研究の記述
実は、このサクラダイの研究に踏み出す前に、ある方との約束で優先しなければならない研究論文の執筆があります。できれば、5年以内に仕上げなければなりません。それ以上かかると無意味かと言えば、そうではありませんが、いろいろな事が色褪せてしまいます。なぜなら、その研究も10年以上の歳月にわたって携わり、それゆえ集約する資料も膨大で、加えてそのある方はすでに退職されてしまい、その資料の管理をしている手前、私がやる必要があります。
もちろん、自分の専門の研究もありますので、それをお休みして、没頭するわけにもいきませんから、ことは一筋縄ではいきません。
それはTTX(テトロドトキシン)つまり、フグ毒に関する研究です。
ケミストリー(歌手じゃなく)は専門外なので、毒そのもの云々の研究ではなく、生息環境や索餌行動の観察、サンプリングや潜水計画などが私の専門分野に該当するので、そこを中心に毒化や原因餌生物などに迫るストーリーを考えています。
記憶と記録をたどってゆくと、2008年に東海大学海洋学部で開催された日本水産学会の春季大会で三保半島沿岸に生息するトゲモミジガイの索餌行動に関する口頭発表をしているので、その数年前からこの研究に入っていることが推察されます。この当時は、遡ること20年ほど前に清水で起きたボウシュウボラによる食中毒(TTX由来)事件をヒントにトゲモミジガイに着目して研究をしていました。患者の胃内容物からTTXが検出され、フグを食べていないのに何故TTXが出てきちゃったのだろうか、から始まり、ボウシュウボラの中腸線からトゲモミジがが見つかり、TTXを持っているトゲモミジガイをボウシュウボラが食べたことにより毒化して、それを食べた人が食中毒になったということが分かりました。では、なぜ?トゲモミジガイは食中毒を起こすほどのTTXを持っていたのでしょうか。また、それはボウシュウボラと同じようにTTXを保有している生物を索餌していたからでしょうか。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shokueishi1960/30/6/30_6_518/_pdf
本題に入る前に、少しだけこの研究に入るエピソードを振り返りたいと思います。それは、生物は何故?毒を持つかという事です。これは以前、吉野雄輔さんという著名な水中カメラマンが主催する「豪海倶楽部」と言うサイトで執筆していた時にも書いた事ですが、ここではもっと研究者寄りの内容を述べなければいけないと感じています。
https://www.gokaiclub.com/2011/05/tetsu/1514
サイトのバックナンバーを今一度読み返してみると、まだ当時は研究者という立場であるよりも、水中を案内するガイドという立場でモノを言っているようで、今の自分ではとても怖くて言えないような事にまで言及しています。確かに、言葉の切れ味が鋭く、しかも楽しませようと話を盛っているので、現在の奥歯にモノが挟まったような表現ではありません。(恐い!恐い!)
毒の定義は、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」。つまり、過剰な状態になれば、悪影響が顕著になってくると言うものです。ある一定の条件を踏み越えなければ、毒も悪性新生物も悪さをしないのです。アンダーコントロールの状態であれば、それは人類の対峙する最悪の物質と同じように、私たちに害をなすものにはならないのです(もちろん、全てを同列には考えておりません)。