原則法?簡便法?直接法?間接法?連結?個別?キャッシュ・フロー計算書の新方式
こんにちは!「マネーフォワード クラウド連結会計(以降“クラウド連結会計”)」のプロダクトマネージャーをしている、HORI です。
主にクラウド連結会計の「仕様の背景」を不定期で連載しています。(たまにキャンプとかスキーの記事も混ざってますが、難しい記事の合間のアイスブレイクとしてお楽しみください)。
こだわり仕様シリーズ第16回
クラウド連結会計のこだわりシリーズ第16回目は「連結キャッシュ・フロー計算書」について解説していきます。連結会計は簿記2級の対象範囲になりましたが、キャッシュ・フロー計算書は引き続き簿記1級の内容であることから、会計知識としてはほぼ最高難易度といっても過言ではない領域です。
従いまして、これを読まれている方は相応の会計プロフェッショナルだと思っています。その前提で、今回は基本的な用語の解説を少し省かせてもらうのですが、それでもかなりの長文になってしまいました。(今回も最後までたどり着いた人は猛者の記事になります。会計プロフェッショナル向けエンターテイメントとしてお楽しみください)
マネーフォワード クラウド連結会計の概要
ここから先、かなり長くなるので、先に概要ベースでマネーフォワード クラウド連結会計の特徴(対応範囲)を記載しておきます。
個別/連結 → 〇個別も連結も同時に作成可能
連結会計システムが作るキャッシュ・フロー計算書の作成機能なので、当然ながら、「連結キャッシュ・フロー計算書」が作成できるような機能になっています。
ただ、実は連結キャッシュ・フロー計算書を作成する過程で各社のキャッシュ・フロー計算書も作成することになるため、グループ各社のキャッシュ・フロー計算書も作成できてしまいます。
なお、外貨でのCFも期中平均レートで換算します&現金及び現金同等物の換算差額も自動計算になります。
間接法/直接法 → 〇どちらも作成可能
有価証券報告書等のキャッシュ・フロー計算書の開示実務で一般的なのは間接法ですので、間接法での作りやすさを意識していますが、マスタの設定次第で直接法で作成することも可能になっています。
なお、使うことが多いであろう間接法でのキャッシュ・フローの設定に関してはAIでの設定サポート機能をつけています。
簡便法/原則法 → 〇両方式のいいとこどり
ここが今回の機能一番説明が難しいところ、かつ工夫した部分なのですが、「簡便法の操作感(Excelでの操作感)を再現した、原則法(各子会社の積み上げで作る)」というスタイルになっています。直感的に作りやすい簡便法と、正確なトレース・積み上げが可能な直接法のそれぞれの良いところを組み合わせて作った新しいスタイルになっています。(特許出願済み)
キャッシュ・フロー計算書とは?
いきなり連結キャッシュ・フロー計算書の作成方法に進む前に、そもそも「キャッシュ・フロー計算書」とはどういうものかを確認していきます。
連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準によると、
・企業集団の一会計期間におけるキャッシュ・ フローの状況を報告するために作成するもの
と定義されています。そのほかの重要な定義としては
・キャッシュ・フロー計算書が対象とする資金の範囲は、現金及び現金同等物とする
・「営業活動によるキャッシュ・フロー」、「投資活動によるキャッシュ・フロー」及び「財務活動によるキャッシュ・フロー」の区分を設けなければならない
というあたりが、キャッシュ・フロー計算書の根本な構造定義になります。
キャッシュ・フロー計算書の基本原理
キャッシュ・フロー計算書は、キャッシュ(=現金及び現金同等物)の動きそのものを計測して開示すればよい、というわけではなく、各活動がキャッシュに与えるであろうインパクトを期首・期末時点の貸借対照表及び損益計算書から作成するという会計テクニックを使って作成します。
適用される法則は以下の通り
・(キャッシュ以外の)資産の増加 → キャッシュの減少
・負債の増加 → キャッシュの増加
・資本の増加 → キャッシュの増加
・収益の獲得 → キャッシュの増加
・費用の発生 → キャッシュの減少
(資産の増加がなんで?と思う方が多いかもしれませんが、固定資産を現金で買う取引などをイメージしてください)
なお、増加ではなく減少の場合、キャッシュへのインパクトも反転しますが、混乱しやすい、かつ今回の主題ではないので減少側は割愛してます。
このように、キャッシュ・フロー計算書は「キャッシュ」の増減理由を「キャッシュ以外の動き」から説明し、その動きを分類している と考えることができます。
