限界自治体の今後の在り方(NHK党浜田聡参議院議員のお手伝い)
今年(令和6年)1月に起きた能登半島地震から半年が経ちます。特に被害が大きかった地域は珠洲市、輪島市、能登町、穴水町、志賀町、七尾市です。3月に石川県は復興プランの具体策の検討に入りましたが、石川県内では仮設住宅の建設が進む一方、4月30日の時点で4606人が今も避難所での暮らしを余儀なくされています。珠洲市と輪島市を中心におよそ3780戸で断水が続いていることから、自宅に戻ることができない被災者も少なくありません。
石川県は「必ず能登へ戻す」「能登のブランドを高める創造的復興を目指す」という復興理念を掲げています。令和6年6月には石川県は復興計画を発表し、現在の被害状況から今後の具体的な復興プランが掲げられました。
さてこの復興計画では原状回復には留まらず、「創造的復興」を掲げ、石川県全域を対象に令和14(2032)年度までおこなう方針です。その中には交流人口や関係人口の拡大といった、人を呼び込む事業も盛り込まれていますが、今回大きな被害があった能登半島の多くの自治体はいわゆる消滅可能性自治体です。前述した特に被害が大きかった地域は災害発生当初から地理的条件から自衛隊救助隊の投入に制約が生じた地域でもあります。 震災がなくても大きく問題を抱えている自治体でありますが、震災直後から被害地域の自治体に関して、有識者から興味深い発信も見受けられました。
このように地方では過疎化の進展により消滅可能性都市(限界自治体)が全国にあります。
このような状況の中で、記事にもあるように多額の税金を投入すべきか否かは、今後の自治体の在り方を考えるにあたり非常に重要な観点です。前置きが長くなりましたが、今回は能登半島の6自治体(珠洲市、輪島市、能登町、穴水町、志賀町、七尾市)の今後の在り方について、探っていきたいと思います。
①決算状況から見る自治体の状況
はじめに、自治体の財政状況についてみていきます。財政の状況を見る事で、その自治体お運営状態が分かるためです。そのために、総務省が発表している決算カードと類似団体比較カードから探っていきます。決算カード・類似団体比較カードは以下になります。
これらは毎年10月頃に昨年度分が発表されます。(発表は非常に遅いとは思いますが、、、)現在発表されている最新のものは令和4(2022)年度のものになります。画像にすると非常に見づらいので決算カード・類似団体比較カードから見るべき点をピックアップしてまいります。
検討する手法は今回、以下のようにおこなってまいります。
これらに着目して自治体の運営がどのようにおこなわれているか探ってまいります。また、初めてご覧になられる方に上記の用語の説明を加えさせていただますのでご覧ください。
これらの数値を中心に見ていきながら各自治体の財政状況を見ていきたいと思います。
A.七尾市
当該自治体は地方税よりも地方交付税の構成比が全ての年度で上回っており、類似団体と比較しても地方税の構成比が低く、地方交付税の構成比が高いのが明らかだと分かります。経常収支比率は90%前後を推移しており、財政の弾力性という観点からは警戒すべき状態でしょう。(日本のほとんどの自治体が該当し得しまいますが、、、)
基準財政収入額は基準財政需要額を大きく下回っており、地方交付税に大きく依存しているのが分かります。財政力指数は全国平均を若干下回っていますが、実質収支比率は5%を超えており、財政的に余剰があるという状況です。公債費負担率は警戒ラインの15%を超えています。つまり、自主財源は低く、地方交付税や公債費が高く、余剰金が生じているという状況です。このような状況が生じた要因の一つは地方特例交付金等によるものがあるでしょう。(令和3年度は特にコロナ関連費などが類似団体よりも多額となっています)
類似団体と比較しても地方税は恒常的に下回っており、地方交付税も上回っています。また公債費負担率も類似団体よりも大きく上回っている事から、財政状況はとても健全とは言えない状況です。端的に言えば、自主財源は少なく、他地域から多額の資金をもらい、更に債務を負っているにも関わらず、財政的には余剰が発生しているわけです。
令和2年に行われた国勢調査で、七尾市は前回調査時より9.1%人口減少しています。決算カードを見ただけでも、無駄が多い事が分かります。また、七尾市は類似団体よりも公務員の数が非常に多く(人口千人当たりの職員数:当該団体11.72、類似団体6.51)行政に依存した自治体だともいえるのではないでしょうか。
B.輪島市
