サッカーの構造と要素について Part.3~サッカーの要素は本当に4つ?~

前回の話

Part.2ではサッカーの原理原則の解釈について書きました。特に局面構造が4つあること(基本構造・時間構造・スペース構造・力動構造)。さらに、原理原則が下の図のような階層構造になっている旨も説明しました。

図2

詳しくは下記のリンクを見ていただけたら幸いです。



サッカーの構成要素とは?

今回はタイトルに書いてある通り、サッカーの要素についてです(図に書いてある局面構造から導かれる目標・目的は、次回以降書かせていただきます)。

実際によく言われているサッカーの要素は4つありますね。

具体的には戦術・技術・体力・精神(+社会性)と言われています(実際のトレーニングを考えるときは社会性も入れていますが、今回は外して考えていきます)。

例えば、戦術はマーク、技術はパスなどと分類されています。

しかし、Part.1で述べたように、パスは本当に技術なのか?Part.2では、各局面構造で、パスやその他の技術・戦術等に違いがあるのではと仮説を立てました。

サッカーの構成要素の定義は何??

今まで、自分はこの4つに対して、特に疑問も持たず、普通に使っていました。

しかし、前にも述べたようにパスは技術なのか?など、疑問に思いました。
なぜなら上述したようにパスには戦術・体力・精神の要素も含んでいるからです。

加えて、そもそも、戦術・技術・体力・精神ってどういう関係なの?どういう意味を持っているの?という疑問も・・・

皆さんは説明できますか?

自分は・・・全く説明できませんでした。

ただ何となく感覚的に戦術や技術などの言葉を使っていただけでした・・・

では、この4要素にはどういう関係があるのでしょうか?バラバラなのでしょうか?それとも密接しているのでしょうか?


この4要素は主に球技において、個人の競技力の構造という分野に属します(Bayer,1987 朝岡,2015)。この個人の競技力とは、ゲーム状況を合目的的に解決するために個々の選手が全力を出し切って行った行為の中に示される知的な働きとその能力と定義されています。(Beyer,1987)

また、この4つの要素間の関係については、下図に示すように、ゲーム能力の前提として戦術力・技術力・体力があり、それらを精神力が支えるという階層構造になっていると研究で示されています。(Hohmann,1985)

構成要素 仮

さらにこの図を見ていただけるとわかると思いますが、技術力、戦術力、体力に関しては、体力が競技力の不可欠な基礎に位置付けられ、その生理学的体力を現実の競技に生かす手段として技術力と戦術力が取り上げられるという図式的理解が一般的です。(金子,2007)

ではその4要素の定義は果たしてどのようなものでしょうか?

戦術:最も合理的(合目的的かつ経済的)に目的を達成するために、対戦相手の行動や状況に応じて自らの行動を調整し、個人または味方と協力して行う具体的、実践的な行為であり、その行為を観察者の視点から説明するために構築された理論であり、その行為を制御するために計画された構想である。(野中ほか,2005)

かなり難解な言葉が並んでますね・・・

他には、

戦術力(村上,1981)(加藤,1993):目の前の状況を個人でまたは味方と協力して合理的に解決する実践能力。それは「解決される状況の分析」「行為(プレー)の選択」「味方との時間的、空間的調整」「動作の遂行」など、戦術行為を規定する要因が互いに関連を保ちながら発揮される。戦術力は、状況を自らの身体を動かして工夫して解決される訓練によって非言語的に、暗黙的に獲得される知的達成能力であり、大脳への中枢回路だけでは獲得できない。また、体験することなしに言語的活動だけで理解できるものでもない。

個人戦術力:相手選手と1vs1で対峙する状況を合理的に解決するために、個々の選手が行為を選択、実行していく実践的能力であり、戦術的思考力(知的・認知的要素)と技術力(技術的要素)が個人内で統合して形成された実践知である。(會田,2012)

などと定義されています。

ものによっては、戦術と技術は階層関係にあることが窺われますね。

技術:ある一定のスポーツの課題を最も良く解決していくために、実践のなかで発生し、検証された仕方(マイネル,1981)である。
技術力とは、選手が実際の運動場面で最も効果的な動きを状況に応じて適用できる実践的能力(佐藤,2017)であるが、運動の物理的メカニズムの知識を持っていることや、力学的法則の適用を図るといった内容を表すものではない。


体力:人間が様々な行動を行っていくために身体を動かす力であり、また、球技において必要な運動行動、行動体力(積極的に身体を動かすための行為)のこと。そこには一般性と専門性が存在する。(森口,2019)


サッカーに必要な専門性体力とはどのようなものがあるのでしょうか?

