「食料の安定供給のための農地の確保及びその有効な利用を図るための農業振興地域の整備に関する法律等の一部を改正する法律案」についての調査(NHKから国民を守る党浜田聡参議院議員のお手伝い)
今回は農林水産省から提出された「食料の安定供給のための農地の確保及びその有効な利用を図るための農業振興地域の整備に関する法律等の一部を改正する法律案」について調査してまいります。この改正法案は「農業振興地域の整備に関する法律」・「農地法」・「農業経営基盤強化促進法」の3つの法律の改正案になります。今改正案の目的は食料の安定供給を目指すためとされていますが、どのような内容になっているのか見ていきたいと思います。
①改正案の概要
今回改正する背景には、食料の安定供給の確保のために「農地の確保」と「農地の利用の促進」を目指すものとしています。簡潔にすると以下のようになります。
「農業振興地域の整備に関する法律」の改正案には、国と地方公共団体の「責務」を規定する事、また、農用地区域の変更に関して国の関与を強化する事が盛り込まれました。具体的には、都道府県が集団的農用地を除外する要件を厳格化するため、国が目標とする面積に基づいて都道府県の面積目標を設定する事が明記されています。そのうえで面積目標の達成に向けた国と地方による協議の場の設置や、国が都道府県に対して目標達成に向けた勧告する仕組みなども追加する事が盛り込まれました。
そして「農地法」の改正案では、農地の確保のために、違反転用の農地を現状回復命令に従わない者について公表する仕組みを設ける事、農地転用の許可には定期報告を行うなどの条件を義務化する事を明記されています。農地利用促進のためには、農地権利取得に関する具体的な要件の厳格化、農地所有適格法人が株式会社の場合について、種類株主総会においても農業関係者が議決権の過半を有している事が明記されています。
また、「農業経営基盤強化促進法」の改正では、農用地の貸借促進を図る目的として農地法の特例措置として遊休農地の権利設定に係る手続きの迅速化と義務化の明記、法人経営体の経営基盤強化のために農業経営発展計画を創設し、農水大臣の認定を受けた場合には農地所有適格法人の議決権要件を緩和できる特例措置を設けました。
農政に関わりのない人にとってはかなり複雑な内容となっていますが、そもそも日本の農政は非常に統制的である事が分かります。今回の法改正によってどのような影響があるのか、果たして法改正によって日本の農業発展は見られるのかを考察していきたいと思います。
②日本の農地はどう変わっていったか
今回の法改正は農地や経営に関連する法改正です。そのため、まず農地にまつわるこれまでの経緯を見ていきたいと思います。
農地に関する法律は農地法で定められていますが、農地法は農地転用や売買などを制限し、農地として効率的に利用することを目指すものとして昭和27(1952)年に制定されました。
この農地法は、戦後の農地改革でいわゆる「地主制」の解体を推し進め、農地は耕作者が所有するものとして、耕作者の安定と農業生産力の向上を目的に制定された法律でした。
その後、昭和35(1970)年からコメの生産調整(減反政策)が廃止されます。日本はその間、農家の個数は様々な要因はあるものの兼業農家が増加し、農家戸数全体は減少していきました。
平成7(1995)年には政府の役割を生産調整から備蓄に限定する方針がとられ、食糧管理法が廃止され、食糧法が制定されました。(食糧法についての考察は別記事で解説しているので割愛します。)
平成16(2004)年に食糧法が改正され、行政によるコメの生産量目標の分配が開始され、実質的な米の生産管理が再開しています。この時期から「ナラシ対策」や「ゲタ対策」といった補助金が創設されているのが目立ちます。
農業従事者の高齢化や人口減少が課題となると平成21(2009)年に農地法が改正され、「農地の権利取得」、「農地の貸借」、「農業生産法人要件」の3点が抜本的に見直されました。改正後、農業に参入した一般法人は増加していきました。
平成30(2018)年になると行政によるコメの生産量目標の分配は廃止され、令和年間に入り、食料の安定供給確保を目指し、農地集積に取り組んでいる状況となっています。
現在、日本は食料安全保障という観点から農政の転換を図っています。今改正案もその一環になります。しかし、概要でみたように「農業振興地域の整備に関する法律」では政府による統制が強化され、農地法では罰則規定が設けられました。政府は戦後、一貫して統制的な農政をおこなってきたことが分かるかと思います。では政府の統制で農業は発展したのかといえば、到底肯定できるものではありません。現在は企業が参入できるようになり、徐々に旧来の在り方から転換がなされていますが、不十分であり、日本の根本的な構造改革が不可欠であると考えます。
