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「energy flow」しか知らないのに「音を視る 時を聴く 坂本龍一」展に行ってしまった
職場で、最近坂本龍一の展示会が混んでいるという話になった。
入るまでに1時間かかり、若い男女がSNSにあげるために詰めかけている。ツイッターでは「サブカル界のチームラボ」とまで揶揄されている...などなど。そんなことを鼻息荒く話してしまったのだが、私も全く例外ではない。坂本龍一どにわかだからだ。
1月上旬ごろ、例の坂本龍一の展示こと「音を視る、時を聴く 坂本龍一」展に行った。
坂本龍一のことは正直よく知らない。「energy flow」と「戦場のメリークリスマス」くらいしか知らない(以前人に勧められたこともあったが、難解であまり良さを理解しきれなかった)。
ではなぜ行ったかというと、小山田圭吾と親交の深いアーティストだからである。ファンの皆さん、本当にごめんなさい。
そんなこんなで、「小山田圭吾がお世話になってるし(?)、なんか面白そうだし行ってみよ」くらいの軽い気持ちで東京都現代美術館に赴いた。1時間くらい滞在して、併設のカフェでお茶してサクッと帰ろうと思っていたのだが、入ってすぐ飛び込んできたのは、チケットに並ぶ長蛇の列。「まさか...」と思ったが、これが坂本龍一展のチケット購入列に他ならず、戸惑いながら並ぶことに。
待つこと20分。My Bloody Valentineのトートバッグを持っている外国人や、中国語らしき言葉で会話する夫婦、若いカップル、男子大学生二人組...など、かなり幅広い国籍・年齢層の人たちが並んでいた。改めて坂本龍一のファンの広さを実感した。
そしてチケットを無事に買えたので、ようやく入場口へ。向かってすぐ目に飛び込んできたのは、入場口から外まで並ぶ長蛇の列。「まさか...」と思ったが、坂本龍一展への入場口だった。スタッフさんが「ただいま入るのに50分ほどお時間いただいております」とアナウンスしており、「50分!?」と思わず声が出そうになった。すっかり呆気に取られてしまった。
ツイッターを見ながら待つこと30分、予定より早く中に入ることができた。しかし、中ももちろんたくさんの人で、列に並んでいた人たちと同じく、外国人から若い男女まで様々だった。
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展示内容はすごく面白く、雨のように水の滴が不規則に落ちていく展示物や2023年のAMBIENT KYOTOでも上映されていた高谷史郎とのコラボレーション作品《async - immersion》、そして美術館の中庭に凄まじい濃度の霧が立ち込める作品など、まさに楽しい体験型の展示が盛りだくさんだった。とはいえ流れているのは『async』期の坂本龍一作品なので、不穏なアンビエントを大勢の人が見守るという異様な空間だった。特に「async」が大音量で流れる展示はとても恐ろしく、けたたましいバイオリンが鳴り響く中、大勢の人が体育座りになって延々と映し出される自然の風景を眺めている光景は忘れられない。
晩年の坂本龍一が抱いていた「時間とは何か」をいう問いを表現した作品が展示されているこの展示会。音と動作が連動するインスタレーションや、霧だらけの作品など、どことなくAMBIENT KYOTOで見たコーネリアスの展示と重なる部分が多く、2年前の思い出と地続きになっているような不思議な感覚をおぼえた。そして、コーネリアスの『夢中夢』は、夢の中の夢、過去と未来など時間や現実の不確実性がテーマになっているが、小山田圭吾がコロナ禍という非現実的な現象、自身の炎上、そして高橋幸宏や坂本龍一をはじめとした親しいミュージシャンの死という苦境を経験し、坂本龍一が持つこの問いに共鳴するところもあったのかもしれない。...と勝手に思いを巡らせた。
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帰り道に、坂本龍一の『async』や『out of noise』などを雑多に聴いた。坂本龍一のことはよく知らないし、展示の内容をしっかり理解できたとも思えないが、これまで難しいと思っていた曲が、スッと頭の中に流れてくる感覚があった。そして、正直あまりハマらなかった「ZURE」のコーネリアスリミックスも、坂本龍一が作り出した音の空間に小山田圭吾の奏でる音が入り込んでおり、二人の時間軸が重なり合っているように聴こえてくる。何がそうさせているのかよくわからないが、今回の展示で初めて坂本龍一の作品を目で見て、少し坂本龍一を知った気になってしまったからかもしれない。