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アラフィフ育児 ケース3「一緒に寝てくれない」 〜寝るまで居てくれと言うくせにだけどここでは寝ないでくれというムスメの理不尽な言葉にショックを受けるもいびきはなくならない切ない話〜

45歳で第一子を授かった。47歳で第二子が誕生した。
そして今、池田テツヒロ、50歳。
目がかすみ、耳が遠くなり、人の名前がすぐに出なくなり、夜中にトイレに起きるし、お酒を飲むと疲れる始末。
上のムスメは5歳。下の娘は3歳。
ムスメが成長すると私が老いる。当然も当然の話。だけどああ、お願いだから、父をもっと労って、ムスメ達よ!

いびきをかくようになってしまった。
きっと太りだしてからだ。

太りの原因はまあ、暴飲暴食運動不足なのだが、引き金は、ドラマ『医龍4』出演に向けて、田中監督が「太って貫禄つけてきてください」と仰ったから。そう私、貫禄ないの。皆無。

で、それから私は、毎日ご飯を大盛りにして、ビールを思う存分に飲んだ。楽しい日々だった。
毎日シメにラーメン食べていた。最高だった。

しかし、思ったほど太らない。
体重は80㎏手前でピタッと止まった。
簡単な話だ。貫禄つくほどに太るには、もっと食べなきゃならんのだ。泣きながらちゃんこを流し込む力士のような、そんな食生活にしないとダメなのだ。楽しいでは済まされない、辛い増量の現実。

誰かが言ってた。痩せるのは簡単、太るのは大変。
いやまあ、どちらもかなり大変なんだけど、確かに太るの、かなり大変。
クリスチャン・ベール様や鈴木亮平氏、恐るべし!

結果、私は中途半端な『エセ貫禄』をつけて撮影する事になった。
きっと監督も残念に思ったに違いない。

そして撮影が終わった。
さあ、もうやせていいのだ。エセ貫禄を捨てて、身軽になっていいのだ。

ところが、今度はやせられない。

身体が「これ以上はダメってブレーキかけたけど、その手前だったらまあ、よくない? 大盛りにしちゃう日々、楽しかったじゃん?」と、そこ(その体重)を安住の地にしてしまったのだ。

かくして私の標準体重は78㎏になってしまった。

それからだ。
バスでうたた寝していたら、爆音で目覚める。その音の正体は自分のいびきなのだ。

起きた瞬間に見た、他の乗客の「お疲れなのね」といった憐憫のまなざしが忘れられない。むしろ「うるせえなあ」と蔑んで見てくれていた方がありがたいほど、同情の心が痛かった。

いや、そんなに疲れてないの。喉のあたりのお肉がだぶついただけなの。

そして、夜中に恐ろしい夢を見て、目覚める事が増えた。
飛び起きると、心臓がバクバクと鳴っている。
もしや、と病院で診てもらった。

診断結果はそう……無呼吸症候群だった。

そうして私は毎夜、シーパップというマシーンとつながって寝ることになった。

このマシーンは無呼吸症候群の治療には不可欠で、呼吸を止めないように、強制的に空気を鼻に送り込んでくる最先端なマシーンなのだ。
その風量たるや、
「どけどけどけい! 火消しの纏がお通りだいっ!」
ってな勢いで、閉じようとする鼻腔や口腔の肉ひだを、無理矢理にこじ開けてくれるのだ。

強制鼻呼吸。よって、いびきをかく暇がない。

だけどこいつがまあ……なんというか、せつない。
見た目がもう、せつない。
無呼吸って立派な病気なのだから、治療にカッコいいもなにもないのであるが……まず見た目がせつない。

頭にヘッドギアみたいなものをつけて、鼻にホースがついたカップをあてて寝なきゃならない。

当時二歳のムスメ曰く「ぞうさん?」である。
そうそう、パパはぞうさんになって寝てるのよ。鼻からたくさんの空気を吸って眠るのよ。

で、朝にその「ぞうさんパーツ」を外すのだが、頬にバンドあとがついてしまって、昼までとれない。

撮影現場で「なんのあと?」って共演者から聞かれちゃうほど。
役者失格だよね。

それにこのマシーン、毎日のメンテナンスも大変。

保湿用の水を入れ替えたり、ホースを洗浄したり、呼吸データをどこぞのセンターへ送らないといけないので、ネットにつながないといけなかったり。

そして、このマシーンがないと、すぐさま無呼吸に戻ってしまうので、地方の仕事にも持っていかなくてはならない。

たとえば舞台の地方公演にも持って行く。1.5㎏ほどの重さの精密機器を、トランクに入れて運ばなくてはならないのだ。
どこにでも着いてきちゃう束縛系の女かよ!
ふたつの意味で重たいのである。