③日本の農業をダメにする原因
日本の農業に関する課題としてよく挙げられるのは以下の3点ではないでしょうか。
誰もが一度は聞いたことがある理由かと思いますが、そもそもこれが課題なのか?という疑問が近年は出てきました。
現在の日本の農業問題の本質を鋭く指摘している著書になります。久松氏の著書の中に「現在の農業政策は、コストの高い生産者に合わせた高単価を維持するために生産調整を行っているため、もっとも効率的に生産できる事業者が主食米をつくらないことになっている。効率的な事業者への集約が進めば、そもそも単価維持のために政府が市場に介入する必要はない。」と指摘している点です。政府は経営所得安定対策として、数多くの補助金を農家に交付してきました。その結果、多くの方が日本の農家は低所得で苦しんでいるという印象を持つようになりました。ようやく集積的な農業転換に向かい始めましたが、政府による管理統制ではなく、農地の確保以外は余計な規制を作らないことが現在の農政に必要な政策です。
こちらの動画でも現在の農政についての問題点について理解が深まると思いますので是非ご覧ください。
牛乳が余っている事で、補助金を出し家畜を処分させたという事がありました。政府の介入によって振り回される畜産農家にとっても自由な経済活動により、市場に価格調整を任せる事で農業も健全な市場経済の中で活動ができるのではないでしょうか。
④日本の農業は守られすぎている
日本の農業は本当に苦しいのかという疑問について本当に必要な措置は何なのか考えていきたいと思います。OECDが開発したPSE(Producer Support Estimate:生産者支持推定量)という農業保護の指標があります。財政負担によって農家の所得を維持している「納税者負担」と、国内価格と国際価格との差(内外価格差)に国内生産量をかけた「消費者負担」(消費者が安い国際価格ではなく高い国内価格を農家に払うことで農家に所得移転している額)の合計によって算出します。
農家受取額に占める農業保護PSEの割合(%PSEという)は、2020年時点でアメリカ11.0%、EU19.3%に対し、日本は40.9%と高くなっています。日本では、農家収入の4割は農業保護であるという事です。
日本の農業保護は、消費者負担の割合が圧倒的に高いという事が分かります。各国のPSEの内訳をみると、農業保護のうち消費者負担の部分の割合は、2020年ではアメリカ6%、EU16%、日本76%(約4兆円)となっています。
少し長いですが、本稿で指摘している日本の農政問題について引用したいと思います。
日本の農政には政治的側面がかなり色濃く出ている点が非常に問題です。今や最大の支持母体ではなくなったとはいえJA(農協)は自民党の大きな支持母体です。自民党にとって地方の票田である農協を蔑ろにはできないため、配慮する事は政治力学から当然ではあります。しかし、の問題は数多く指摘されています。
本来、農業従事者のために存在するはずのJAの多くに腐敗がみられるという事です。また、JAの部門別損益をみても経済事業よりも信用事業や共済事業の方が、利益が大きいという事も問題の一つです。コロナ禍による打撃があるので令和2年・令和3年の損益は考慮しなければならないものの、それ以前を鑑みてもJAの本来果たす農業振興ではなく、金融事業での利益が半数以上を占めています。既得権益として長らく腐敗してきたJAと自民党政治が日本の農業を衰退させた事は大きな農業に限らず大きな日本の課題であります。
農業従事者であっても高収入を得られる人は存在しますし、創意工夫がなされています。このような低所得の体質を作り出したJAの責任は非常に重いと感じます。
長い期間で見た際、農家の所得は減少傾向にあります。
また、日本の人口減少に伴い農業生産額も減少しています。農業は人口との相関性が強いため、減少傾向にあるのは必然でありますが、であるならば海外輸出を展開すべきですし、国際競争力をつけるべきです。しかし、その努力を怠った結果として現状がある事は今後の考えなければいけない点であります。当然ではありますが、海外での日本の農作物は現地価格よりも高価ではありますが、果物などは非常に人気が高い商品です。しかし日本の農業輸出は非常に低くなっています。
④今回の改正案は農業振興につながるのか??
