関西本線の旅
大阪から奈良、三重を通って名古屋に至る関西本線。ネット情報によればその歴史は古く、諸々の変遷を経て現在に至っている。日本を代表する大都市を結ぶ幹線でありながら、都市近郊の区間を除くと途中には山あり谷ありで単線・非電化区間もある。また亀山駅がJR西日本とJR東海の境界ともなっており、いろいろな意味で変化に富んだ路線のようである。今回は、その関西本線を2回に分けて乗車したいと思う。
出発はJR難波から
まず1回目は5月の休日。JR難波駅から草津線との接続駅、柘植まで乗車する。
朝から自宅を出発し大阪へ。大阪駅はすごい人出で、ホームからコンコースへ登るエスカレーターに乗るだけで長い行列に並ぶ。環状線乗り場の1番線に向かい、すぐにやってきた内回り電車で今宮まで。今宮から一駅盲腸のように延びた線路で10:05、出発点のJR難波駅に到着した。
JR難波駅は地下駅となっている。さほど人出は多くない。目の前のホームで出発を待っている緑色の車体の普通電車・王寺行きに乗り込む。車両はロングシートの通勤用で、平日は多くの通勤通学客でいっぱいなのだろうが、今日は車内はガラガラ。10:17定刻に電車は出発した。
10:25天王寺着。少ない乗客のうちの少なからずが下車し、車内は一層パラパラの状態になる。大阪の南のターミナル天王寺駅のホームは大勢の人で混雑しているが、郊外に向かうわが電車に乗ってくる人はほとんどない。ドア間の各ロングシートに2~3人ずつといったところか。すぐに出発し、電車は大阪東部の住宅街を抜けていく。駅間距離は短く、2~3分おきに駅に停車する。
10:35久宝寺着。ここで後発の「大和路快速」奈良行きをやり過ごす。見慣れたベージュ色の車体の電車がやってきて、すぐに去っていく。ざっと見たところ2列のシート席はほぼ埋まっている感じである。大阪から奈良方面に向かうのにはこの快速が当然便利であり、わざわざ各駅停車の電車(わが電車のこと)に乗って行く人(当方のこと)は稀有な存在。
河内を突っ切り王寺まで
10:38久宝寺を出発し、10:40八尾着。車窓は徐々に郊外の様相を呈してくる。高いビルはほとんど姿を消し、びっしりと民家が建ち並んでいる。そして家々の間には何かの工場の姿がいくつも見えたりする。河内地域の空気感を色濃く感じる。
車内には駅が近づくたびに「何々線、何々線、何々線はお乗り換え…」とアナウンスする車掌さんの大きな声が聞こえてくるが、如何せん早口で聞き取りにくい。たぶん外国人には全く理解できないだろうと推察! これ大阪人のせわしなさか。
10:46柏原着。車窓の雰囲気は変わらない。
次の高井田近くになって畑がちらほらと見えだし、やがて山間の景色となってくる。奈良を発して大阪湾に流れる大和川が線路に並行して走る。河内堅上を出る頃には完全な山間部となり、いくつかのトンネルも抜けていく。この辺りで大阪府を抜け、奈良県に入った模様。目の前に奈良盆地が開けてくる。
そして10:57、定刻に終点・王寺に到着。あっという間の乗車であった。
奈良を通って加茂まで
王寺駅は大きな駅で、何本もの線路が行き交っている。堂々たるターミナルの様相である。素早く奈良方面行きの電車が発着する1番ホームに向かう。
やがて、天王寺発加茂行き「大和路快速」が到着。乗り慣れた2列シートに腰を下ろす。座席はほぼ埋まっており、外国人グループの姿も見える。11:04出発。車窓はのどかな田園風景が過ぎていく。
11:08法隆寺着。ただしお寺の“法隆寺”はここからは見えない。
11:15郡山着。駅前には少し賑やかな町並みが見えるが、すぐにまた田園地帯となる。
11:20奈良着。ほとんどの乗客が下車。もちろん外国人グループも下車していく。奈良市の中心部は近鉄奈良駅付近だと思うが、JR奈良も駅前にはビルが建ち並び、県庁所在地の駅としての実力を見せている。
出発してすぐに、左手に国道24号が併走。何度か走った見覚えのある道である。
11:25平城山着。これを「ならやま」とは、なかなか読みにくい。何名かが下車して、車内は当方を含めて4~5名くらいとなる。
発車後すぐに京都府に入り、11:28木津着。木津駅は3つの路線が交わる分岐駅で、発車してすぐに左手に片町線(学研都市線)の線路が別れていき、すぐその後、奈良線の線路が左手に別れていく。わが電車はそのまま関西本線の線路を東に向けて進む。
ここからは単線となり、窓外には山間に畑や田んぼが点在するのが見える。そして11:35、気がつけば終点・加茂に到着した。
加茂から山中に分け入る
