情の変化」です。登場人物がずっと「幸せ」だけのストーリーは魅力を感じません。やはり「苦しい」「辛い」などのネガティブから「幸せ」と感情が変化した時にストーリーが発生し見る人の感情を揺さぶります。
どれだけ状況が目まぐるしく変化しても登場人物の「感情」が同じであれば物語としては面白くなりません。逆に日常的で些細な変化だけど人物の感情が大きく変化すれば魅力的なストーリーになります。
先ほど情報伝達で重要なのは4W1Hだと書きました。残り1つの「Why?」はストーリーと直結します。
つまり「なぜ人の感情が変化したのか?」を描くことが作品の「あらすじ」と「メッセージ性」に繋がるのです。
「感情誘導」
感情誘導は情報やストーリーにイメージを付加して視聴者感情、印象をコントロールする技術です。イメージとは「かっこいい!」「可愛い!」「キレイでうっとりしちゃう!」といった雰囲気や印象など人の感情に直接的に訴えかける要素のことです。映像工程では「演出」に当たります。
この映像で印象をコントロールする技術は言語化が難しいため、初心者は頭の中にあるイメージを引っ張り出して何となくの感覚で撮影編集をしていることが多いと思います。
しかしイメージという曖昧なものを作っているのに頭の中のイメージに頼っていると、それっぽい雰囲気は作れても記憶に残りにくい作品になりがちです。プロとアマの違いはこのイメージを言語化できるかどうかという点が大きいと思います。
具体的な技術としては美しい構図やカメラワーク、ライティングで魅了できる撮影力、印象的な編集やCG、カラーグレーディング などで世界観を作り上げる編集力、演技指導や現場調整など総合的な演出力が挙げられます。
「感情操作」は感情や雰囲気といった曖昧なイメージを理論的にコントロールして動画という視覚媒体に落とし込む作業です。
ビデオグラファー の多くは、とにかくカッコよくて世界観を感じさせる映像に魅力を感じるので「感情喚起」の技術に興味を持つ人は多いです。
ただこの「感情喚起」の技術はあくまで「情報」や「ストーリー」の持つ感動を増幅させるものです。料理で言えば調味料であり食材ではありません。
この4要素の役割を一言でまとめると以下になります。
情報認知 = 内容
リズムメイク = 土台
ストーリーテリング = 本質
感情誘導 = 増幅
この4原則はあくまで映像表現に関してなのでアイデアや発想力などは別の技術と捉えてください。
多くの映像の仕事は「情報伝達」と「リズムメイク」の2つが出来れば概ね成立します。
更に奥深い表現をしたいなら「ストーリーテリング」が欠かせませんし、一瞬で人の心を惹きつける動画を作りたいなら「感情操作」が必要です。
更に難しいのはこの1つ1つの要素が良くても、4要素がバランスよく整合性が取れていないと最終的に人の心には響きません。
情報をたくさん伝えたいけど、ストーリーが伝わりづらくなるとか、リズムの良い編集をしたいけど、静かな感情が表現しにくくなるとか、あっちを立てればこっちが立たず、こっちを立てればあっちが立たずといったことが映像制作には多々起こります。
最終的にはこれらの要素を絶妙なバランスで調整できる思考力と感性が作品のクオリティを決定づけます。
ざっくり簡単に説明しましたが各要素の詳細はまた改めて解説したいと思います。
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