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世界中の誰も知らない町を、世界中のみんなが持っている
昨夜、久しぶりにあそこの夢を見た。
誰にもあると思うのだけれど、夢のなかで何度も訪れている場所。おなじみのところなので、細かな地形や人々の暮らしや町の様子なども熟知している、あの場所の夢。
夢のことなので、あまりよく覚えていないし、そんな場所が全部でいくつあるかはわからない。ぼくが今、すぐに思い浮かぶのは二つ。その一つが昨夜の夢の舞台だ。夢のなかで「あぁ、久しぶりに帰ってきたなぁ」なんて思っている。最初のうちは、それが夢だとどこかでわかっているのだが、夢が進行するうちにどんどんリアルになっていき、目が覚めた時に「いったいここはどこだ?」と、いつもの部屋を見回してしまうような夢。
そこは、日本であれば稚内から雄武町にかけてのオホーツク海沿岸地域、イギリスであればスコットランド東岸地域みたいなイメージ。空気がしんとしていて、人より牛の数の方が多い広い土地に、小さな町が点在している。その三か所か四か所を巡りながら、夢は進んでいく。
町の間には、日に何本かの列車、あるいはバスが走っており、ぼくはいつもどちらかに乗っている。なぜかはわからないが、いつも何かに急かされていて、でも小さなトラブルが起こって、その地の滞在を余儀なくされる。急かされているんだけれど、そこに滞在できることをすごく喜んでいて、帰りたくないなぁとどこかで考えている、そんな夢だ。
昨夜の夢では、バスに乗っていた。海沿いの町に向かうバスだ。空いていた後部座席に向かっていると、右手にふっと誰かがいたような気がして、ふりかえった。そこに47年前に分かれて以来、一度も会ったことのない人がいたような気がしたんだ。目が合った瞬間に、何かが伝わった。でも、47年も会っていないんだから、その人である確証はない。ただ一番後ろの座席に座って、見慣れた窓外の風景を(でもちょっとドキドキしながら)楽しんでいた。
同じ町で降り、なんかいろいろ起こって、まさにその人がその人であることがわかる(でも夢だから、このあたりの進行はとてもいいかげん)。別れ際に電話番号を伝え(なかなか自分の電話番号を思い出せなくて夢のなかでやきもき)て、また会えたらいいねと別れた。
列車は見慣れた風景の中を走る。
で、目覚めて、まず「電話番号を間違えて伝えてしまった!」ことに気がついた。教えたのは家の電話と携帯番号がぐっちゃになった番号だった。あー、何とかして連絡しなくちゃ。「電話番号を間違えてたよ、ごめんね。正しい番号はこれだよ」。でもどうすればいいだろう? 小一時間、そのことばかり考えていた。
世界中の誰も知らない町、ぼくしか知らない町で起こったできごとだ。
きっと世界中のみんながそんな町を持っているんだろうな。