この基本原理は、直接法⇔間接法、簡便法⇔原則法で共通であるだけでなく、個別⇔連結でも変わらない基本原理になります。
連結キャッシュ・フロー計算書作成実務
連結キャッシュ・フロー計算書作成方法の実務はExcel連結と連結会計システムで全く異なっていたのが、今の日本の連結会計業界の特徴になっています。
その作成スタイルがあまりに異なっている故に、システム移行のハードルが高く、キャッシュ・フロー計算書作成だけはシステム化できずEXCEL業務になっていることも多いです。
Excel連結の場合
各子会社毎に前期末と当期を比較してキャッシュ・フロー計算書を作成すると、会社数×3シート程度のシートが必要になってしまい、シート数、関数の数的に非常に煩雑になってしまいます。(2~3社の連結でも大変です)
そこで、前期末と当期の連結貸借対照表及び連結損益計算書に上記の基本原理を当てはめて、簡便的なキャッシュ・フローを計算したのちに、ワークシートを埋めていく感じでキャッシュ・フローへの影響額を調整していく というスタイルで作成することが多いです。(いわゆるExcel簡便法)
Excel簡便法のメリット
データ量(Excelのシート数)を許容可能な範囲に抑えられる
増減を取得したのちに、1列ごとにキャッシュ・フロー計算書の影響額を記載していくような、直感的にわかりやすい構成にできる
ワークシートの作成方法をエクセルに書き込んでおくことで、業務の引継ぎがある程度可能(作成者と後任者のスキルレベルはかなり必要)
Excel簡便法のデメリット
会社別のキャッシュ・フロー計算書は作成できない
調整は各社の取引次第で要否が決まるので、各子会社の取引を把握して、調整そのものは会社別の取引に分解して考える必要がある
外貨の換算がある場合は煩雑な調整が発生する(外貨キャッシュ・フローをARで換算しなければいけない:連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針第17項)。
また、各BS科目の換算差額のみならず、現金及び現金同等物の換算差額の計算も必要(連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針第15項)関数の量がすさまじいことになる(関数ミスを発見するのは至難の業。ミスを発見するための関数も組むが、さらに関数巨大化)
ブラックボックス化しやすい
作業の分担ができない
連結会計システムを利用している場合
連結会計システムを使っている場合、各子会社の合算や換算に起因するExcelのシート数の限界を意識する必要がありません。
そのため、各子会社のキャッシュ・フロー計算書を作成し、そのキャッシュ・フロー計算書を合算して、連結仕訳の影響額も加算するスタイルになることが多いです。
加えて、「システム化する以上、可能な限り自動化したい」とゆうニーズに対応するため、連結パッケージで「増減明細表」という表の作成を依頼して、その増減からキャッシュ・フローへの変換を行うという方法が日本国内では一般的になります。(増減明細方式とします)
増減明細方式のメリット
子会社別のキャッシュ・フロー計算書も確認可能
増減明細表が正しく入っている限りはほぼ自動化が可能
増減明細表のチェックなどは分担してできる
Excelのような関数ミスの恐れがない
増減明細方式のデメリット
グループ会社に正確な増減を入れてもらう必要がある(かなりのインストラクション工数を要する)
勘定科目×増減明細のすべてに変換先を指定しおかないといけないため、変換マスタの行数が管理困難な行数になる(200科目×5増減でも1000のマッピングが必要)
全自動にするためには、1つの増減から複数のキャッシュフローインパクトを生み出さないといけないことがあり、必要な設定はさらに多い
結果、システムながらこの方式もブラックボックス化しやすい
2つの作成方式のメリットを合わせた新手法
上記の連結キャッシュ・フロー計算書の作成方法はそれぞれのメリットがありつつも、ともに「ブラックボックス化」を起こしやすいという共通の課題がありました。
マネーフォワード クラウド連結会計では、この「ブラックボックス化」を防ぐために有効な各種の工夫を盛り込み、新たなスタイルで連結キャッシュ・フロー計算書を作成できるようにしました。(特許出願済み)
連結キャッシュ・フロー計算書の構成要素
冒頭で説明したキャッシュ・フロー計算書の基本原理は連結キャッシュ・フロー計算書であっても変わりません。
そして、個別財務諸表と連結仕訳を合算したものが連結財務諸表であるという当たり前の事実を前提にすると、EXCEL簡便法で行っていたCF作成スタイルを個別財務諸表、連結仕訳に分けて適用することも可能です。
