細胞記憶

陳述記憶と非陳述記憶
ことばはその多くが非陳述記憶の想起によるものであろう。これには複合された末梢の動作が伴う。
梅干を口にしたことのある日本語話者ならば、梅干を実際に口に入れなくても、そのことばを聴いただけでも唾液が分泌されるものである。これはことばと感覚質記憶がコーディング(条件付、ひもづけ)されているためであろうからその想起と副交感神経性出力もコーディングされていることを示している。(いわゆる反射でNaチャネル経路だろう。)
このようにことばというものは感覚質の想起と密接に関連していると考えられよう。(Naチャネル経路とCaチャネル経路の協調ネットワーク)
一方ある感覚質を想起または提示刺激すれば、それ以外のシグナルを脳は無視(抑制)するように作用しているようである。(おそらくCl経路:過分極)また興奮した活動細胞は窒素代謝物としてNO(一酸化窒素)を排出するらしい。こうした一種の排泄がフィードバックとして促通現象における栄養要求シグナルになっているというメカニズムも注目されよう。
これはニューロン間のシナプス伝達において促通的、興奮的であればそれと同時に樹状突起または介在ニューロンを介して抑制シグナルを別の感覚系に伝達すれば注意すべきシグナルに集中でき、それ以外をノイズとして抑えることにより目的とする感覚質を浮かび上がらせることになろう。

ニューロンは細胞である。軸索部分の伝達は中枢ではオリゴデンドログリアによる跳躍伝導や同期促通が想定されている。
シナプス領域ではアストログリアによる調節やエネルギー物質の供給による確かな伝達調整が行われていることは想像してよいであろう。
ではニューロン内部ではどうであろうか。
細胞内部のシグナルの伝達は微小管構造や原形質、オルガネラのゆっくりした移動が想像される。しかし、代謝化学的反応は多くが回路共役的であるから、それはきっちり噛み合った歯車ののように時差のない同時的な代謝の連鎖によっているのであろう。これを、連鎖性あるいは共役性分子伝達などと呼べないだろうか。
プロトンホッピングにしても連鎖代謝経路はある意味瞬間的なシグナル伝達でもありうる。そこには中途半端な介在状態(中間代謝産物の意味ではない)は存在し得ないのであろう。
ただ細胞膜における活動電位の波動的伝播はある程度ゆっくりしたものである。
終脳などの階層的ニューロンの並び構造をみると、そこには伝達の時間差があることを思わせる。
感覚質の想起がその経時的変化を反映して微分的になるのは関連記憶想起のシグナルと細胞内で干渉現象が起きると仮定すればよいのではないだろうか。勿論、数学的な微分の定義に合致しているかどうかは、わからない。
また連続的に想起がなされれば、経験の蓄積が想起され記憶の断片が集合的に理解され体系的知性や経験値というような積分的な知恵の世界を脳内に形成することも可能になろう。
この様々なシグナルの瞬時伝達性と時間差伝達性など、及び促通と抑制といったシステムによって思考は分析的になりうるのである。
 概念としては
 f(分子振動エネルギー+分子の結合の在り方による化学反応勾配、位置ポテンシャル)=f(全エネルギー)
ここでfは直交軸系を考えた時、横軸に時間および位置をとった時の変動を表すものとする。
このことは、分子に構造的なあるいは振動により定常状態からの変位が生じたとき、その元の状態へと復元しようとすることによる、波動的伝搬が結果として何らかのシグナル伝達を引き起こすのではいだろうか。さらに、感覚の伝達が起こると、そのルートにある細胞構造、主に膜に存在する蛋白質に変化の痕跡を残してゆく。そのことは、感覚の質や量、強さなどを紐づける結果をもたらす。また、他の類似の感覚が伝搬されたとき、物質構造の応答変化の程度によりその差が認識されよう。そうだとすれば、記憶のしくみが細胞膜上あるいは内部へと連絡構造を持っている蛋白質の構造変化や増産といった現象によるものであるということを示唆するのではないだろうか。
 一般に陳述記憶と言うのは言語によって説明できる記憶を指す。一方非陳述的記憶というのはことばではその通りに表現しがたいがいわゆる身体で覚えてるような記憶である。ただこの二者間に緊密な境界線があるわけではないだろう。純粋な陳述記憶というものはむしろ稀な現象であって、たいていの記憶は末梢運動への出力系を有しているため、非陳述部分をかなりの程度で包含していると考えるざるを得ない。また感覚記憶も結構自立系反射と連動している 紐付け されているものが多く全てを語れるものでもない。陳述記憶にはことば自体、概念、数理論などの記憶が該当しそうだが、ことば自体非陳述的に覚えてるわけだから厳密には陳述というのは連続的な性質を持って認識する程度のものかもしれない。要するに何と何が紐付けされているかということでその性質を表現していると考えられる。特に母語の口語というものは全く非陳述的であって口周囲の筋群が覚えていて勝手に発音してくれるようにさえ感じるものでもある。

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