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アザー・サイド・オブ・運命の女に気をつけろ モリデブ日記(完全版) ~守屋俊顕、疾風の36日間~
○作品データ○
タイトル:アザー・サイド・オブ・運命の女に気をつけろ
モリデブ日記(完全版) ~守屋俊顕、疾風の36日間~
文字数:22916
舞台:日本(多摩地区まわり)
ジャンル:モリデブ小説
一言紹介:『運命の女に気をつけろ 劇団・北多摩モリブデッツ、怒涛の36日間』(ジャイブ刊)の裏側というか外伝というか暴露話というか、が
なんと11年の時を超え、満を持して登場!
9月13日 安堂って女が来た。
「おめエらブルってんじゃねえよ、みっともねエ」
オレは言ってやった。
「たかがポッと出の学生女優ごときによ! オレらと同い年だろ? ケッ、なんぼのもんじゃっつの」
だけど、オレがなにを言おうがムダだった。みんな卑屈に笑って、安堂とかいうヤツを大歓迎。オマエらアホだろ。たかが客演女優一人迎えんのに浮き足立ちすぎだってどう考えても。
読み合わせんときはまあでも、ちょっとヒビッたけど。
「だれがそんなこと言ったの? あたしが運命の女だなんて。バカみたい!」
「あんた何さま? 能ナシのゴクつぶしのクセして!」
「何度も殺されかけたわ。だけどあたしは生き延びる。だってまだ本物の男に出会ってないんだもの。弱い男は死ねばいい。あたしを所有する資格のある男なら、どんなことも乗り越えてあたしの隣にいるはずよ」
どれも、初めて言ったセリフに聞こえなかった。だけど、実生活でこんなこと言ってる女がいるとしたら……どんな女だ。
「もうよして下さい。ぼっ、ぼくにはとても耐えられません、あなたのような女(ひと)は……は初めてです」
「コゾー、てめェなに緊張してんだよォ」
オレは突っ込んでやった。コゾーは完全にアワ食ってた。ケツの青いコイツには荷が重すぎだろ。
「坊や、あたしが怖いの? バカね。今晩部屋においで……怖くなんかないのよ」
安堂とかいうヤツに、サービス精神があるのはわかった。コゾー相手になに色気全開にしてんだよと思ったけど、まあ、相当実力があるってことは認めるしかねェなと思った。踏んでる場数が違う。でも鼻持ちならないヤツじゃなさそうだ。由美といっしょになってまかないメシを準備してくれたんだけど、甲斐甲斐しかった。エプロンの似合う女に悪い女はいない、というのがオレの持論だ。
「あのさ、すごく素朴な疑問なんだけどさ。どうして、その――オレたちなんかと組んでくれるの?」
ドッヒーがアホ丸出しで訊いた。
「それは、みなさんが好きだからです。みなさんの作るものが」
安堂って女は、えらく素直な口ぶりで答えた。
「今年の初めにファンになって、そうです『バクダン横丁に日は暮れる』すごい良かったですよ! で、前の作品もビデオで見せていただいてますます好きになって。だけどすごい高度な笑いをやってるし独特なみなさんの空気感があって、あたしじゃ力不足だしカラーが合わないかなって、出られるなんてぜんぜん考えてなくて。ただのファンでいたんです。だけど鳥井さんからお話しいただいて」
鳥井の笑顔がいやらしすぎる。
「これは願ってもない機会だと思って。怖いけど頑張ってみよう、って思ったんです」
ふん……まあモリブデッツのこともホントに好きみてエだしな。
「足引っぱるかもしれませんけど、せいいっぱい頑張ります。よかったらみなさん、仲間に入れてください。よろしくお願いします!」
女はそう言って深々と頭を下げた。みんな拍手。オレはニヤつくだけ。わかったよ。ま、よろしく頼むぜ。
気に食わないのは舞い上がってるみんなのほうなんだ。
ちやほやしてるバヤイじゃねっつの。野郎ども、もっと自分に誇りをもてよ、誇りを。情けねエ。
9月18日 ヨイチと安堂ができちまった。
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