夢幻星#4
真珠は1人電車に揺られていた。
美咲から
「急にバイトに出なくちゃいけなくなった」
と連絡が来たのは朝の10時だった。
本来なら今日は美咲と一緒に宮島に行くという約束だった。先日MuGiという人が作った動画を見た後、2人して宮島に久しぶりに行ってみようという話になったのだ。
だけれど結局美咲は来れなくなってしまった。1人になったので行くのをやめようかとも思ったけれど、せっかくの1日休みだし1人でも行くことにした。
宮島なんていつぶりだろう?
電車の窓に頭を付けながら外を流れる景色を見つめぼんやりと考えていた。
今日は休日だからかやけに人が多い。宮島に近づくにつれ人がどんどん多くなっていく。
さすが宮島と言ったところか、外国人の顔も増えてきた。
イヤホン越しにかすかに聞こえたアナウンスの
「次は宮島口」
という声に席を立ち、ドアの前まで移動する。
宮島口駅を降りると、昔のかすかな記憶を頼りにフェリー乗り場へと向かった。今日はやけに天気がいい。雲ひとつない晴天だ。
フェリーを降り、宮島に降り立つと早速しかが真珠を出迎えてくれた。
スマホを取り出し早速一枚写真を撮った。我ながらなかなかいい写真が撮れたと思う。
「美咲がいれば写真撮って欲しかったなぁ」
そんなことを考えながら宮島の奥へと歩みを進めた。
久しぶりに来た宮島は案外楽しかった。相変わらず揚げもみじは美味しかったし、厳島神社は迫力があった。たくさんの写真を撮ったし、満足がいく休日を過ごせているような気がする。
来た時は大勢の人で賑わっていた宮島もこの時間になると、人影もまばらになってきていた。
海沿いをしばらく歩いていたが疲れてきたので、塀に腰を下ろした。
スマホを取り出し今日撮った写真を見返した。
今日だけで何枚の写真を撮ったのだろう?しばらくスマホのアルバムを見返した後、この海を背景に写真を撮って欲しいと思えてきた。
せっかく宮島に来てこんなに素敵な場所なのだから、それを背景に写真が取りたいと思うのは自然なことだ。
なによりインスタ映え間違いなしだ。
「はぁ美咲がいればなぁ」
真珠はため息をついた。美咲がいれば写真を撮ってくれるように頼めるのに、、
私1人しかいないから見知らぬ人に声をかけて撮ってもらうしかないじゃん。。
そんなことを考えながら真珠は立ち上がり、海辺を歩き始めた。
しばらく歩いていると三分前の私と同じように、海辺の塀に腰を下ろしてスマホ画面を眺めている男性が視界に入った。
男性の周りに人はいない。どうやら男性は1人なようだ。
真珠は声をかけるのはあの人しかいないと直感で思った。
真珠は男性に近づいた。男性は相変わらずスマホに視線を落としている。こちらの様子に気がつく気配もない。
真珠は男性の前まで行くと、思い切って声をかけた。
「すみません」
緊張からか少し声が震えてしまった。男性は少しビクッとした様子で顔を上げた。その顔はとてもびっくりした様子で、口が半開きになっている。
それもそのはずだ。顔を上げると見知らぬ女性が目の前に立っているのだから、びっくりしないわけがないだろう。
びっくりさせて申し訳ないなと思いながらも、声をかけた勢いそのままに男性に要件を伝えた。
「すみません。写真を撮ってくれませんか?」
そう言って手に持っていたスマホを男性の方へと差し出した。
男性はびっくりした表情を笑顔に変えて
「あ、はい」
といい、スマホを受け取った。
いい人でよかったと心の中で安堵しながら、男性がさっきまで座っていた塀に入れ替わるようにして腰を下ろした。
海を背景に写真を撮ってもらい、満足のいく1日になったぁと思っているときに男性が左手に持っているものに目がいった。
真珠はそれが何かすぐにわかった。
スマホジンバルだ。
スマホで動画を撮るときなどに手ブレを抑えてくれる画期的なアイテムだ。
「動画撮ってるんですか?」
そう聞かずにはいられなかった。
「これが何か知っているんですか?」
男性からの問いかけに、もちろんですと答えた。男性は少し驚いた様子で、今日宮島に1人で動画撮影に来たこと、趣味が動画制作だということを教えてくれた。
動画の話をしているときの男性の顔は最初のびっくりした顔と違ってものすごくイキイキしていた。まるで子供だ。
この人は本当に動画制作が好きなんだなぁ。一体どんな動画を作っているのか真珠は気になってきた。
「どんな動画を作っているんですか?よかったら見せてください」
そうすると彼は目線をスマホに落とし、指で数回画面をタッチした後スマホ画面を見せてくれた。
そこには過去宮島で撮影したという動画が流れていた。
「え、この動画って。すごい。。」
その動画は美咲と一緒に見た宮島の動画だった。
あのとき素敵な映像だと思っていた動画の製作者「MuGi」がまさかの彼だった。
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