例:ボールを蹴る、ヘディング、ジャンプ、バックステップ、方向転換など

恐らくこの辺りと考えていますが、まだ整理し切れていませんm(_ _)m

精神➝心的・知的能力:心理的側面、認知的側面の能力を統合したもの

例えば、試合の中でラグビーの攻撃選手がフェイント動作によって相手守備選手の注意をそらし、誤動作を誘い、抜き去る場面に見られる予測力・判断力・周辺視力や、サッカーの試合終了間際で同点に追いつくチャンスのペナルティーキックを蹴る選手に求められる集中力・自信・自己コントロール能力などが挙げられます。(北村,2019)

このように定義されています。

中々難しい言葉が並んでいると思うので、自分なりに解釈すると

画像2


という風に定義しました。上記ではこの4要素は個人の競技力と定義されていましたが、サッカーはチームスポーツなので、グループ・チームも含む場合があると思います。

サッカーの構成要素は何個あり、関係性はどうなのか?


さらにこのことから言えるのはサッカーの構成要素は戦術・技術・体力・精神の4つではなく、戦術・技術・一般的体力・専門的体力・心的能力・知的能力の6つに分けられるものではないかと考えています。

ではこの6つの関係はどうなっているのか?

具体的な例を上げて考えてみましょう。


前回述べた4種類の局面構造(基本構造・時間構造・スペース構造・力動構造)を用いて、以下の場面を想定してみます。

例:ボールを保持している選手(SBと仮定)は疲労から足に痙攣を起こしている状況でのパスについて

基本構造:攻撃

時間構造:後半残り3分

スペース構造:ディフェンディングサード(サイドレーン)・

力動構造:1−0で勝っている(→目的は失点しないためにボールを失わないことをチームで選択した)が、直前に相手のプレスのせいでディフェンディングサードでパスミスが起こり2回ピンチになっている。

ちょっとその場面の図を描くのが面倒だったので、ご想像していただけると助かりますm(__)m

ではここに必要なパスの構成要素はどのようなものでしょうか?分析的視点で書いていきます(仮定なので、少し雑めに書いていますm(__)m)。

パス

戦術力(以下:戦術):ボールを保持するために必要なパス

技術力(以下:技術):近くの選手(DHと仮定)に正確に出すこと、パススピード

専門性体力:パスの蹴り方(軸足・フォロースルー・蹴る足など)
↑恐らくロングキックを蹴ることは難しいだろう・・・DHへのショートパスの判断をする(ここではパスのためタッチラインに出すなどは考えない)→一般的体力、知的能力の内容から

一般性体力:立つことすら厳しいかもしれない・・・

心的能力:時間帯を考え、ボールを失ったら失点の恐れがある。それを踏まえたプレッシャーに負けない気持ちと集中力

知的能力:相手(個人あるいはチーム)がボールを保持している自分に対してどれ程のプレッシャーをかけているか、またどこのスペースが空いており、ショートorロングパスの判断をする→しかし、一般性体力の都合上、恐らくショートパスを選択することが賢明と判断。

どうでしょうか?

ちょっと長くてわかりにくいかもしれませんが、この具体例をみると6つの構成要素は下図のように「心的能力、知的能力、一般性体力」が相互関係にあり、「戦術、技術、専門性体力」も相互関係にあると思います。また、この2つの間は階層関係にあると考えています。

つまり、「戦術、技術、専門性体力」は「心的能力、知的能力、一般性体力」が欠けていたりしたら、その力を発揮することができないということです。

完成

まとめ

今回はサッカーの構成要素について述べました。結論を言うとサッカーの構成要素は「戦術・技術・体力・精神」の4つではなく、「戦術・技術・一般的体力・専門的体力・心的能力・知的能力」の6つで成り立っているのかなと解釈しました。また、その6つの関係は階層構造と相互関係のミックスになっている状態かなと思います。

まだ自分は一般性体力の部分と専門性体力の線引きができておらず、基準が難しいのですが、現時点ではこのようになるのかなぁと考えています。


とりあえず長くなりましたが、今回はここまでとさせていただきます。

あくまで自分の解釈なので、そこら辺はご了承くださいm(_ _)m

また、まだまとまっていなく、ゴチャゴチャしている部分もあると思いますが、今後も続けて整理していければと思っています。

次回はこれらをもとに各局面(基本構造のみ)の定義ややるべきことなどについて書くと思います。

次回も読んでいただければ幸いです。


参考文献
Bayer,E.(1987) Wortetbuch der Sportwissnschaft
朝岡正雄(2015) 身体知としての技術力・戦術力
Hohmann,A.(1985) Zur Struktur der komplexen Sportspielleistung
金子明友(2007) 身体知の構造
野中郁次郎・戸部良一・鎌田伸一ほか 戦略の本質
村上陽一郎(1981) 技術を考えるための予備的考察
加藤敏弘(1993) 人間の運動と身体
會田 宏(2012)球技における個人戦術に関する実戦知の理解の仕方
マイネル:金子明友 訳(1981) スポーツ運動学
佐藤徹(2017) コーチングの招待
森口哲史(2019) 球技のコーチング学
北村勝朗(2019) 球技のコーチング学
尾縣貢(2017) コーチングの招待

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