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Twitterイーロン・マスク騒動から見るパワーゲーム ~取締役辞退まで~

この2週間、アメリカのTechメディアの話題を総ざらいした人物がいます。
Tesla、SpaceXの代表として世界中に知られ、Twitterフォロワー数を約8,000万人抱え、現在長者番付で世界一位にもなったイーロン・マスクです。

4月に始まったイーロン・マスクとTwitterの綱引きについて、なるべく最新の動向を現地情報を中心に紹介・解説していきます。


コトの経緯

アメリカ時間の2022年4月4日、イーロン・マスクが1-4月の期間にTwitter株購入を行い、約9.2%を保持する筆頭株主になったことがSECを通じて報じられます。(その後、それまで最大株主だったThe Vanguard Groupが再び買い増し、現在は同社が再び筆頭株主となっています)


その翌5日には、同社の取締役に「就任した」と各メディアが相次いで報じました。


少し先の結果を知る現在では、メディアは完全に踊らされ、ある意味「誤報」をしたわけですが、現CEOであるParag Agrawalも取締役就任を歓迎するTweetをしています。


Twitter共同創業者の1人であり、シリコンバレーテック業界のカリスマの1人でもあるJack DorseyがTwitterの代表を降り、新たな成長戦略を模索している中での同ニュースに現地は歓迎ムード一色かというと、幕開け早々色々な問題や議論が噴出します。

問題① 株主のSEC(米国証券取引委員会)への訴え

株主の1人がSECに対して、イーロン・マスクのTwitter株式取得に違法の疑いがあり、それにより1.56億ドルを不当に得たと訴えます。

https://www.washingtonpost.com/technology/2022/04/06/musk-twitter-sec/

これを少しだけ経緯を解説します。

  1. 今回マスク氏が得たTwitter株式の合計は約9.2%

  2. 上場企業の株式5%以上を取得する場合、取得日から10日以内に公表する必要がある

  3. 今回、同氏が5%を越えたのは3月14日と言われており、3月24日までに公表が必要であった

  4. しかし、実際は公表が遅れ、4月4日になった

  5. 4月4日の公表後、Twitterの株価は約30%ほど急上昇 (取締役就任で更に+10%)

  6. 3月24日~4月4日の間にもマスク氏はTwitter株を買い増していた

訴えのロジックとしては、「3月24日に公表していたら、3/24~4/4にイーロン・マスクは実際の購入価格よりも値上がりした金額での購入が必要であり、その差額が1.56億ドルであった」というものです。

これにより、マスク氏は公表遅れの罰金を科される可能性が高いですが、上記で得た「不当利益」に比べたら微々たる額である、と一部メディアは批判しています。


問題② "Free Speech" 論争

イーロン・マスクのTwitter株式取得と取締役就任が彼の同プラットフォームにおけるプレゼンスが高まることを意味することに対し、従来メディアの一部が猛烈に噛みつき始めます。
その代表がThe Washington Postです。

https://www.washingtonpost.com/business/elon-musks-twitter-investment-could-be-bad-news-for-free-speech/2022/04/04/ab93b742-b43d-11ec-8358-20aa16355fb4_story.html

この記事、ちゃんと読むと結構辛辣で、かつ一方的な部分もあります。

そして案の定、従来型メディアとの相性が悪いシリコンバレーが反論に出ます。その主な1人がシリコンバレーVC界のカリスマで、Andreessen Horowitzの創業者であるMarc Andreessen。
同記事に対してTwitter上で、「記事読んでコーヒー吹いた」と冷笑的につぶやきます。

これにマスク氏も返信して便乗します。

The Washington Postはマスク氏のTwitterでの影響力増を「Free Speechの危機」だと報じたことに対し、上記のMarc AndreessenのTweetへの返信やRe-Tweetで「お前ら(The Washington Post)のいう"Free Speech"のどこに自由がある?」と同メディア批判が噴出します。

