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元気な毎日は良質の睡眠から 【よい生活リズムのために 1】

最近の乳幼児のライフスタイル

 働く母親がふえるにつれ、乳幼児のライフスタイルもずいぶん変わってきています。

 最近の乳幼児の生活時間はどうなっているのか、婦人之友社 乳幼児グループ(詳細はページ下部)会員の皆さんの成長記録から統計をとりました。すると、夕食は19〜19時半が最も多く、就寝時刻は21時頃、中には 23時近くという遅いお子さんもいました。一方、起床時間は 6〜7時ですから、親の生活状況が如実に反映されていると感じました。

 睡眠時問は個人差があり、「何歳だから何時間眠らないといけない」という規則はありませんが、日本人は子どもも大人も世界的に見て、睡眠時間の少ない国民であることが以前より指摘されています。

生活リズムはいつから?

 覚醒と睡眠は、脳の中にある体内時計によってコントロールされています。体内時計の周期は24時間と10分で、何も調整しないと毎日10分ずつ地球の自転からずれていってしまいます。時計の周期を地球の自転の24時間に合わせるには、朝の光を浴びることが必要で、浴びることにより無意識に時計はリセットされ、地球の自転に同調します。

 新生児は短い周期で覚醒と睡眠をくり返しますが、生後 1カ月を過ぎると体内時計が機能し始め、眠っている時間、起きている時間が徐々に長くなっていきます。そして生後 3カ月を過ぎると、体内時計の地球に同調する機能が発達してきますので、この頃から生活リズムを整えることが必要になってきます。

 朝ぐっすり眠っているからと、部屋を暗くしたまま起こさないでいると、体内時計がリセットされず、就寝起床時間はどんどんずれて遅くなってしまいます。

睡眠にかかわるホルモンいろいろ

メラトニン
 睡眠には体温、自律神経、ホルモンなど、さまざまなものがかかわっていますが、その中のひとつにメラトニンというホルモンがあります。

 メラトニンは眠気をもたらすホルモンで、日中はほとんど分泌されず、起床後14〜15時間後、暗くなると分泌されます。生後3カ月まではメラトニンの分泌量が低いのですが、3カ月を過ぎると分泌量が増加します。メラトニンには放熱作用もあり、体の深部の体温を低下させることにより入眠を促します。赤ちゃんが眠くなってくると、手足が温かく感じられることがありますね。これは、深部体温を下げるために手足から熱を放散させているからなのです。

 メラトニンは光の影響を強く受けるため、目から入った光刺激は分泌を抑えてしまい、眠れなくなってしまいます。夜遅い時間にスーパーやコンビニでの買い物、テレビの視聴、スマホやタブレットでの動画の視聴などは、メラトニン分泌を抑制し、就寝時間を遅くしてしまいます。最近では寝かしつけにスマホやタブレットを利用するという話も聞きますが、まったくもって寝かしつけには逆効果です。それに何か寂しさを感じてしまいますね…。

成長ホルモン
 体を成長させるだけではなく、疲労回復に大きな役割をもつのが成長ホルモンです。

 睡眠中に分泌されるのは周知の通りですが、入眠後、最初の深い眠りの時(入眠後1〜3時間)に分泌量がピークとなります。ただし、睡眠時間が長ければ長いほどたくさん分泌されるわけではありません。また、睡眠後すぐに起きてしまうと分泌は少なくなりますが、その分、日中に分泌されるようになるため、睡眠時間が短くても、途中で起きても、1日の総分泌量は変わりません。

 多くの親御さんが心配されるような、睡眠時間が短いと身長が伸びないということはなく、また、睡眠時間が長ければ長いほど身長が伸びるわけでもないのです。

睡眠が短いといけないわけ

 動物はなぜ眠るのか。もちろん眠くなるから眠るのですが、眠ることにより脳を「育てる」「創る」「守る」「修復する」ためです。また記憶は、睡眠で増強すると言われています。

 大人のデータですが、連続17時間起きていると、課題対応能力が洒酔い運転レベルまで低下すると言われています。睡眠不足は注意、集中力、意欲の低下、疲労、落ち着きのなさなどを招きますので、眠ることは健全な覚醒状態を維持するために不可欠なものなのです。

肥満との関係

 肥満は体質の影響もありますが、過食、運動不足に加えて睡眠不足も、肥満の一つの原因になります。睡眠不足が続くと、体が慢性のストレス状態になります。その結果、交感神経系の緊張が高まり、血糖値が高い状態になりやすいのです。また、グレリンという食欲増進作用のあるホルモンの分泌が高まるなども、睡眠不足による肥満の原因と考えられています。

食事との関係

 睡眠は、脳の安静と同時に体の安静のためでもあります。夕食後すぐに寝てしまうと、胃腸が消化のために働いているので、胄腸の安静がとれません。また胃腸が働いていると深部体温が下がりにくく、眠りが浅くなることもあります。離乳が完了する1歳半〜 2歳以降は、できれば、夕食後から就寝まで 2時間はあけたいところです。

子どもには良質の睡眠を

 私もそうでしたが、子どもを保育園に預けていると、帰宅途中に買い物をしたり、帰宅してから食事の準備中にテレビを見せたりすることもあるでしょう。また、夕食から就寝までの時間も短くなりがちです。そして、出勤のために、朝は早く起こさなければなりません。

 子どもが、できるだけ質のよい睡眠をとれるよう、次のことを工夫してみましょう。

・タ食が遅い時は、おじややうどん、煮物など、消化のよいものにする。
・タ食中のテレビは消し、その後もテレビなどの視聴は必要最低限にする。
・子どもの就寝までは、親もできるだけスマホやタブレットを見ない。
・食後は部屋をやや暗めにする。
・絵本の読み聞かせや子守歌で、少しでも穏やかな時間を持つ。

 「寝る子は育つ」という意味は、眠ると成長ホルモンが分泌されるからではなく、よく眠った子は日中元気に活動し、たくさん食べ、心身共に健康に育つということだと思います。

 忙しい毎日ですが、せめて週末だけでも早寝、早起きを実践してほしいです。

若江恵利子(小児科医)
出典:『乳幼児だより』第686号 2019年8月 

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