現代文の読み方、解き方、教え方⑧ 論理的文章を「蟻の目」で読む(導入部)
大学入試で使われる文章の多くは、論理的文章だ。大学で読むことになる文章の多くが論理性を重視したものだから、当然といえば当然のこと。
またその問の多くは、段落ごとの要旨や重要部分の定義など細かいところを正確に文章にすることを求めてくる。だから、「蟻の目」で文章を読む力をつけなければならない。いやはや。
Ⅰ. 「蟻の目」で文章を読む・概論
「読む」という行動は、筆者が「書く」という行動を逆になぞっていくものだと考えてほしい。
筆者には、伝えたい核がある。「この文章で何を伝えたいか」ということだ。しかし、突然それを人の目にさらしても、誰も見向きもしない。読んでくれたところで「ふぅーん」でおしまい。「なるほど、確かにその通りだなぁ」とはならない。
だから、どう書いたら読んでもらえるか、同意してもらえるか、納得してもらえるかを考える。どのような順番で、どのような例を使って、どのような論を組み立てて書けば、どの語を使えば、自分の論を読者に伝えることができるか、目前のPCのモニターを睨んで、それを読んでくれるあなたのことを考えて悩んでいる。できれば、伝えたい核だけではなく、それに対している自分の揺れも感じてもらいたい。
そこに文体が生まれる。文体は、筆者の個性だ。何度かお目にかかったことがある相手であれば、「あーっ、この人はこういうリズムで、こういう論理で世界に対している人だったなぁ」と思うこともできるが、初対面の相手だとちょっと面食らったりもする。
その文体の個性を感じながら、筆者の「書く」行為を、逆になぞっていく。何をどのような順番で並べているのか、どのような例で何を伝えたかったのか、この語を使うことでどんな効果を求めているのか、そんなことを整理しながら、筆者の「書く」ことのスタート地点にあった、伝えたい核にたどり着く。
そのためにはどうしても、「蟻の目」が必要だ。
Ⅱ. 導入部を読んでいく
読み始めは、とにかく「テーマ」がどのように設定されているかを探す。導入部の一番大切な役割が、テーマの提示だからだ。あとはそれを補強する要素(テーマ設定の理由や、それがどのような意味を持つか、どのように論を進めていくか)、などなどが書かれているはずだ。
大学入試に使われる論理的文章は、そのために書かれたオリジナルではなく、他の文章から切り取ってきたものだ。だから、論文の構成そのままに書かれているとは限らない。それでも、論理的文章の一節を切り取ってきているのだから、その構造は同じだ。「どこを切っても金太郎」の金太郎飴と同様、どこを切り出しても論理的なのが、論理的文章というものだ。
もちろん、結論が最初に提示される場合もある。これも、「その結論に至る」ことがテーマだととらえればいい。さて、それでは具体的にどうやって「蟻の目」で導入部を読むか、について書いていこう。
Ⅱ. ⅰ 「蟻の目」で導入部を読む
道具は、鉛筆一本。あとは問題用紙と消しゴムだけなのだから、できることは限られてくる。重要な部分に傍線を引く。それだけだ。しかし、その際の注意点がいくつかある。
・ 傍線は短く、適確に。
…… 「重要部に傍線を引いて」と指示すると、だらだらと長い傍線を
引く生徒が多い。傍線は、できれば単語、あるいは短いフレーズ
にとどめ、その関係は単語間を結ぶ傍線や記号(矢印や両矢印、
等号など)で記したい。
・単語間の関係性を可視化する
…… 上に書いた単語間に記す傍線や記号のことだが、一目で分かるよ
うにしたい。もちろん自分が分かればいいのだから、独自な記号
でいい。
・重要度が一目でわかるようにしておく
…… ここで以前に書いた「鳥瞰する力」が生きてくる。文章全体の中
で、その部分の重要度が、
① メインの話題か(テーマに直接関わる部分か)
② サブの話題か(メインの話題を直接、補足説明する部分か)
③ サブのサブの話題か(サブの話題を、補足説明する部分か)
のいずれであるかが、分かればいいだろう。導入部であれば、テ
ーマの提示は①、テーマ設定のいきさつや理由、あるいはその目
的などは②、さらにその説明部分は③、という感じだ。
Ⅱ.ⅱ 「蟻の目」で導入部を読む際の注意事項
① 本文全体の中での役割を忘れないこと
くり返し書いているように、導入部の最も大切な要素・メインの話題は、テーマが何かということだ。しかし、テーマを提示するだけでは、誰も興味を持ってくれない。だからテーマを決めた理由や、そこに至るいきさつ、それがどんな役に立つのか、どのようにそれを深めていくのか、などなどが序論には書き込まれている。それを整理して読むことが大切だ。
② 目を引かれる部分、興味深い点にそそられないこと
しかし、そのテーマがいつも読者の最も興味を引く点だとは限らない。筆者が導入の単純なフックとして使った部分に注目したり、例証に使った部分が一番大切だと思ったりする。
論理的文章の読解の過誤は、そのような主観的な読みから生まれることが多い。人は、自分が理解できるところを大切にしてしまう。だから自分がよく理解できたところこそが、大切な部分だと思いたくなってしまう。
冷静に、導入部を解体し、それが本文の論理の中で(つまり序論の中で)、メインの話題か、サブの話題か、サブのサブの話題か(Ⅱ. ⅰの①②③)に腑分けしながら読む。それが(たぶん)、論理的に読むということだ。
Ⅲ. 導入部を「蟻の目」で読む
導入部を「蟻の目」で読み、それを整理すると、
A 本文のテーマは何か。
B テーマに付随するあれこれ。
…… テーマ設定の理由やそこに至る過程、今後の論の展開など。
C 本論(第一パラグラフ)部分の予告。
のような内容となるだろう。もちろん、さまざまな文章があるので、特にBやCの部分は個性的な広がりがあるはずだ。
しかし、どのような文章であってもAが書かれていないことはない。そのテーマ(問題提起)こそが、本文を読んでいく唯一の羅針盤である。
テーマが明確になれば、何も恐れることはない。論理的文章を読み進めていこう。