日本語字幕は全てを伝えきれていない - ビリーアイリッシュの翻訳で学んだ事
突然ですがクイズです。
「下の画像で、英語にあって日本語にないものは?」
*ヒント:SVOのどれか
正解は、「アイ/ 私」です。
主語(S)です。
(すぐに気がついた人は、映像翻訳の才能があるかもしれませんよ!)
これは、米人気歌手のビリー・アイリッシュさんがトーク番組に出演した時の動画の抜粋です。
先日この動画を個人的に翻訳して字幕をつけたのですが、
その作業の中で改めてこの違いを実感しました。
つまり、英語は「I」や「You」を省略しないのに対し
日本語はむしろ省略したほうが自然になる事です。
英語というのは基本的に、「I」や「You」といった主語をどんなに早口になっても省略しない言語なのですが、それって他の言語と比較する作業をしないと中々気がつけない事だったりします。
翻訳は、まさにその比較作業にあたります。
しかも話し言葉では、この違いが顕著に現れるので
翻訳作業をしながら、
「え、ここも主語なくても通じちゃうの?」
といった感じに、英語よりもむしろ日本語の省略できる特性に
驚いてしまいました。
ここでさらに字幕翻訳のマニアックな話に進んで行きたいのですが、
みなさんが日常的にご覧になっている海外の映画やドラマの字幕って、
本来の会話の内容の3分の1くらいは切り捨てられているんです。
控えめに言えば4分の1くらいですかね。
こちらの画像をご覧ください。
キレのいい一言で訳されていますね。
しかし、元の英語音声は
"I take this kind of thing very seriously."
です。直訳すると
「私はこう言った種類の事は とても真面目に捉えるタチなんです」
となります。
さらにそのあと。
元の英語は
"I'm not trying to shag you. Look at yourself!"
で、直訳すると
「あなたとセックスするつもりなんてないわ。自分の顔見てみなさいよ!」
となります。
ちなみにこれは「Fleabag」というイギリスのコメディドラマからの引用です。Amazonプライムビデオで観られます。
このやりとりで、合わせて3秒です。
字幕翻訳の世界では「1秒4文字」という原則があります。
これは、目で追えてかつ頭に入ってくる丁度いい分量の平均です。
このやりとりに直訳の字幕をつけた場合、3秒で58文字になります。
多すぎですね。
なので、字幕翻訳家たちは、いかにこの「1秒3文字」という制限の中で
文章の要点を伝えるか、という事に苦心するわけです。
その際にまずハジかれるのが、最初に紹介した「主語」です。
だって、なくても伝わりますから。
そしてその次に、不要な品詞や助詞(は、が、に)。
それでもダメなら、完全に意訳。
最初の例の「笑えません」なんて、とても的確な意訳ですよね。
そして、この意訳の作業の過程で、思い切って切り捨てられたさほど重要ではない情報がざっと3分の1くらいはあるというのが、僕の印象です。
僕は誰かと洋画を見るとき、その切り捨てられた3分の1の内容を楽しめないのはとてももったいないな、といつももどかしい思いになります。
かといって「ねえ、字幕では省かれてたけど、彼こう言ってたよ__」
なんて口を挟むわけにも行きません(時々やっちゃいますが...)。
だからこそ、以前投稿した記事「3つの英会話学習で陥りがちな「リスニング」の勘違い」で触れたように、こういった英語のコンテンツを共有できる仲間を増やしたいのです。
ビリーアイリッシュの字幕翻訳動画も、そんな想いからやってみようと思い立った事でした。
結果、自分の学びにもなってとても有意義に作業を終える事ができました。
もし興味が出て来ましたら、ぜひ覗いてみてください。
「ビリーアイリッシュ、自身のトゥレット症候群について語る」
それではまた。
Tetsu