当該自治体も七尾市同様、地方税よりも地方交付税の構成比が全ての年度で上回っており、類似団体と比較しても地方税の構成比が低く、地方交付税の構成比が高いのが明らかだと分かります。経常収支比率は類似団体よりも高く96%前後となっており、財政の弾力性という観点から見れば七尾市よりも余裕はありません。財政力指数は低く、令和元年度は実質収支比率が0.7%とコロナ禍以前は財政に余裕がありませんでした。令和3年に実質収支比率が大きく上向いていますが、財政調整基金も増加しているのが分かります。(コロナ前より増えているのが不思議ですが、、、)
当該自治体で最も目立つのが公債費負担率で危険ラインと呼ばれる20%以上を推移しています。人口減少も七尾市同様、減少傾向にあり、かつ公務員の数が類似団体よりも多い事が挙げられます。
人口減少が続くなか、公債費負担率が高いというのは今後も、他地域の財政に依存していく未来しか見えません。
C.珠洲市
当該自治体も同様に、地方税よりも地方交付税の構成比が全ての年度で上回っており、類似団体と比較しても地方税の構成比が低く、地方交付税の構成比が高くなっております。経常収支比率は令和3年度を除き95%を超えており、財政力指数も0.2%台を推移しており、財政状況は他地域に依存しています。公債費負担率も警戒ラインの15%を超えているため、安心できる財政運営ではありません。ところが類似団体と比較すると財政調整基金を含む積立金残高は多く、類似団体に比べると令和4年度は約62%も多くなっています。珠洲市も人口減少は続いており、財政の健全化には程遠いでしょう。
D.志賀町
当該自治体は上記3自治体に比べて地方税の構成比は高く、地方交付税の構成比も低い事が分かります。実質収支比率は低いものの、財政力指数は今回扱う6団体のなかで最も高いのも特徴です。警戒ラインを超えていた公債費負担率も令和4年度には13%と減少させております。これは第4次志賀町行財政改革大綱・集中改革プランに基づいた成果が少しずつ表れているのではないかと考えられます。
集中改革プランの中には「健全な財政運営の推進」という項目があり、地方債の抑制が掲げられています。また、自治体の状況に合わせた適正規模の運営を目指しており、経費の削減を目指す文言が散見しています。
このような取り組みが少しずつ成果として表れているのが類似団体との比較からも明らかであり、実質収支比率の数値の低さはむしろ自治体の努力として評価してもよいのではと数字だけを見ると感じます。
E.穴水町
当該自治体は前項の志賀町とは大きく異なり、地方税の構成比率もかなり低く、地方交付税の構成比率が大きい事がすぐに分かるかと思います。財政力指数は類似団体と比較しても低く、他地域の財政に依存した自治体となっています。6団体のなかでも経常収支比率が令和3年度以降上向いており、85%前後となっている点は着目してよい点です。自主財源が少なく、財政力も低いにもかかわらず、実施う収支比率は令和3年度以降5%を超えており、余剰金が発生している状況です。もちろんですが、類似団体と比較しても財政調整基金は多くなっています。
F.能登町
当該自治体も非常に地方税の構成比率が低く、地方交付税の構成比率も非常に高くなっています。また、財政力指数は類似団体と比較しても半分以下となっており、公債費負担率は危険ラインを大きく上回る30%台を推移しています。令和元年度の地方債の構成比が25.8%と非常に高く、令和3年度・令和4年度に約14%と財政状況はかなり悪いと言わざるを得ない状況です。また、公務員の数も類似団体と比べると多くなっており、財政状況を改善させるためには経費削減や人員整理も不可欠といった状況です。
各自治体の状況を簡潔にまとめてみましたが、どの自治体も他地域からの財源に依存しているのがお分かりいただけたかと思います。自治体によっては地方税だけでは人件費すら賄えない自治体もあり、人口減少が進んでいる自治体はますます財政的な余裕はなくなっていく事でしょう。
②石川県の復興プラン
前章で能登半島6自治体の決算カードと類似団体比較カードで財政状況を見てきました。今回被災した自治体はコロナ禍以前から財政的に厳しい状況だったことがお分かりいただけたかと思います。このような状況に更なる打撃を与えたのが令和6年1月に発生した震災でした。また、今回の震災で注目されるようになったのは能登半島における災害時の支援の難しさです。三方を海に囲み、半島の中心部分は丘陵部が連なっている地域となっており、災害発生から救助に向かうまでに時間を要したことに注目が集まりました。実際に半年経った現在も被災地の復旧作業は進展しておらず、課題は山積となっています。
記事にもあるように、公費解体の完了は4%あまりしか進んでおらず、災害規模の大きさと交通の不便さがなかなか進まない原因となっています。 日本は災害大国であり、今後いついかなる場所で発生するか分かりません。限界自治体な上に、このような災害の危険と隣り合わせの自治体について、移住論が起こるのも無茶苦茶な話ではないでしょう。
