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地べたからの言葉 木村充揮の「歌い言葉」
風くんの曲かなぁ、でも坂本九さんや美空ひばりさんの「歌い言葉」についても書きたいなぁと、ぼやぼや考えていました。
そこに、唐突に、キム兄(お笑いのかたではなく)の声が聞こえてきたのです。「オレの声を忘れとるちゃうか」という、あの天使のダミ声、狆くしゃ顔で歌う、憂歌団の木村充揮兄です。「あーっ、すんません、すんません。そんなわけではないのです。もう別格すぎて忘れていました」、「忘れとるんやないかぁ!」。
脳内で、一人ノリ突っ込みを済ませて、憂歌団のCDを引っ張り出してきました。申し訳ないことに、2枚しかありません。「2枚しかないんかい! それも1枚は、コピーやないけ!」。脳内キム兄は、いつも元気です。
言い訳をさせてもらうと、彼のCDは、ライブの記憶を反芻するためのスターターの役割ですから、そんなに必要ないのです。「うまいこと言いおってぇ。お前、そんなにライブにも来ぃへんやろがぁ!」「はいはい。その通りです。脳内キム兄、ちょっと静かにしといてもらえませんか。お願いですから。話が先に進まなくなります」「そこまで言うんやったら、しゃあないなぁ」。
地べたという言葉を聞かなくなりました。剥き出しになった地面を目にすることが少なくなったからでしょうか。ぼくらはアスファルトに覆われた道を歩き、コンクリートに包まれて仕事をし、生活をしています。街路樹の埋め込みや花壇でわずかに見る以外、土を見ることすらありません。
そんな中で聴く歌も、造りあげられたものたちが多くなりました。脳内で作られた歌たち。生活の息吹を排除し、プラスティックな空間を作ることに忙しい、創作物めいた歌たちが闊歩しています。それはそれで素敵ですが、恋愛の物語も仮想空間での出来事のような、いやらしさも、生臭さも、妬みもそねみも感じられない唄たちになってしまうことに、ちょっと淋しさを感じます。
わたしゃビルのおそうじオバチャン
わたしゃビルのおそうじオバチャン
モップ使って仕事する
(Words by木村充揮・沖てる夫「おそうじオバチャン」)
唄ってのは、もっとすぐれて人間の行いであるはずです。だらしなくて、どうしようもなくって、ぐずぐずウダウダしている、公園でぼんやり空を見ているおっさんの心に流れている唄。トイレ掃除のオバチャンが動かす、たわしのリズムにのった唄。そんな唄もあるはずです。
こんなわたしもユメはある
こんなわたしもユメはある
かわいいパンティはいてみたい
きれいなフリルのついたやつ
イチゴの模様のついたやつ
黄色いリボンのついたやつ
アソコの部分のスケてんの
私のパンツはとうチャンのパンツ
(同上)
化粧することを覚えたら、すっぴんでは恥ずかしくて歩けなくなると言います。でも、そんな彼女は、いつもすっぴんを認めてほしいのかもしれません。キム兄に笑われてしまいそうです。
どんな人にも人生があり、どこにも豊かな味わいがあることをキム兄の「歌い言葉」は教えてくれます。
表通りの理髪店から
沈んでゆく夕陽が見える
店の主人は仕事をやめて
お客は長い長いため息
サンセット サンセット サンセット
サンセット サンセット サンセット
ごらんのとおりさ
夜があけたらすぐにたそがれ
熱いタオルを頭に巻いて
ラジオに流れる甘いメロディ
もつれほつれた恋の糸さえ
クシとハサミで解きほぐす
(words by 康 珍化「サンセット理髪店」)
おそうじオバチャンにも、床屋の親父にも、等しく豊かな生があり、人生があります。
おまえに恋して
俺の心はボロボロ
割れたガラスのように
なってしまったのさ
あの頃知らずに
生きていたこんな淋しさ
知らないままでずっと
いられたらよかった
胸が痛い 胸が痛い
心が張り裂け
そうだよ
胸が痛い 胸が痛い
せつな過ぎて
うずくまる
(words by 康 珍化「胸が痛い」)
キム兄の「歌い言葉」は、地べたの唄です。地べたから見れば、お金持ちも貧乏人も、美人もそうでない人も、子ども老人も、「みんな同じようなもんやでぇ」と伝えてくれる「歌い言葉」です。
海を見ていると 君のことを思い出す
振り向きざまの あの笑顔 この胸に広がる
楽しい楽しい日々の つらく切ない日々を
君と共に暮らした日々を 忘れられない日々を
CHE SARA CHE SARA CHE SARA
今日の一日を 雨の日も 風の日も CHE SARA
夢の中行き交う 今日もいろんな人が
争うことなく暮らせるように 共に暮らせるように
CHE SARA CHE SARA CHE SARA
君の一日を 雨の日も 風の日も CHE SARA
CHE SARA CHE SARA CHE SARA
巡る季節の中を 前を向いて歩いてゆく CHE SARA SARA SARA
CHE SARA CHE SARA CHE SARA
今日の一日を ふれあい わけあい 愛し合う CHE SARA SARA SARA
(日本語詞 木村充揮)