夢幻星#16
唇を離すとお互いに相手の顔を見る事ができなかった。
お互いが並んで同じ方向の夜空を見上げ、星を眺める。
特別星に詳しいわけではない俺は、オリオン座くらいしか分からない。
でもまぁお互いに星言葉が名前の由来になってるんだよな。
そういえば真珠っていう星言葉ってなんだろう?
俺は気になってポケットからスマホを取り出した。
真珠さんは変な星言葉だったら嫌だから知りたくないと言っていたが、親が自分の子供に変な星言葉の名前をつけるはずがない。
Googleの検索画面を開き、星言葉について検索しようとした時、
「あっ流れ星」
真珠さんはそういうと俺の肩をバンバン叩いてきた。
ちょっと痛ぇって。
「ねぇねぇさっき流れ星流れたよ!願い事し損ねた〜」
そう言って額に手を当てて天を仰いでいる。
いちいちリアクションが大袈裟である。
ん?流れ星?そういえば。
俺は検索画面に途中まで打ち込んでいた『しんじゅ』という文字を消し、流星群についてググった。
あぁやっぱりだ。最近ニュースで見た記憶があった。ちょうど今の時期は、やぎ座流星群が極大を迎えると書いてある。
「真珠さん朗報だ!今日は流れ星がたくさん見られるかもしれない」
「え?ほんとっ」
子供みたいな笑顔で真珠さんはこちらを振り向く。
「うん。やぎ座流星群が極大を迎えるんだって。しかも速度が遅いからゆっくり見られるでしょうだって」
まじ!?みたいな表情を一瞬俺に見せた後、真珠さんは星空を食い入るように眺め始めた。
俺はそんな真珠さんをiPhoneで動画に収めることにした。
2、3分経った頃だろうか、静寂の中真珠さんが声を上げた。
「わっほんとに流れた」
「今度はちゃんとお願い事できた?」
「いや、完全に油断してた。次こそは」
そう言うと、またしても星空を食い入るように眺め始めた。そんな姿を動画に収める俺。
側から見れば完全におかしな人たちに見えるかもしれないが、これが俺たちカップルのあり方だ。
「あっ来た」
スマホの画面の中には、目を閉じて必死に流れ星に願い事をしている真珠さんが写っている。
多分願い事を言うには完全に間に合っていないけれど、必死に願い事をしている姿が愛おしくてしばらくその姿をスマホの画面に収め続けた。
それにしても願い事長くねーか。どんだけ欲張りなんだよ。
俺は真珠さんへと向けていたスマホの画面を星空へと向けた。
もうとっくに流れ星なんて流れていない。
それにしてもほんとこの場所は星が綺麗に見えるな。こんな場所が広島にあったのか。
スマホの録画画面越しに星空を見ていると、またしても流れ星が流れた。
そしてそれは1つではなかった。
1つ2つ3つ。
次々と流れ星が流れてくる。
気がつけば俺はスマホの画面越しではなく、自分の目で無数の流れ星が流れる星空を眺めていた。
あまりの光景に2人とも無言で星空を眺め続けた。
流れ星が流れ始めてから2分ほど経った頃だろうか、
「わぁ凄かったね」
最初に言葉を発したのは真珠さんだった。
その姿を見るだけで興奮しているのが伝わってくる。
そりゃあれだけのものを見たら興奮するだろう。
「すげーな。こんなことってあるんだね。どう?今度こそお願い事できた?」
「うん。めっちゃお願い事した」
そう言うとクシャッとした笑顔を俺に向けてきた。
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