またね、ベッカーズ
2023年11月22日水曜日。
ハンバーガー・チェーン店である「Becker's」の柏店が閉店。
これを持って全店舗が閉店し、「Becker's」は消滅する。
ベッカーズはマクドナルドといった低価格帯の商品を主力とした大手ハンバーガーチェーンと異なり、クオリティの高さを売りにした商品が多く存在した。
また、関東のJR駅構内や周辺に店舗を構えたことで通勤・通学利用者に利用され続け、根強いファンを生み出した。
そんなベッカーズはコロナ禍の客足減少による売り上げ減少と最近の原材料費高騰の影響を受けて、運営のJR東日本クロスステーションが柏店の閉店をもって撤退することを決定した。
ベッカーズの閉店はとてもショッキングなものだ。
特に最後の店舗となった柏店には個人的な思い入れがある。
ベッカーズの思い出と最後のベッカーズでの食事を中心に記事を投稿したい。
ベッカーズと出会った2015年
2015年の春。私は田舎から出てきて、東京都内の会社に就職した。
当時、会社の寮が柏駅から一つ隣の北柏駅近くにあった。
東京近郊のことなど一つもわからないままにやってきた私は、毎日の慣れない仕事と新生活に適応できずにやられていた。
そんな日々を過ごしていたとある金曜日。
仕事で疲れたままに常磐線快速で柏駅に到着、北柏へ向かう各駅停車が10分以上来ないことを知った。どうしようかと駅構内をうろついていると木目調の壁が印象的なベッカーズの存在に気づいた。
その時まで柏駅構内に飲食店があることさえ知らなかった。
店内をガラス越しに覗くと、仕事終わりの人々がハンバーガーを食べながら自分の時間を過ごしていた。
レストランのような雰囲気ながらもドア横にあるのはハンバーガーの写真。マクドナルドのように人の入れ替わりには激しさがなく、落ち着き払っている。
自分が抱いていたハンバーガーショップの常識とは違う道を進むベッカーズがそこにあった。
自分へのご褒美に
そのまま吸い込まれるように、店内へ入り込んだ。その時に注文したのは「デミたまバーガー」だった。
語彙力が無くて申し訳ないが、とにかく美味しかった。
大手の出すハンバーガーとは違う味が印象的だった。
忙しなく動き回る世間と喧騒な駅構内から一歩外れて食べるハンバーガー。
疲れ切り、社会人になりきれていなかった田舎者には沁みる美味しさだった。
その後は海上自衛隊が金曜日にカレーを食べるかの如く、毎週の金曜日にはベッカーズを食べることが習慣化した。
慣れない仕事をやりきった自分へのご褒美のようなものだ。
注文するのはいつも、「デミたまバーガー」と「フレーバーポテト・チーズ味」そして「ペプシ」だった。
駅構内にあるからか、ベッカーズは待ってくれている。そんな気がした。
閉店はショックだった
ただ、その後に私は仕事の関係でJR線を利用することは減少してしまった。
毎週金曜日のベッカーズへ行く回数も減少した。
それでも当時は無くなると思ってもいないので、積極的に行こうともしなかった。
その後のコロナ禍となると、数ヶ月に一度という状態になった。
仕事場に行くことはあっても、外食の機会は減る。そして、例外なくベッカーズに行く機会も更に減っていく。
今思えば、この時期の影響がベッカーズの歴史に幕を降ろさせるきっかけとなってしまった。この後悔は拭うことはできない。
そして、不意に来た閉店のニュース。純粋にショックだった。
閉店まで残り少ない日にち。
最後に食べたい。思い入れのあるベッカーズを食べずして終わりを迎えることはできない。
私は最後のベッカーズを食べに向かった。
11月21日。私にとって最後のベッカーズ
11月21日、火曜日。
閉店が翌日と迫った日、私は平日休みを利用してベッカーズへ向かった。
JR柏駅の中央改札からすぐの所に「Becker's 柏店」がある。
そんなベッカーズの前に行列が出来ていた。
一度も入り口から人が溢れ出ているところを見たことは無かった。その光景だけで根強いファンがいることがわかる。
10時45分ごろに行列に並ぶ。その時点では10人近くが並んでいて、時間が進むにつれて私の後ろに人の列が伸びていく。
ベッカーズは閉店に際して、「ラスト・ベッカーズバーガー」を最後のバーガーとして発売。
ポテト・ドリンクセットを注文するとクリアファイルが貰えるということだったが、配布は残念ながら終了していた。
閉店ということもあってか、ラスト・ベッカーズバーガー以外の商品は発売休止となっていた。閉店へのカウントダウンを思わせた。
店内は閉店だからといって、特別何かあるわけでもなくいつもの雰囲気であった。ただ、人によってはラスト・ベッカーズバーガーセットを2つ注文する男性や持ち帰りの紙袋をパンパンにするぐらいに注文する女性がいて驚いた。
列に並んで10分程度で私の会計となった。
そんな私も例に漏れず、ラスト・ベッカーズバーガーを注文。
ポテトはいつも食べていた「フレーバーポテト・チーズ味」に変更。
もちろん、ドリンクはペプシ。
最後の機会ということで、フライドチキンも単品で追加した。
座席は横に目を向けると精算機や中央改札が見える場所にした。
私が初めてベッカーズで食事をした時の座席でもある。
その席で、ラスト・ベッカーズバーガーを口にした。
バンズやパティの味がデミたまバーガーの味に近くて、胸が締め付けられた。フレーバーポテトの味も変わらない。食べていく毎に、懐かしい記憶がぶり返す。
上司に怒られた日に食べた時の記憶、同期と笑い話をしながら食べた時の記憶。
もう少しで涙腺が崩壊しかけるところだったが、なんとか踏ん張った。
見慣れた店内も11月22日の閉店をもって見ることはできなくなる。
そう思うと、自分の記憶も無くなってしまうような気がして侘しくなる。
ポテトもバーガーも、ペプシも飲み切った瞬間。その時の喪失感は経験したことがないものだった。
またね、ベッカーズ
後ろ髪を引かれる思いで店を出ると、最初の何倍もの行列ができていた。
この日の夜は、その行列がさらに伸びたという。
ベッカーズでの思い出は閉店によって、全て触れられない過去の記憶となる。
2015年に出会ってから変わらない店内の装飾と看板。
写真にあるようなベッカーズの看板が外されると、無くなったという事実を突きつけられることになるのだろう。
看板や掲示物を写真に収めて、柏駅を後にした。
週末の予定を立てる時に、付き合ってくれてありがとう。
仕事の辛さに打ちひしがれて田舎に帰ろうかと思っていた時に、寄り添ってくれてありがとう。
さよなら、ベッカーズ。
またね、ベッカーズ。