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劇団時代の話その3

元ヤンの先輩が演出する芝居の稽古が始まった。その芝居の題名はなんと『ドリーミング』……。

当時の学生劇団は下北沢を中心にした小劇場ブームに乗っかって、作劇方法などもそれに習うところが多かった。

元ヤン先輩は、白井晃さん高泉淳子さんらを中心に人気を博した、遊◎機械/全自動シアターという劇団にあこがれていて、彼らが採用していた(と彼は言っていた)作劇方法に則って、舞台作品を作ろうとしていた。

それは『エチュード』つまり、即興で物語を紡ぎ出す方法で、脚本を使わずに、場面設定と時代設定を決め、各俳優に性別、年齢、容姿、などざっくりとしたキャラクター設定を与えると、後は
「自由に喋って」
「好きに演じて」なのである。

たとえば……「場末のスナック、開店前、化粧をしている五十代のママと、最近入店したばかりの大学生の女の子トモちゃん。この子は、常連の不動産屋社長のおじさん、シゲさんに狙われている」と、そんな設定を俳優に与える。で、俳優たちは演出家の「はいっ!」という号令で、その瞬間から五十代のママや、大学生のトモちゃんになるのである。「心と性差の準備が……」と躊躇する時間はない。とにかく喋って、会話して、物語を進め、次第にキャラクターに深みをつける(瞬発力が大事なので、深みは必然後付けになる)。
つまり鶴瓶さんの番組『スジナシ』だ。あれをただひたすら何本もやるのだ。
するとそのうちになんとなく面白い会話が生まれたり、魅力的なストーリーが立ち上がったりするのである。そしてそれを台本に反映して、一本の舞台作品に仕上げる、そんな作劇方法が『エチュードで作っちゃうタイプの演劇』なのだ。


 この方法、短時間で沢山のキャラクターを演じる事が出来るので、俳優にとっても『ひきだし』、つまり演じられる役の数が増えるというメリット(?)もある。幅も広がる。
時には「むっちゃ元気な老婆」とか「綺麗な毒虫」とか「体が痒くてたまらないという新機能を搭載されたロボット!」とか、それ、これからの俳優人生で必要か? と、そんな突拍子もないキャラクター設定を与えられる事もある。それでも「はいっ!」と言われたら「ムッチャカユイデス!」としゃべり出さなきゃ始まらないので、引き出しは否応なく増えるのである。

ちなみに私、今までロボット役なんて演じた事などないので、いらない引き出し作っただけなんですけどね。たた、場末のバーのオネエママなら演じた事あるので、あながちムダとも言えないのも事実!

そうして私は、次第にこの『エチュード』にのめりこんでいくのです……。

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