シリコンバレーのテック界のリーダー達は、これまで従来メディア達に独自の解釈を交えて批判的に記事化されることに以前から腹を立てており、長期の確執と緊張関係があり、自らの声で発信できるTwitterなどの新メディアを好意的に捉えていた経緯があるのですが、本件を機にこの溝が一気に深まります。

そして、イーロン・マスクのお金の問題に事あるごとに言及するThe Washington Postに対し、シリコンバレーサイドの皮肉は「お前らの身内、Jeff Bezosはどうなんだよ?」となります。
Jeff BezosはThe Washington Postのオーナーであり、(特に離婚前は)同じく超大富豪として知られてますが、The Washington Postがアメリカの富豪の税金逃れに言及する際にベゾス氏を明らかに贔屓しているとシリコンバレーは見ており、今回も度々リング外にいるはずのベゾス氏への言及・批判が起こっています。


揺れるTwitter、ブレないイーロン・マスク!?

結果論となりますが、過去の経緯を見ていくとマスク氏の取締役騒動では「就任」よりも「辞退」のほうがしっくりくる部分が多分にあります。

今年の3/16に現CEOのParag Agrawalが発言取締りを強化していく発表を出しました。これは近年Facebookがかなり米国政府から厳しい調査を受けていたり、トランプ前大統領のTwitter発言問題などを敏感に捉えた会社としての判断でした。

これがTwitterユーザには大不評で、ちょうど一か月後の4/17時点で "1,000いいね" に達していません。

これを受けてか、約10日後にイーロン・マスクが同じくTwitter上で「Twitterは今の経営方針のままでいいのか?」というアンケートを取ります。

本Tweetに対して約200万人が投票し、うち70%が "No" というTwitter現体制には痛烈な結果を突きつけました。この現CEOの発言に対する塩反応と、マスク氏に対する爆発的な反応のコントラストを受け、Twitter取締役会でマスク氏の処遇を話す場が度々設けられていたと推察されます。

そして、4/5の取締役就任発表へと至ります。
今度は23万件を超える「いいね」が付きます。

この間、マスク氏はTwitter上で「編集ボタンほしい?」とアンケートを行い、約440万人の投票と73%を超える "Yes" を獲得し、ユーザの声を味方に付けてTwitterにプレッシャーをかけます。

対して、同社コンシューマープロダクト部門のVP、Jay Sullivanが慌てて火消しを行います。

この「以前から検討中なんだ。アンケートに着想を得たわけじゃないよ」というマイルドな言及に、逆に取締役内の緊張感を感じてしまいます。

そして、4/9に取締役就任を迎えるはずのイーロン・マスクでしたがその報道はなく、4/11に皆さんご存じのアナウンスで4/4のTwitter筆頭株主を超える衝撃が世間に走ります。

次回に詳しい話を記載しますが、取締役就任要請はTwitterサイドから、そしてそれをイーロン・マスクが断った形になったと想像されます。
ここにはマスク氏の様々な思惑と計算がありそうですが、完全に肩透かしをくらったTwitter経営陣、特にJack Dorseyの後任であるParag AgrawalがTwitterファンコミュニティから同社を経営するリーダーとしての資質に疑問符を付けられたことはほぼ間違いありません。

この一連の騒動の前半戦を締めくくるのにふさわしいTweetを1つ。

フォロワー20万人強を抱えるGoogleのDeep Learningの専門家ですが、本件の本質を突いていると思います。

「かつてTwitterはイーロンが取締役に就任するのが最高の選択と考えた。今や彼の辞退は最高の選択と思っている。結局、考えが変わったのはイーロンでなくTwitter取締役会なのではないか?」


次回予告

イーロン・マスクがM&AによるTwitter株式取得に動きました。対するTwitterは "Poison Pill" という株式希釈化の手を打ってきました。今度は正当なアプローチでTwitter株式取得を目指すマスク氏に対し、うかつな手を打つと株主訴訟もありうる危険な橋を渡り始めたTwitter現経営陣。
ここを少し解説していきます。


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