暴走する妄想:午前0時の街、時代おくれの酒場にて
Chapter 1
新宿三丁目を過ぎ、車内放送が小竹向原から西武線内は快速急行になることと、池袋駅に着くことを告げたところで目が覚めた。
膝に抱えていたリュックから水筒を取り出し、ほうじ茶を飲んで大きく深呼吸をする。ほうじ茶は、退社前に会社の給茶機で補充しておいた分だ。少し寝ぼけた頭と、乾いた身体には良くしみる。
ネックストラップでカッターシャツのポケットに入っているスマホを取り出し、広告だらけのLINEを全部既読にして、スパムだらけのメールを削除する。
そんなことをしているうちに、電車は小竹向原を過ぎて新桜台から地上に上がり、車内放送がまもなく練馬駅に着くことを告げた。練馬駅からバスに乗ろうか、そう思って手帳からバスの時刻表を確認すると、練馬駅から中村橋駅、鷺ノ宮駅を経由して荻窪駅に行くバスはすでに終バスが出た後だった。
練馬駅の隣のホームには、池袋から来た清瀬行きの各駅停車が止まっていて、快速急行が動き始めたのと同時に複々線を走り始めた。電車の中は、どこか寂しげな顔や、疲れた顔をした人ばかりだ。
化粧のはげかけたシティ・ガールと 、見苦しい独りぼっちのおやじの集団…。
今日は金曜日だというのに。
そんなことを考えながらドアのところにボーっと立っていると、次が中村橋だ。
中村橋駅から、アジト最寄りのバス停までのバスは日付が変わるころぐらいまであるので、大丈夫だ。本数も10分間隔以内であるので便利だ。
駅の外に出て、バス乗り場でバスを待つ。
電車から降りてきた人がそのまま乗るせいか、バス停で立っている人もどこか寂しげな顔や、疲れた顔をした人ばかりだ。
そこに鷺ノ宮駅、阿佐谷北六丁目、日大二高前経由の荻窪駅行関東バスがやってきた。
押し込められるように乗り込み、座席の最後部、一番左端に座る。
程よく人が乗ったところで扉が閉まり、片側一車線の中杉通りを、バスはゆっくりと進んでいく。車内放送が、次が鷺ノ宮駅であることを告げた。
誰かが降車ボタンを押し、バスから降りた。西武新宿線の踏切が下りていたので、僕もあわてて降りる。
僕の足は、中杉通りから少し入ったところにある、隠れ家のようないつもの小料理屋に向いていた。
人生経験が豊富なママさん姉妹と、それぞれが連れ込んだ板さんが供してくれる優しい和食と、美味しいお酒で、残業で疲れ、汚れてさみしくなった心を癒してもらおう。
そう思って暖簾をくぐると、「お帰りなさい」「お、久しぶりじゃん」とママさん姉妹が声をかけてくれた。
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