「農業振興地域の整備に関する法律」の改正案では食料の安定供給に必要な農地の確保を目的とすることが明記させます。それにともない、面積目標を記載した整備計画を策定する事が定められます。大きな変更点としては赤枠の部分が追加されたという事です。
国の権限が強化されたことになり、自治体の事務作業が増加します。また、政府はこれまでも管理統制的な農政を続けてきたことで、現場の農業従事者に大きな混乱をもたらすと同時に多くの補助金をバラマキ続けています。政府の管理統制下の元で食料の安定供給が担保できる保障などなく、農地の確保に関する目標設定だけおこなえばよいでしょう。農地の確保を至上命題に挙げていますが、日本の農業生産力は決して低いわけではありません。むしろ人口減少に伴い余る状況さえあるわけです。それよりも農業振興を掲げるのであれば、農業に関する規制の緩和による自由な経済活動を優先すべきです。
次に「農地法」の改正案についてです。ここでは第2条3項の改正が気になるところです。ここでは以下のような変更がなされます。
昨今、企業の農業参入が増加してきましたが、その農地所有適格法人のなかで種類株主(拒否権を行使できる株主)が半数以上占めていなければなりません。ここでも農業関係者を優先する事が盛り込まれています。企業参入により、株主の声が大きくなることを農業界は恐れたのでしょう。農水省の「農地法制の在り方に関する研究会」の資料からこのような状況が読み取れます。この検討会の委員にはJA全中の専務理事も名を連ねています。JAに頼らないで農業活動をおこなえる企業が増加すればJAにとっては快くはないでしょう。このような中途半端な改正は、新規参入した企業が立ち往生する可能性も秘めています。仮に現状の法制であっても、株主は株価に敏感であるため、企業に先がなければ売却するだけですので、改正の必要性はありません。
最後に「農業経営基盤強化促進法」の改正案ですが、規制緩和が若干進んだ形になります。事務手続きの迅速化がなされる点はよいでしょう。また、農地所有適格法人が食品事業者から出資を受けた際には議決要件に特例措置が設けられます。農業関係者が1/3を超えていること、農業関係者と食品事業者等で1/2を超えている事です。
この特例も本当に少しではありますが、前進したといってもよいかとは思います。
全体を俯瞰すると、規制緩和よりはむしろ規制が強化された内容となっています。日本の農業はまだまだ発展する可能性があるだけに、集積的な農政転換は賛同できるところではありますが、複雑性が増すような法整備については賛同できません。
⑤質問をするならば
・「農業振興地域の整備に関する法律の改正」では国が地方自治体に資料の要求等に伴い勧告。是正の要求という点において「勧告」することが追加されることについて、これは統制立法となりうるものであり、地方自治体の独自性や自立性を損ねる可能性があると考える。裏を返せば国が責任を取るという事も言えなくもないが、地方自治体が今後自ら方針を決められず、国に依存する体質を強める結果になるのではと懸念する。このような観点から、今回の「勧告」を追加したことについて、自治体の在り方について見解をお聞きしたい。
・「農業振興地域の整備に関する法律の改正」では国が地方自治体に資料の要求等に伴い勧告。是正の要求という点において「勧告」することが追加されることについて、国が地方自治体から資料の提出を要求し、勧告・是正の要求をするという統制的な体制を敷くという事は、政府は具体的な目標設定をおこなう、又はおこなった上で法改正に踏み切ったと推察する。何かを変えるのであれば、円滑に進むのか想定する事はどのような分野の活動でもおこなわれる当然の行動である。そこで、今回の法改正によって、政府が想定している農地面積の目標とその目標達成にはどのような措置を自治体に期待しているのか見解を伺いたい。
・「農地法」の改正により、「農地所有適格法人の要件に、拒否権付株式の種類株主総会において、農業関係者が議決権の過半を占めるべきことを追加する」事が追加されたが、自由な経済活動に制限を加えることにつながる。農業関係者が大きな力をもち、株主が実質的に法人に対して意志表示をできなくなるが、なぜこのような措置をとったのか、理由を伺いたい。また、このような制限を加えることによる農業発展の効果をどのように見込んでいるのか。その見解をお聞きしたい。
最後までご拝読ありがとうございました。