冒頭で紹介したように、石川県では復興プランを発表し、具体的施策も発表されました。(下記のHPより内容を確認できます。)今年度の補正予算案と新年度の当初予算案が3月には議会で可決し、県は能登半島地震からの復旧・復興に向けた費用として、合わせて7830億円を計上しています。
また、政府は先月(令和6年6月)、1396億円を2024年度予算の予備費として支出することを決定し、これまでに5度の予備費の追加投入をおこない、総額は約5,500億円にのぼります。
このように政府・県ともに多額の資金を投入する事が決定していますが、冒頭にもあるように、石川県は「創造的復興」を掲げています。その具体的中身を見ていきながら、意味のある税金の使い方がなされるのか見ていきたいと思います。
石川県が令和6年6月に発表した「石川県創造的復興プラン」から読み解いてまいります。このプランでは復興の対象を、能登半島を中心とした県内全域としており、様々な施策を体系化しています。大きな柱が以下の通りとなっており、13の取り組みを掲げています。
この13の取組は「創造的復興リーディングプロジェクト」と位置づけ、県が特に重視した施策としてPRしています。さらに具体的な施策が以下の通りとなっており、具体的な計画が別冊版に記載されています。
さて、この13の取組が石川県の掲げる「創造的復興」の施策ですが、ここで列挙されている項目を見ると、地域再生制度に盛り込まれている施策が多く存在します。例えば、取組1で紹介されている「二地域居住モデルの検討」はデジタル田園都市国家交付金における活用事例として既に各自治体でおこなわれています。取組3の「健やかな子育てを享受する環境づくり」は高校生の地域留学推進のための高校魅力化支援事業として既に令和2(2020)年度よりおこなわれており、石川県立能登高等学校は初年度から採択校として補助金交付を受けています。(令和6年度も継続して採択されています。)
取組12に関しては震災復興とどのような関連があるのか意味が分かりません。「時が半世紀ぶりに石川・能登の大空を舞うという夢の実現に向けた取り組みを進め、、、(略)」という文言がありますが、震災を名目に復興と関連がないものまで予算が紐づけされ、公金が無駄に使われていく典型ではないでしょうか?もちろん住民の意思によって行われるのであればそれは構いませんが、決算カードから分かる通り、自主財源に乏しい地域です。さらに国からの予算がつけられる状況でこのような施策が大々的におこなわれる事に違和感しかありません。
このように、復興という名でのもと、多額の税金が使われてきた代表例が東日本大震災です。震災後、政府は復興特別税なるものを創設し、復興特別所得税に関しては令和19(2037)年まで徴収される予定です。そしてその公金は震災とは関係のないものにまで使われました。
今回の能登半島の震災では発生当初、インフラの脆弱さが問題になりました。もちろん災害に備えるという観点でいえば整っている事に越したことはありません。しかし、過疎地域において、日常的に使われない道路や公共交通インフラが整備されていくとなると誰が維持費を捻出していくのでしょうか?重複しますが、自主財源でおこなうのであれば、地域住民の意思で決めた事なので問題はありません。しかし、他地域の公金を使い、日常的に赤字を補填していくことに納得する国民は多くはないでしょう。
③能登の創造的復興は失敗する
そもそも、地方自治とはどのような定義がなされているのか一度確認していきたいと思います。地方自治に関しては日本国憲法第92~95条に規定されています。
特に、憲法92条に明記されている「地方自治の本旨」とは一般的に以下の解釈がなされています。
本来の地方自治とは「自分たちの住んでいる地域の事は自分たちで決める」という住民自治が原則となっています。しかし、実際は財源不足から自治体の権限というのは限られているのが現状です。
平均して約36%、市町村に至っては約30%となっており、今回扱った能登半島6団体に関して言えば、自主財源として上回っている自治体はなく(かろうじて志賀町の30.3%が市町村の平均と同じ)、自治がまともに機能している団体はないに等しい状況です。また、当該6団体の歳入に占める地方債の割合も軒並み平均より高くなっています。
つまり、自分の収入が低いから他地域から資金をもらい、更に借金をしている状況です。依存財源がなければとっくに破綻しているにも拘らず、さらに「創造的復興」を掲げ、既存の地域再生制度の枠組みを中心に震災復興をおこなう効果に期待を持てるのでしょうか?
