気まぐれ小説『入会試験その1』
あなたはご存知だろうか?
ある裏路地の高架下にひっそりと佇む会員制のBARがあることを……
一部のオカルトマニアの人達からは聖地と呼ばれているほど怪しい場所だ。
外見はいたって普通のBARなのだが、そこを訪れるお客たちが奇妙なのだ。
ある人は両手いっぱいのひまわりを抱えていたり、ある人は服の着ていないマネキンを抱えていたり、その他にも様々なものを抱えて入っていくお客たちが目撃されている。
このBARの名前は『ホエールミラ』特に変わったというほどでもない。
有ってもおかしくない名前だ。
しかし近所の住人からは持ち込み寺という名前で呼ばれている。
嘘か真かこの店に何かを持ち込んだお客は二度と店から出てこないらしい。
言われてみれば……私も店から出てくる人を見たことがない……
店の周りで見るものといえば、噂を聞きつけて集まってきた、物好きな見物人か、何かを抱えて店に入っていくお客だけだ。
店内では何が起きているのだろうか? どんな人がこの店のオーナーなのだろうか? どんな意図で、お客達はこの店に様々な物を持ち込んでいるのだろうか……
この店に対する興味は膨れ上がる一方だ。
この店について調査を続けている中で、この店に近づけるかもしれない情報を手に入れた。
約11ヶ月に一回、この店は会員を募集するそうだ。
募集と言っても大々的に行われるわけではなく、この情報を手に入れたものだけが会員になるための試験を受けられるというもの。
情報を手に入れるところから試験は始まっているのかもしれない。
私はその情報を手に入れてから、取り憑かれたようにホエールミラのことばかりを考えていた。
仕事も手につかず……大好きだった趣味の読書も久しくしていない。
永遠とこの店のことばかりを考えて日々を過ごした。
そしていよいよ、その日がやってきた。
私が持つ中で一番高級なスーツを身に着けてホエールミラへと向かう。
緊張のせいか……いつも見ているはずの景色が全く違う景色に見える。
足取りが重い……
ダメだ、私はこの日のために全てを投げ出したんだ……
私にはもう後がないのだから……
そう考えながら歩いているうちにホエールミラと書かれた看板の下まで来てた。
ゴクリと唾を飲み込みお店に入ろうとしたその時
「あぁ、あなたはもしかして、うちの会員希望者かな?」
扉を開けて私に声をかけてきたのは白髪交じりの初老の女性
すごく優しそうな方だった。
まさか……この人が店主なのか?
「え、えぇ……」
間の抜けた返事をしてしまった。
初老の女性はニコリと笑みをこぼしてから「さぁ、お入り」と私を招待してくれた。
つづく