思いついたままに書き綴る千文字小説

『声の行方』

「あの! わたし……は……っ」

まただ、また最後まで言えなかった。
私の声はいつも途中でどこかに行ってしまう。
こんなんじゃ……いつまでたっても……
もっとがんばれ! がんばって声を出すんだ私!

いくら心のなかで励ましても、私の声は形をなさずに消えてしまう。

「今日もだめだったねぇー。紬(つむぎ)」

茶化すように声をかけてきた彼女は友人の叶(かなえ)

「またあしたもがんばぁー、はっはぁー」

これは彼女なりの励まし方。
不器用だけど、心底優しい叶
私はそんな叶を一番の理解者だと思っている。

「ほーら、おいてくぞぉー」
体ごと振り返って私のことを呼ぶ

「待ってよぉー」
何事もなかったように接してくれた叶のおかげで、私は今日も元気に過ごせそうだ


「あの! わたしは……あの……!! つ、つむ……」

今日もだめだぁ!!
いつものように声がどこかに行ってしまった。

ヘッドホンつけている相手に話かけても、聞こえていないんだろうけど……
ただそれでも私は話しかけたい。

大好きな先輩に……私のことを知ってもらいたい。
気づいてないし、迷惑じゃないよね……?
でも、もし気づいていて……面倒だからって無視されていたら?

「おっ! 今日もダメだったかぁー紬ぃー」

この豪快な態度には本当に救われる。
私の小さい悩みが更に小さくなって、消えていく。
叶には本当に感謝だなぁ……

「でーもさぁー、今日は惜しかったねぇー! 『つむっ』まで言えたのに!」
「明日は『ぎっ』って言えるんじゃない?」
「すごいじゃんかぁー! 一年間、声をかけ続けた結果だね」

励ましているのか、貶しているのか、よくわからない励ましのおかげでまた明日も頑張れそうだ。


「あの! わたしは……つ、つむ……」
ダメだ! また言葉が……ダメだ!絞り出せわたし!!
「ぎいぃ!」
言え……た……??

「ははっ」
あれ? 今笑ったのは、叶?
ううん、叶はまだ少し後ろを歩いてる……
じゃぁ……

「かなりぎこちなかったけど、よく言えたね。えらいえらい」
ヘッドホンを外しながら微笑みをたたえる。

「えっ……? あっ……?」
声にならない声が私の意思を無視してこぼれてくる。

「ごめんね。実は全部聞こえてたんだよ」
「最初は変な子だなって思って無視してたんだけど……」
「毎日がんばって声をかけてくれるからさ、聞こえてないふりをしながら応援してたんだ」
「なにはともあれ、これからは普通に話しかけてね? つむぎちゃん」

笑顔で私の名前を呼んでくれたことがすごく嬉しかった。
私の声はどこかに行ったけど、ちゃんと先輩に届いていたんだ。
その事が嬉しくて、嬉しさのあまり叶に抱きついて喜んだ。

え? なぜ私がずっと先輩にって? ふふっ……それはぁー
ひみつですっ!

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