加茂駅は山間にあって少し寂しさの漂う駅である。ここで列車を乗り換え柘植を目指すのだが、乗り換え時間は5分しかない。何番線からの出発になるのか電光案内板を見上げた瞬間、同じホームの階段の後ろに目指す列車が停まっているのを発見。1両編成の亀山行きワンマンディーゼルカーである。
慌てて乗り込むが、車内は結構いっぱい。座席はロングシートの部分と4人掛けボックス席の部分があって、ほぼ埋まっている。ざっと見たところ40名くらいの乗客か。つり革を持って立っている人もある。
何とかボックス席の一つに腰を下ろす。
程なくして11:40、列車は出発。山中の線路の上をディーゼル音をうならせながらゆっくり進んでいく。ここから亀山までは非電化区間である。
次の笠置駅には11:49着。駅間距離が長く、ここまで約10分。ほんの1時間ほど前走っていた大阪近郊のせわしなさとは大きな違いである。何人かが下車していく。運賃は運転席後ろの料金箱に入れるようになっており、運転士さんが確かめている。ICカードも利用できるようである。
しばらく進むと、車窓からは渓谷が広がるのが見える。月ヶ瀬渓谷である。1両編成の列車といいこの景観といい、大阪を出発した頃とのギャップが大きく、とても同じ路線とは思えない。一方でこれこそが関西本線の魅力なのだと実感! ちなみにこの辺り、スマホの電波も届きにくく、アンテナが立たない。
12:05月ヶ瀬口着。すごい高所に駅がある。天気は曇。予報では雨だったが何とか持っている。ありがたい。
忍者の里 伊賀へ
12:09島ヶ原着。対向列車とすれ違う。いつの間にか三重県に入ったようである。車内は、これまでの停車駅ごとに少しずつ乗客が降りて、当初の3分の2程度になっている。一部を除いてほとんどが一人客のようである。地元の人たちに混じって観光客が少々といったところか。車内はずっと静かである。
12:17伊賀上野着。ここで多くの人が下車。代わって数名が乗り込んでくる。車内は当初の半分程度で20名くらい。隣のボックス席が空いたので席を移動する。
少し時間待ちをして、12:21出発。佐那具、新堂と停車し、それぞれで地元の人と思われる方たちが下車していく。車内は15名程度。車窓は変哲もない風景が続くが、駅の看板などから、伊賀市が忍者と松尾芭蕉で売っているのがわかる。言われてみれば、見える家並みからは忍者が出てきそうな気がしないでもない。そうこうしているうちに12:38、列車は柘植に到着した。
この列車はあと数駅先の亀山行きであるが、当方の本日の旅はここまでである。大都会大阪から忍者の里まで、住宅地あり工場あり、山あり谷ありの変化に富んだ関西本線の乗車であった。
柘植から再挑戦
2度目は9月初旬の休日。関西本線の残り区間、柘植から名古屋までの乗車を目指す。
今回は、車窓は山間の景色から徐々に都会の景色へと、前回とは逆の変化を見せるはずである。その移ろいをゆっくり堪能しようと思っていたのだが、冒頭からいきなりその思惑が外れてしまう。朝から草津線で柘植まで来たのだが、ホームには多くの人が列車の到着を待っている。前回とは少し様子が違うようである。
考えてみれば、今夏の「青春18きっぷ」の使用は9月10日までなのだが、今日はその期限までの最後の休日なのである。当方、本当は今回の乗車は前週に予定していたのだが、台風の接近で1週間延期。同じような行動パターンの方々が多いのか…、と勝手に納得する。ちなみに、話がそれるが、当該の台風時(先週のこと)には大動脈の東海道新幹線が3日間に亘って計画運休され、多くの人が多大な影響を受けられた様子…。旅客の方々はもちろんのこと、JRの関係の方々も本当に大変であったとお察しいたします。
ということで、柘植駅のホームでは多くの人たちに交じって亀山行の列車を待つ。しかし、時間になってもなかなか来ない。案内のアナウンスなども全くなく、みなさん時計を見ながらそわそわしたりしている。嫌な予感。
足を踏ん張り“東海道”を行く
8分遅れでようやく列車が到着。柘植10:40発の亀山行きである。2両編成なのだが、予想通りというか、車内は通勤電車並みの満員。通路にもびっしりと人が立ってつり革をつかんでいる。絶望的な気分になりながら前方のドアから車内に乗り込むが、入った瞬間、運転士さんの右、最前の場所に一人分立てる隙間を発見。迷わずそこに体を入れ、ポジションを確保する。「ゆっくりと車窓の眺めを…」というわけにはいかないが、列車の進行方向をつぶさに見ることができ、これはこれで最高のポジションである。
10:48柘植発。揺れる列車に足を踏ん張り、隣に立つ人と肩触れ合わせながら関西本線後半の旅が始まった。
