小学生の頃、「まっすぐなモノ」を探してた話
小学生低学年のころ、ずっと「まっすぐなモノ」を探してた時の話
確か10歳くらいのときの話
教室の本棚
教室の後ろに、本棚があった。
そこには「漫画でわかる日本の歴史」とか「エジソンの伝記」とか教育に役立つような本がいろいろ置いてあって、自由時間に勝手に読んでいいことになっていた。
タイトルは忘れてしまったのだが、その中で印象に残っている本がある。
環境問題についての漫画だった。
川は本来曲がりくねった姿だったのに、人間が工事をしてまっすぐにしてしまったため、川が怒って氾濫してしまう、という内容だった。(うろ覚えなので細かい内容は忘れてしまった)
まっすぐなモノ
その本を読んでから、僕は身の回りのものを「まっすぐなモノ」と「そうでないモノ」に仕分け始めた。
確かに人工的に整えられた川はまっすぐで、手付かずの川はぐにゃぐにゃと曲がりくねっている。
人工的に作られた家の柱や道路はまっすぐで、山道はぐにゃぐにゃと曲がりくねってる。
目に見える物をいろいろと仕分けしてみたが、確かにこのルールに間違いはなさそうだった。
新しい法則を見つけたみたいで嬉しかった。
まっすぐなモノはどうやってできるの?
次に僕が考えたのは、「まっすぐなモノがどうやって生成されるのか?」だった。
今までと同じように、身の回りにある「まっすぐなモノ」がどうやってできるのかを一個一個考えていった。
その結果僕が発見したのが、
「まっすぐなモノは、まっすぐなモノから複製される」
という事実だった。
定規で線を引くと、まっすぐな線が引ける。
それは定規がまっすぐだからだ。
定規がまっすぐなのはなぜか。
それはきっと定規を作る装置がまっすぐだからだ。
まっすぐなものはまっすぐなものを複製してできる。
少なくともぐにゃぐにゃ曲がったものからはまっすぐなモノはできない。
家の柱はなぜまっすぐなのだろう?
それはきっと木を切るチェーンソーか何かがまっすぐだからだろう。
きっと人類はまっすぐなモノからまっすぐなモノをどんどん作り出して発展していったんだ。
こう考えると全てがふに落ちた。
僕は何だか大きな発見をした気になって、家族や先生にこの話をしたが、あまりわかってもらえなかった。
まっすぐなモノの起源
こうしているうちに、僕に新たな疑問が生まれた。
まっすぐなモノは、別のまっすぐなモノからできる。
そしてそのまっすぐなモノはまた別のまっすぐなモノからできる。
そしてそのまっすぐなモノは...
一番最初のまっすぐなモノはどうやってできたのだろう?
まっすぐな人工物はまだ別のまっすぐな人工物からできているとしても、最初のまっすぐなモノは自然界に存在していないといけないはずだ。
でも自然界にあるものは最初に言ったようにぐにゃぐにゃ曲がっている。
自然界のどこにまっすぐなモノがあるのだろう?
僕の疑問は最終的に「自然界の中からまっすぐなモノを探す旅」になった。
舗装されていない山道はぐにゃぐにゃ。
生き物の骨格もぐにゃぐにゃ。
本当に自然界にまっすぐなモノなんてあるんだろうか?
新しい法則を見つけたと思って喜んでいた10歳の僕はここでまた行き詰まってしまった。
だから、世界は美しい
僕はある時、家の中で天然のまっすぐなモノを見つけた。
蛇口をひねったとき、水が綺麗にまっすぐに下に落ちた。
見つけた。自然界の中にまっすぐな物を見つけた。
「重力で物が落ちる時」
その奇跡は綺麗に、完璧にまっすぐだった。
自然界の物理法則というのはなんて美しいんだ。
僕はまっすぐに落ちる水を通して、初めて世界を、その裏側を支配している物理法則を美しいと思った。
しばらくして、僕は他にもいくつかのまっすぐな物を見つけた。
例えば糸の両端を手で持ってピンと張る。
糸は確かにまっすぐだ。
僕が勝手に自然はぐにゃぐにゃしてると思い込んでいただけで、自然界にまっすぐなモノはいっぱいあって、そのどれもが美しく感じた。
糸をピンと張ると、糸は二点の最短距離に沿うようになる。
落下する物体も最短距離を進む。
どうやら僕が探していた「まっすぐなモノ」というのは「最短距離を繋ぐ二点」と置き換えることができそうだった。
丸いモノ
しばらくして、僕はこのまっすぐなモノの理論が球体にも適用できることが気付いた。
完璧な球体というのも人工物だけでなく自然界にもいっぱいある。
地球も月も、太陽も、見た限り完璧に丸い。
これも重力の働く物体が物理法則によって「自然と」丸くなっている。
丸い姿が一番安定しているからだ。
まっすぐなモノは美しいが、丸いものも美しい。
美しいモノ
人はイルミネーションや星空を見て美しいと言う。
僕にはあまりピンとこない。
光ってるだけだから。
美しいという感覚がまったくわからないわけではないが、うまく言語化できない。
でも、物がまっすぐ落ちるのも、月が丸いのも、僕にとってはとても美しいものに見えた。
僕は結局その後大学、大学院と物理学を選考することになるのだけど、今思えば10歳のあの頃に蛇口から落ちる水を見た時が初めて物理学に興味を持った時だったかもしれない。
ポエムのような恥ずかしい文章を書いてしまった。
終わり。
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