このマシーンにうんざりした私は、依存関係を解消すべく、ジムに通ったり、食事制限をしたりして(シメのラーメンやめた程度だけど)、なんとか75㎏にまで減量した。体重はたいして減っていないが、筋肉量が増えたのだろう、医者からも「改善されたっぽいね」というあやふやな診断をいただいて、俺は重たいマシーンと縁を切ることに成功した。

無呼吸は治った。
でも、まあ、いびきは相変わらずかくのだ。こればっかりは、なかなか治らない。

次に私は、枕に頼る事にした。

皆様は「枕難民」という言葉をご存じだろうか? 自分にぴったりの枕を求めて、いくつもいくつも枕を購入してしまう人の事をそう呼ぶのだそうだ。
かくいう私もそのひとり。

今まで買った枕は、十はくだらない。
低反発、高反発、タオル枕、ジェル枕、パイプ枕、フレイク枕、整体枕……。
熱かったり、冷たかったり、低かったり、高すぎたり、ガサガサ言ったり、寝返りうてなかったり……とまあ、どれもこれもしっくりこなかった。

これまでは。

ところが先日、しっくりきた枕と出会った。
なにが良いって、いびきをほとんどかかないのだ! 

私はスマホのアプリで毎夜のいびきを録音しているのだが、まー静かなもんだ。依然と比べたら凪。ベタ凪。

ちょっと高さがあって首が痛いけど、それも微調整できるところがいい。なんと言っても、洗える! 最高だ。

そうしてようやく静かな夜を迎えた私なのでした。

枕だけに、前置きが長くなりました(うまくねえよ)。
ようやく本題。

私のムスメたちは、私のいびきにキビシすぎる。
そのキビシさたるや、「えほんよんで」と言ったくせに「でも、ここでねないでね、いびきうるさいから!」と、こんな感じ。

最高の枕は、自分の部屋にある。
単にムスメたちを寝かしつけるためにちょっと横になっただけなのだ。だから枕は部屋から持ってきていない。

ベッドサイドストーリーを語らされて、ちょっとでもウトウトしてしまうと、やっぱりいびきをかいてしまう。
すると、「パパ! いびきうるさい! じぶんのベッドでねて!」
と怒られる。

なんだよもう! キビシーよ! 

あ! しかも! そうそう! 
絵本読んでくれって言ったにもかかわらず、ムスメの布団に横になると「おふとんがつめたくなくなる!」と怒られるのだ。なので私は布団と布団の隙間に挟まるような格好で横になり、絵本を読むのだ。

なんだよもう! セツネーよ!

最近は、夜中まで起きていられない。歳だから。
30代まで、執筆はかならず夜中にしていた。
夜明けの太陽を見てから寝るという日も多かった。
なのに今はもう、夜の十時には眠くなるのだ。徹夜なんてムリ。できる気がしない。歳だから。

なので、三歳と五歳のムスメより、先に眠くなっちゃうのだ。
そして、布団の隙間に挟まって、絵本を読みながらウトウト寝落ちしてしまう……と、「じぶんのベッドでねて!」と怒られる。

寝入りばなに、怒られて、起こされて、しかも隙間で無理な体勢で寝ているから、腰痛めるし(ケース1参照のほど)、暗い部屋をムスメの足と妻の足を踏まないように歩くのも、なかなかに見えにくくて大変だし(ケース2参照のほど)。なんかもう、「やれやれ……」なのだ。

そして思う。

むかし、女だらけのハーレムに憧れたことがあった。

だけど現実はこれだもんね。

女たちに「いびきうるさい」って言われて、すごすご部屋に逃げ帰り、ベッドに潜り込んで「やれやれ、やっといちにちが終わったわい」と寝る生活がリアルなんだもんね。

俺が思い憧れたハーレムは、こんなんと違っ!!!

やれやれ、おやすみなさいませ。

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