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2つの政令指定都市と対照的な2つのJクラブ〜フットボールの白地図【第17回】福岡県

<福岡県>
・総面積
 約4986平方km
・総人口 約511万人
・都道府県庁所在地 福岡市
・隣接する都道府県 佐賀県、熊本県、大分県
・主なサッカークラブ アビスパ福岡、ギラヴァンツ北九州、福岡J・アンクラス
・主な出身サッカー選手 前田治、本田泰人、久保竜彦、山下芳輝、本山雅志、千代反田充、田代有三、大久保嘉人、池元友樹、平山相太、城後寿、東慶悟、井手口陽介、柴田華絵、猶本光、冨安健洋

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「47都道府県のフットボールのある風景」の写真集(タイトル未定)のエスキース版として始まった当プロジェクト。前回は、東北を代表する仙台市がある、宮城県を取り上げた。今回は、九州最大の都市である福岡市を県庁所在地とする、福岡県にフォーカスすることにしたい。ご存じのとおり、同県にはアビスパ福岡とギラヴァンツ北九州、2つのJクラブが存在する。

 アビスパとギラヴァンツは、当然ながらダービーの関係にある。ところがこの福岡ダービー、大阪や横浜や埼玉のそれと比べると、それほど盛り上がっている印象は受けない。2010年の初対戦以来、10回のダービーが行われているが、入場者数が1万人を超えたのはわずか2回。実はアビスパのサポーターは、ギラヴァンツではなく、隣県のサガン鳥栖と対戦するほうが燃えるらしい。

 九州で唯一、2つの政令指定都市を持つ、福岡県。ところが福岡市と北九州市は、およそ70キロという距離感以上の「遠さ」を感じせる。国際都市と工業都市。ラーメン文化とうどん文化。言葉についても、博多弁と北九州弁はイントネーションと語尾が微妙に異なる。そして、2つのJクラブの成り立ちもまた、非常に対照的。この福岡県の二面性は、県外から訪れた旅人からすると実に興味深い。

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 福岡市が九州最大の都市となったのは、意外と最近の話で1910年代のこと(それまでは熊本市のほうが人口が多かった)。ところが1963年、5市が合併して誕生した北九州市が九州最大となる。その後、108万人をピークに北九州市の人口は減少を続け、79年に福岡市の人口が逆転。重工業からサービス業への経済のトレンド変化が、2つの政令指定都市の人口推移と見事にシンクロしている。

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 福岡市は、九州初のJクラブが誕生した地。ただし「九州発」ではなかった。そのルーツをたどると、1982年に静岡県藤枝市に誕生した、中央防犯サッカー部に行き着く。時は流れて旧JFL時代の94年、中央防犯FC藤枝ブルックスに改称。熱烈なラブコールにより、95年にホームタウンを福岡市に移して福岡ブルックスとなり、晴れてJクラブとなった96年に現在のクラブ名となっている。

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 アビスパのホームスタジアムである、東平尾公園博多の森球技場(現・ベスト電器スタジアム)は、95年に開催されたユニバーシアード福岡大会のために建設された。2017年にミクニワールドスタジアム北九州が完成するまでは、県内で唯一の球技専用スタジアムであり、スタンドからピッチの近さがとにかく尋常でない。写真は、2015年に行われたJ1昇格プレーオフ準決勝。この年、アビスパは5年ぶりのJ1復帰に成功している。

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 県外から福岡に定着したアビスパに対して、ギラヴァンツ北九州は生粋の「九州発」のクラブである。その前身が、1947年に創部された三菱化成黒崎サッカー部というのも、いかにも工業都市らしい。2001年にニューウェーブ北九州に改称。将来のJリーグ入りを目指すようになり、08年に九州リーグからJFLへ、そして10年にJ2に昇格して現在の名称となった。

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 J2に昇格後も、長らく北九州市立本城陸上競技場でホームゲームを行っていたギラヴァンツ。しかしスタジアムがJ1基準でなかったため、2014年はJ2で5位となったにもかかわらず、プレーオフに参戦することも叶わなかった。ミクスタがオープンしたのは17年のこと。小倉駅の新幹線口を出ると、キャプテン・ハーロックの銅像が迎えてくれる。作者の松本零士は、小学校3年から高校卒業まで小倉で暮らしていた。

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 小倉駅から海に向かってまっすぐ進み、リーガロイヤルホテル小倉とAIM・西日本総合展示場新館の間の道を右折、さらに北九州国際会議場に面した道路を左折すると、目指す目的地が見えてくる。徒歩で10分以内というアクセスの良さに加え、ピッチの臨場感がビンビン伝わってくる距離感も素晴らしい。その背景には、日本製鉄九州製鉄所の工場群、さらには関門海峡も見える。

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 ギラヴァンツのホームスタジアムは、駅チカであるばかりでなく海チカでもある。クラブ関係者も「これだけ海に隣接したスタジアムは、日本でここだけです」と胸を張る。海に近いということは、当然ながら海にボールが飛んでいくリスクがある。そのためギラヴァンツのホームゲームは、漁船が「海のボールパーソン」として待機。ちなみに「海ポチャ第1号」となったのは、ギラヴァンツのGK高橋拓也で、オープン間もない17年6月10日の快挙であった。

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 モツ鍋に明太子、かしわうどんに鉄鍋餃子。福岡県の名物といえば、とりわけB級グルメが充実している。そんな中、今回紹介したいのが長浜ラーメン。白濁した豚骨スープと細麺が特徴で、博多ラーメンとは少し違うらしい。博多漁港で働く人々のために、スピーディに提供できるように麺を細くし、おかわりができる替玉システムを導入して人気に火が点いた。ラーメンが「労働者のソウルフード」であることを、あらためて感じさせる一杯だ。

<第18回につづく>

宇都宮徹壱(うつのみや・てついち)
写真家・ノンフィクションライター。
1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年に「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追い続ける取材活動を展開中。FIFAワールドカップ取材は98年フランス大会から、全国地域リーグ決勝大会(現地域CL)取材は2005年大会から継続中。
2016年7月より『宇都宮徹壱ウェブマガジン』の配信を開始。
著書多数。『フットボールの犬 欧羅巴1999‐2009』で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』でサッカー本大賞2017を受賞。近著『フットボール風土記 Jクラブが「ある土地」と「ない土地」の物語』。


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