思いついたままに書き綴る千文字小説
2021/01/26
空が真っ赤に染まり、雲が焼けた。
一瞬の出来事だった。
その一瞬が、私達、人類の生活を大きく変えた。
『西暦3167年』
ちょうど今から167年前
西暦3000年に起きた大規模な災害
未だに解明されていない謎の現象が私達の空を焼いた。
そう、文字通り空だけが焼けた。
「そらー、ご飯よー」
美味しそうな匂いと共に母親の声が私を夕食へと招待する
読んでいた本を名残惜しそうに閉じて本棚へと戻す。
「ふぅっ」と現実へ戻るため息をついてから「はーい、少し待ってー」と返事をした。
一度頷いてから自室を飛び出し一気に階段を駆け下りた。
その勢いで大げさにリビングの扉を開け「おまたせっ!」と母親の前でポーズを決めてみた。
「まーたあんたはおかしな事して……今度は何? 戦隊モノ?」
呆れ顔で行動の元ネタを探ってくる。
いつものことだし、興味はないのだろうけど、これを聞くのが恒例になっている。
答えるでもなく「ははっ」と笑ってから椅子へ腰を下ろす。
知らない人が見れば、かなり失礼な行為だろうけど、私と母親に限ってはこれが丁度いい距離感だった。
これを私が説明したところで母親はわけのわからない話を聞かされているとうんざりしてしまう。
一方私は、興味のない話を聞かされてうんざりしている母親にうんざりしてしまう。
そんなことを繰り返しているうちに私達は、この失礼な行為が正解だとわかったのだ。
母親が二人分の食事をテーブルへ置く。
私の目の前に置かれたオムライスは一人では食べ切れないほどの大盛り、こんなご時世によくもまぁこんな贅沢ができたものだ。
「今日はお父さんと……空の命日だからね」
そう、毎年決まってこの日はお父さんの好物だったオムライスが大盛りで出てくるのだ。
今日で167回目の命日。
あの日お父さんは空が燃えるのを食い止めるため、自ら燃え盛る炎の中に飛び込んだのだ。
未熟だった私は、自らの領域、『空』を支配して火を消すことが出来なかった。
結局あの災害で私のお父さん『雷(ライ)』、『雨』や『雪』その他にも多くのモノがなくなった。
多くの犠牲に守られて生き残った私は自らの領域を失い今は人間界で『そら』として生きている。
私に唯一残っている力、それは物語に登場する人物の力をしばらくの間借りられることだ。
本来の私の力は天を統べるほどの力だったと聞いているけど、空がなくなった今、私にこの力があるだけで奇跡らしい。
ちょうどさっき読んだ本で私は知ってしまった。
私からお父さんと空を奪った者の正体とその狙いが……
私は絶対に許さない、自らの地位のため、私達の天空に手を出した地海の神々を!