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自宅にオフィス感を持ち込まないためのチェア選び

在宅勤務によってもたらされたもの

 コロナ禍によって、労働者にもたらされた大きな変化の一つに在宅で勤務することが選択できるようになったことが挙げられる(貴方の仕事の内容によるけれど、、)
 在宅で勤務を開始するにあたって、デスクやらチェアやらを一式揃えた方も多いはずだ。かくいう私も現場系の仕事なのに突然明日から在宅勤務せんかい、と言われて、そんな無茶なと思いながらリビング以外でのワークスペースを確保するためデスク、チェア、照明一式を揃えた覚えがある。

 しかし、適当なオフィス環境を適当に一式揃えたところで、ある考えが浮かんできた。本来、自宅とは仕事を忘れて安らげる場所ではなかったか?仕事を終えて疲れて帰って、休息を取る場所が自宅のはずだ!私が自宅に構築したそれはオフィスではないか!自宅にオフィスを作ってるではないか!在宅勤務を終えても部屋の一角が目に入ったら気が休まれへんやないか!そう思わないか、プロレタリア諸君よ!

 さて、前置きが長くなったがここからの話はそういった”オフィス感”が感じられる椅子を選びたくない人に向けての話をしようと思う。
 まずオフィスチェアとはなんぞや?というところから考えていこう。

オフィスチェアとは

 椅子は「座面」「背面」「脚」「肘掛け」のパーツで構成される。そして、多くのオフィスチェアは上記のパーツに加えてガスシリンダーとキャスターを備えている。これを服のコーディネートで置き換えると、座面+背面+肘掛けはトップス、ガスシリンダー、脚、キャスターはボトムスに相当する。
 オフィスチェアの「トップス」の部分は、下の写真のアーロンチェアに代表されるようなメッシュ素材を使用したものからレザー素材のものまで素材及びデザインは多種多様で、チェアそれぞれで大きく差異が感じられる。が、その一方でオフィスチェアの「ボトムス」に相当する部分、座面下のガスシリンダー部分からキャスターまでのデザインは、多くの椅子でその差異を感じることは難しい(それを強く意識しない限り)のではないだろうか。

アーロンチェア(ハーマンミラーHP より)

 つまり、殆どのオフィスチェアの種類の識別は、「座面」「背面」「肘掛け」の意匠によって行われ、「脚」によって識別されることはほぼ無いと言って良い。(脚をだけ見て商品名を判断出来たら、貴方はOA用品販社の椅子部門のプロフェッショナルか、オフィスチェアを心から愛するド変態だ ※褒めてます)

どちらがセイルチェアか分かりますか?(ハーマンミラーHP より)

 脚の部分にデザインが施されていないわけではないが、基本的に仕事をする時に使用する椅子であることから、着座時に足の邪魔にならないデザインとして考えられたのだと思う。
 しかしながらガスシリンダー以下の部分は僅かな差異はあれど、ほぼ同じようなデザインになっており、服のコーディネートに置き換えるなら、トップスは様々なデザインのものを着ているのにパンツや靴は似たようなデザインのものしか履いていないように思えてしまう。ガスシリンダーは黒かシルバー(多くはその2色のツートン)で統一され、他のパーツとの親和性が図られていることは少なく、採用されているキャスターも同じような規格の黒のキャスターが殆どだ。
 勿論、このデザインに至るまでに、様々な脚のデザインやキャスターの選択が検討され、量産性や採算性を加味したうえで今日のデザインに至っているのは理解している。

 その上で、現代において"オフィスチェアをオフィスチェアたらしめんとする要素"を考えた時、この脚とキャスターが大きな部分を占めていると言えるのではないだろうか。また、長時間座っても蒸れないメッシュ素材、分厚く広いクッションの座面もオフィスチェアに多くみられる仕様だ。
 よって、この記事上では世間一般の事務所でよく見られるこの2つの要素を有するチェアを一般的なオフィスチェアと定義する。

 余談ではあるが、椅子にキャスターを付けるというアイデアは種の起源を著した、かのチャールズ・ダーウィンが考え出したと言われている。自然選択による進化論を発見したダーウィンによってオフィスチェアに進化がもたらされたのは中々に面白い話である。

オフィス感のないキャスター付きチェアを探す

 ここからは上記で述べたオフィスチェアの脚の仕様を有しない、"オフィスの香り"がしないキャスター付きチェアを検討していく。
 まずは上で述べてきたガスシリンダー以下の脚はここでの定義上オフィスチェアであることから除外する。また、黒色の双輪キャスターもオフィスチェアのパーツとして使用される頻度が高いことから、こちらも候補から除外する。

"オフィスの香りがしない"キャスター付きチェア3選

No.1 PP502

greeniche HPより

メーカー:PP Mobler
デザイナー:Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
価格:高額(貴方が想像するよりも・・・)