マネーフォワード クラウド連結会計では、キャッシュ・フローの基本原理を分解した要素にそれぞれ適用していくことで、キャッシュ・フロー計算書の作成方法をわかりやすく、かつ効率的に改善しました。
Step1:キャッシュ・フロー科目への変換マッピング(特許出願済み)
まず、最初にキャッシュ・フローの基本原理となる貸借対照表・損益計算書からキャッシュ・フロー科目への変換を設定します。
大量の変換設定があるとブラックボックス化しやすい部分でありつつ、キャッシュ・フロー計算書の整合性を保つためには全科目を漏れなくマッピングする必要がある、という特性を考慮して、以下のような方針としています
キャッシュ・フロー科目への設定はシンプルにする(勘定科目からキャッシュ・フロー科目への1対1変換だけ)
それでもボリュームが多い変換作業にAIを活用した一括変換設定機能をつける(特許申請済み)
Step2:貸借対照表、損益計算書からのキャッシュ・フロー科目への変換とインストラクションに従った調整入力(特許出願済み)
貸借対照表科目の増減と税引前利益をスタートにして、そこに列単位で調整を加えていくスタイルでの作成のほうが、ユーザーにとってはなじみ易いスタイルになるため、増減に対する調整列を追加していく操作でキャッシュ・フロー計算書を完成させていくスタイルになっています。
このレイアウトで簡便法の使いやすさを期待するユーザーの期待には応えつつ、粒度としては各子会社のキャッシュ・フロー計算書を完成させていくスタイルになっています。
また、セルのコメントや手順シートに記載していたような内容が、作業を進める上では決定的に重要な要素になっているため、インストラクションとして入力時に確認することができるようにしました。
これにより、「なぜ、キャッシュ・フロー調整が必要なのか」、や「整合させておくべき勘定科目」を明確にしておくことができます。作業が漏れなく実施できるだけでなく、業務の引継ぎを行う上でも重要な情報となります。
そして、実際のキャッシュ・フロー計算書の作成時には、関連する科目を見ながら調整することが多いので、関連する勘定科目の金額を確認しながら調整ができるように画面表示の内容を工夫しました。
なお、外貨の場合は、換算前金額までのキャッシュ・フロー計算書を外貨で作り、その金額をARで換算します。現金及び現金同等物の換算差額も理論値を計算してシステムがセットしてくれますので、手元での計算は不要になります
なお、キャッシュ・フロー計算の作成で気を遣うのは「整合性を保つ」ということになると考えているので、各活動のキャッシュ・フロー合計とキャッシュ金額から考えるキャッシュの増減が一致していることを見やすくしつつ、調整入力は必ずキャッシュ・フローインパクトがずれないように登録できるようになっています。(キャッシュ・フロー金額とキャッシュの増減は別々に算定していて、不整合が起きてないかは常にチェックできるようにしてあります。)
Step3:連結キャッシュ・フロー調整
連結仕訳にもキャッシュ・フローの基本原則を適用します。すなわち前期末の連結仕訳と当期の連結仕訳を比較して、BSの差額と当期の損益を個別財務諸表と同じようにキャッシュ・フロー影響額に変換します
なお、前期末と当期の仕訳がほとんど変わらないような連結仕訳はキャッシュ・フローには影響を与えません。
たとえば、資本連結などは連結範囲の変更がない場合はのれんの償却費だけしか変わらないことが多いです。
また、内部取引についても①各社のCFは総額で計上されている。②内部取引消去の影響額を連結キャッシュ・フロー調整で打ち消す という形になるので、特段意識することなく調整は完了します。
Step4:キャッシュ・フロー精算表
最後に連結精算表と似たようなレイアウトで各社の個別キャッシュフローと連結仕訳のキャッシュ・フロー調整額を並べることで、連結キャッシュ・フロー計算書の完成となります。
連結精算表と同じように、①左側に合計を記載する、②単純合算、連結仕訳を開閉することができる。③単純合算、連結仕訳クリックしてトレースできる、というような仕様は連結精算表と同じにしてあり、直感的な確認しやすさは変わらないようにしてあります。
最後に
いかがでしたでしょうか?
今回はマネーフォワード クラウド連結会計の連結キャッシュ・フロー計算書作成機能について解説してみました。
ここまで、長々と解説してきましたが、このほかにも細かい点での工夫を張り巡らせていて、キャッシュ・フロー計算書の作成業務を劇的に改善させることができる機能となっています。
キャッシュ・フロー計算書の作成業務にお悩みでしたら、下記リンクより一度弊社にご相談いただけますと幸いです。