レンテンヤッコ
これまで三保真崎で観察しているキンチャクダイ科の魚は、キンチャクダイを筆頭にアブラヤッコ、シテンヤッコ、ヒレナガヤッコ、そして昨年のソメワケヤッコに続いて、今年の7月に観察したのがレンテンヤッコになります。
ラインナップの大半は、いわゆるダイバー的には「季節来遊魚」と呼ばれる南方からの流れもので、一般的には「無効分散」つまり、起点となるエリアから拡散して、たどり着いた場所で生き残ることが不可能であることから、このように呼ばれております。
この季節来遊魚は最近の傾向という訳ではなく、私がスクーバダイビングを始めた40年前には既に認識されていたと思います。もちろん、この太平洋の黒潮をベルトコンベアーに例えた海洋生物の移送は、日本にスクーバダイビングが導入される遥か昔からあった訳ですから、人が認識しているとか、していないとかに関わらず、量や種の大なり小なりの変化はあったとしても普遍的に行われてきた海洋生物の拡散形態であったと考えます。
ではなぜ今になって、このような掘り起こしの記述を残す必要があるのかと言えば、この十数年の間で私が観察してきた季節来遊魚の種や出現月に変化を感じるようになったからです。もちろん、トピックと思しいピーク値となるような種も含まれておりますので、詳細を示すのではなく、ここではあくまでも肌感覚のレベルの話になります。
この話に関する記述は、以前にカシワハナダイでも行いましたが、ハタ科のハナダイだけでなく、観察個体数の少ないキンチャクダイ科においても書くことになるとは思いませんでした。
これは、アクアリストのみなさんの感覚に近いものを感じながら、自分の魚に対する嗜好性の延長線上にあるダイバー目線の記述の他ならないのですが、私はキンチャクダイ科の中でも小型のCentropygeが大好きなのです。なので、アブラヤッコが三保真崎に現れた時は水中で狂喜乱舞しました。
このアブラヤッコ属のKeyhole Angelfishは、中央にある白い横長の斑紋の形状が「鍵穴」に見えることから英名を付与されています。しかしながら、和名の油奴に関しては、裏付けるような記述が確認できないため、憶測の範囲を出ません。推察は2つあり、1つは他のキンチャクダイ科の成魚では考えられないように全身が黒いので、精製されていない油に喩えそれを由来としたことと、岩の隙間を「たゆたゆ」と見え隠れする様をその由来としたことが考えられますが、和名を提唱した当時に後者のような観察が水中であったかどうかを考えると黒=油ではないかと思う次第です。
余談ですが、ここ三保真崎では過去にセダカヤッコが観察された事例もあり大型のヤッコが観察された記録が残っています。
話を元に戻しましょう。
これまでに三保真崎で観察したキンチャクダイ科の魚は、普通種であるキンチャクダイの数が圧倒的多数で、以下、アブラヤッコが12個体、シテンヤッコが13個体、ヒレナガヤッコが2個体、ソメワケヤッコが3個体です。これは、私の観察した個体数であって、生息の実数ではありません。これに、今年Japanese Angelfishの英名であるレンテンヤッコが加わったことで、この記述をすることとなりました。
この話には、結論はありません。結果に基づいた考察はできますが、それは諸条件の経過に伴うものでしかありません。また、違う種からのアプローチで同じような記述がここに記載されるかもしれませんが、その時はまたお付き合いをください。