 言わずと知れたウェグナーの最高傑作の一つであるPP502。座面、肘置き、脚部、キャスター全てに隙が無い。木のパーツ、レザーの座面とオフィス向けの要素は無いが、間口を広げた肘置き部等、現在のユニバーサルデザインに通じる座りやすそうな面構えをしている。
 お値段は敢えて伏せています。とりあえずご存じない方はPP502ってGoogleに打ち込んで検索して確認して欲しい、値段を見て買う気が一瞬で無くなるはずだから(パンピーが買える椅子一脚の値段ちゃうで、これ)
 しかしながら"ヨーロッパの最高の工場から供給されたステンレス鋼を職人が磨き上げ製作される金属パーツ"とか、"樹齢200年の樹から伐採されて2年間乾燥させた木材"を使用とか、アルチザンブランドが好きな人はコロッと騙さ・・・もとい惚れてしまうような仕様の材料を使って製作されており、優れたデザインに素晴らしい職人技が合わさった名作中の名作であることは確かである。

※ちなみにキャスターは旧モデルでは双輪のキャスターが使用されており、本記事における条件上は選択肢から外れるのですが、現行モデル(下写真)からキャスターの仕様が変更になっており、個人的には現行の方が独自性あって好みです。

DANSK MØBEL GALLERY HPより※現行モデル

No.2 カブトチェア(※ただし背面がプライウッドのものに限る)

SATOMART HPより

メーカー:天童木工
デザイナー:剣持勇
価格:ヴィンテージ価格

 剣持勇の名作カブトチェア、そのキャスター付きモデル。脚部のデザイン、キャスターともに現在のオフィスチェアにはあまり無いデザインが採用されている(キャスターは少々ちゃっちいが)。しかも高さ調整も可能、、とくれば買わない理由がない。
 購入前に注意していただきたい点として、このカブトチェアは背面がプライウッドでできたモデル(上写真)と背面含めて合成皮革で覆われているモデル等、仕様がいくつかあり、私は前者を特にお勧めする。後者は座面裏の仕上げが少々雑であり、通常使用する際には座面裏は見えないものの、ラウンジチェア等の背の低い椅子等からこのカブトチェアを見た際に座面裏の仕上げが目に入るためである。
 なお、プライウッドのモデルはなかなか中古市場に出てこないため、発見されたら早めの購入を検討されたし。

No.3 CM231 Chair

METROCS HPより

メーカー:METROCS
デザイナー:Pierre Paulin(ピエール・ポラン)
価格:99,000円(税込) ※2024年9月時点

 ピエール・ポランによるデザインのCM231。ピエール・ポランって誰?って人でも同デザイナーが手掛けたF031というデスクは一度見たことがあるのではないだろうか?
 こちらのチェア、一見すると普通のオフィスチェアっぽくはあるものの、独自性の高いキャスターに脚部のデザイン、さらに昇降機能も備えており、ガスシリンダーではなく、座面を回転することで昇降が可能になる仕組みとなっている。
 座面はレザーで、キャスターの一部を除いて全て黒色で等一されており、座面裏の仕上げも完璧(側面から見ても抜けがない)。
 ただ、この椅子は1956年にデザインされており、事務仕事のOA化やユニバーサルデザイン等は考慮・反映されていないため、長時間座るのには向いていない。

他の候補など

Maui Chair

Kartell HPより

メーカー:Kartell
デザイナー:Vico Magistretti(ヴィコ=マジストレッティ)
価格:84,400円(税込)

見た目はめちゃくちゃオフィスっぽいので、選択の趣旨から外れるかもしれないが、脚部のデザインが秀逸で、個人的にはアンスラサイト色(グレー色)の座面部分とメタル部のバランスが良く、"単体でサマ"になるチェアである。キャスターが座面と同一色であれば完璧であった(Kartellさん、なんとかならんですかね・・・)。

Jelly desk chair

SWITCH HPより

 その名の通りクラゲっぽい脚部のデザインを持つチェア。ガスシリンダーレスで、座面回転式の高さ調整のシンプルデザイン。意外とありそうでなさそうなチェア。いわゆる男前系インテリアと相性が良さそうである。

最後に:貴方はどの椅子を選ぶか

 身体に負担をかけずに快適に在宅勤務するのであれば、アーロンチェアに代表される、人間工学に基づいた高級オフィスチェアを買うべきだ。悪いことは言わない、そうするべきだ。
 ホワイトオークの無垢天板にブラックの粉体塗装の足をつけたような小洒落たデスクに、アーロンチェア、イケアでデスク用のこれまた小洒落た照明を設置すれば、おしゃれな自宅オフィス環境の出来上がりである。
 アーロンチェアは座り心地最高!むしろ自宅の方が職場より良い椅子を使えている分快適に仕事ができるぜ!(実際にやるとは言ってない)

 しかし、自宅へのオフィスチェア導入は、事実オフィスを自宅へ延長することになる。在宅勤務のみでそのチェアを使うわけではなく、仕事以外でも使う可能性があるのであれば、オフィス家具としての機能性の高さではなく、他の家具との調和やそれ単体としてのデザインも含めて検討するのが肝要ではなかろうか。たとえそれが茨の道(腰痛地獄)であったとしても。。

"(腰痛になる)覚悟"はいいか?オレはできてる

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