非農業者である支配層は男系子孫を男系統の系譜では残せない
日本列島は狭い範囲の農業島嶼国である。
民族系統分析が卵のミトコンドリアDNAとY染色体のハプロタイプ分析により行われてきた。
その結果にはやや一致しないことがある。原因にはいくつかの要素があると考えられるが、私は農業生産力を得た子孫のみが継代をなし得た結果ではないかと思っている。
支配層の息子がそのまま支配層を引き継ぐことはあり得るが、さらに永続的に一系に引き継ぐことは不可能である。支配者の息子だからといって統治能力という社会的に獲得すべきものを引き継ぐことは相当困難だからだ。
統治能力というのは農業社会のみにおいて育まれる権能である。農業に軸足を置かなければ食糧生産の実態がわからない。食糧生産はその国の経済の基幹部分であり、それ以外の二次、三次産業は一次産業を補完すべき仕事である。一次産業こそ経済の中核なのだが、そこをおさえずに二次、三次産業に立脚して統治しようとすれば必ず食糧問題において失敗する。
貴族支配は、この失敗を繰り返してきた。どうしても貴族というのはこの失敗の罠から抜け出せないらしい。自分で食糧生産できる者のみが子孫を残せる。農業を離れた民はY染色体を残さない。
ではミトコンドリアDNAはどうか。
母親から子へと卵細胞のミトコンドリアDNAが引き継がれる。
支配者としての貴族の娘でも農業者の家に嫁ぐことはあったはずだ。この場合には貴族層のミトコンドリアDNAは一般人口を形成する大衆に引き継がれる。一方支配層の息子(男)が農業社会に溶け込むのはあまり多くはなかったと思われる。
現代でも農業社会から離れてしまった都会の若い人が農村に戻って農業社会に溶け込んで子孫を残す事は滅多にない。あっても少数派であり珍しい人だ。
都会というのはある程度までしか人口を拡張できない。都市人口を支えているのは周辺農村である。都市人口はその食生活を支える農業生産力を超えて増加することはできない。
都市住民の遺伝子というのは数世紀単位の歴史的な目で見てみれば、ほとんど継代性がない。支配層というのはいくら繁栄期を謳歌しても3世紀も経てば没落する。農業社会から離開してしまうからだ。
言い方変えれば、農業社会を農業やりながら率いている王権でもあれば、その限りにおいて遺伝子は継代されるということになるだろう。
現在日本人の若い層のほとんどが農業をやらず、都市住民となってしまった。これらの住民の遺伝子は1000年後のこの列島住民の遺伝子にはほとんど引き継がれないかもしれない。特にY染色体のハプロタイプは。