列車は山中に引かれた線路の上を快調に進んでいく。前方にはまっすぐに伸びる線路、両側には生い茂る木々が続く。何度か短いトンネルをくぐる。左右の視界はほとんど閉ざされているが、時々山里の集落や田んぼで収穫作業中の人たちの姿が見えたりする。
11:58加太着。ここまで駅間10分。山中の駅である。
続いて11:05関着。ホームに立つ「東海道五十三次 関宿」と描かれた看板を見て、朝から通ってきた草津線沿線を含め、このルートこそが江戸時代のメインストリート「東海道」であったことに思いを来す。
乗客の乗り降りが少なからずあるのだが、何せ満員で前方の乗降口まで来るのが大変そう。そして、すぐ横にいる運転士さんは安全確認などにとても苦労している様子が見える。
亀山に到着
何とか出発。やがて山地は遠ざかり、視界に高架道路やビルが見え始める。そして11:13終点・亀山に到着した。ぎゅうぎゅうの車内からはここで解放され、多くの乗客とともにホームに降り立った。そして当方を含む多くの人が、名古屋行きの列車が発着する乗り場に移動…。みなさん「今度こそ座りたい」の一心で、とても急ぎ足である。
向かった2番乗り場には名古屋行き2両編成の“ワンマン快速”が待機していて、当方、なんとか席を確保することができた。ほっと一安心。ただし通路側の席なので外の景色は見にくい。
ちなみにJR西日本はここまでで、この先はJR東海の鉄道となる。“ワンマン快速”という呼び名の珍しさとともに、“ワンマン”と言いながら車掌さんが乗っていて車内で切符の販売などを行うシステムに少しの新鮮さを感じながら出発を待つ。
四日市の工業地帯を突っ切り桑名へ
11:24亀山発。亀山はかつて某メーカーの液晶テレビ生産で一世を風靡したが、今その工場はどうなっているのだろう、などと考えているうちに、電車は市街地の中をずんずん進んでいく。この電車、四日市までは各駅停車で、その後快速となって名古屋に向かう。車内は満員で、多くの人が立っている。
11:28井田川着。乗り降りは前の車両の1番前のドアからのみなので、当方の乗車している2両目のドアは開かない。多くの乗客が前から乗って来て、後ろの車両に移動してくる。
その後、11:34加佐登、11:38河曲(かわの)、11:43河原田と停車していくが、その度に少なからずの人たちが一つのドアから乗降するので、時間がかかっている。一方、車掌さんは切符の車内販売に精を出している。
車窓に見えていた田畑は姿を消し、やがて大きな工場の姿などが見え始める。
11:47南四日市着。日本を代表する工業地帯が近づいている気配である。電車はここで対向電車待ちをして、11:50出発。
そして、11:54四日市に到着。ここで初めてすべてのドアが開く。多くの乗客が乗り降りする。この隙に当方も席を立って、近くの窓側の席に移動。これで外がよく見える。
すぐに出発。電車はこの後、終点の名古屋まで桑名しか停まらない。文字通りの快速となって電車は市街地の中を進んでいく。窓外には多くの建物や大きな工場が次々と現れる。加えて、赤と白にペイントされた鉄塔がよく目立ち、四日市の工業地帯の中を突っ切っていることを実感する。
やがて左に近鉄電車が並走してきて、12:07桑名着。すぐ横に近鉄の駅舎も建っている。乗り降りする人多数で、車内は立ち身の人もかなり増えている。駅前の様子は窺うことはできないが、賑やか感が感じられる。出発後、車内アナウンスは「次は終点、名古屋」と告げる。
大橋梁を渡って終点名古屋に到着
出発してすぐに、電車は揖斐川・長良川、一呼吸おいて木曽川の鉄橋を渡る。“木曽三川”といわれるこの3つの大河は新幹線で何度も渡っているが、新幹線がまたぐのはここより少し上流部である。今回、河口間近の大河を見て、その川幅や水量の迫力にあらためて度肝を抜かれ、見入ってしまった。
12:18永和で対向列車待ち合わせ。すでに愛知県に入っている。窓外には田んぼが広がり、遠くに高速道路が走っているのが見える。空は一面の青空で、気温も上がっているようである。混んだ車内も少し暑くなってきた。
出発後、窓外には住宅やマンションがびっしりと立ち並ぶようになる。終点名古屋は近い。
12:25春田で再び対向列車待ち合わせ。駅名表示には「名古屋市中川区」とある。出発後は、都市高速道路や大きなマンション、また左前方に高層ビルが林立するのが見えてきたりして、大都市の気配がいっそう濃厚になってくる。そして、定刻12:35、電車は終点・名古屋に到着した。
こうして2回に分けて関西本線を制覇! 期待通りの味わい深い路線で、とても満足でした。
ただ本当のことを言うと、特に後半はもう少しゆっくりと車窓の景色を眺めたかったという気がしないでもなく、それはまたいつか機会があればということで…。