筆者は、地域再生制度は失敗していると現時点で結論づけました。(詳細は以下の記事をご参照ください)
上記の記事でも書いたように、過疎自治体の人口減少に歯止めが利かず、無駄な事業に公金が投入されている現状があるためです。さらに、能登半島は決して災害が少ない地域ではありません。平成5(1993)年以降、主な大きな地震(マグニチュード6以上)を数えただけでも4回発生しており、今回の地震で能登半島から他地域への移住を考える人もいる事でしょう。復興には多額の公金が投入され、計画通りであれば、9年かけて復興が完了する予定ですが、現状を鑑みた際、その間に当該6団体は関係人口を増やし、現状の自治体経営の状況から改善することに期待は持てません。
④自治体の在り方~能登半島6自治体を中心に~
能登半島の6団体はどうあるべきでしょうか。まずは行政がすべきことは余計な事はしない、つまり地域再生に公金を使わないことから変えていくべきです。
古い記事ですが、地域再生が成果を出せず、人口減少に歯止めをかけれない理由がとても的確に書かれています。地域を活性化するためには人を増やすしかありません。しかし、記事にもあるように、人が少なければ仕事は増えません。利益を生まない事業をいくらおこなったところで延命措置でしかないので、補助金はただの延命装置でしかありません。むしろ補助金が過疎自治体を衰退させている原因です。継続可能な事業、つまり、儲かる事業を作らなければなりませんが、行政がおこなってきた地域再生制度は儲かる事業につながるものはありません。仮に、地域創生制度で地域が活性化し、人口が増えるのであればとっくに民間事業者がおこなってますし、民間事業者は利益が出ないとなればすぐに撤退します。地域活性はその地域に住む民間事業者が本気で儲かる事業を創り上げるしか方法はありません。
行政のやるべきことは民間事業者のおこなおうとしている事業の足枷となる規制をなくすことです。
能登半島6団体のような自治体は日本全国に多く存在します。そのような自治体は今後どのようになり、何をすべきでしょうか。
まず起こりえる事は市町村合併です。小規模自治体は近隣の自治体と合併し、財政的に大きな塊になるしかないでしょう。特に過疎自治体は高齢化率も高く、自主財源はさらに減少していきます。これは多くの方が思いつくのでは思いますが、今後、限界に近づくにつれて現実として起こりえるでしょう。
このような過疎自治体が(関係人口も含め)人口を増やすためにできる事は減税です。自主財源率が低い能登半島6団体でも減税は可能です。決算カードをもとに見ていきたいと思います。七尾市を事例に見ていきます。
七尾市の経常収支比率は92.0%となっており、通常であれば決して理想的な状況ではありませんが、裏を返せばまだ8%余裕があります。次に市町村税の状況を見ますと、法人均等割と法人税割を合わせて市町村税の7.0%にしかなりません。もし、法人税を無税にしても、経常収支比率は100%を超えません。つまり減税が可能です。七尾市には3,516の事業所があります。これらの民間事業者の税負担を軽減することで、民間の活力を与えることができます。また、法人税がなければ、事業所を設ける民間企業も増え企業誘致につながります。これはその他の自治体にも同様のことが言えます。自治体に余分な財源を持たせないために経常収支比率を100%近くまで減税をおこなう事で、地域の事業者または新規参入を促進することができるでしょう。
稼げる企業が増えれば、地方も自然と人は増加しますし、経済規模も拡大していきます。行政ができることは二つだけです。稼げる企業が来やすい環境を作るための規制を減らしていく事と減税する事のみです。
しかし、残念ながら石川県はすでに補助金ありきの政策に頼った計画を作成している時点で、石川県の目指す「創造的復興」は実現することはないでしょう。
本当に地域再生を実現したいのであれば、その地域住民が自らの力で活性化させるという覚悟、言い換えると補助金に頼らないマインドセットをしない限り、形だけの復興となり、公金を垂れ流した東日本大震災の教訓が活かされる事なく、能登半島の自治杯は衰退していくでしょう。
限界自治体が真の地方自治をおこなえるかどうかは、その地域住民が補助金を絶つ覚悟、さらに減税と規制緩和による民間事業者の活力によってのみしか改善していく方法はありません。
今回の能登半島の震災で被害を被った自治体の今後は地域住民のその覚悟が持てるかどうかにかかっています。そのため、石川県には現在の補助金や既存の地域再生制度を利用した復興プランを改めることを望みます。
最後までご拝読いただきありがとうございました。