旅、すなわち「県境をまたいだ移動」が禁じられる時代に〜フットボールの白地図 改め『蹴日本紀行』を語る<その弐>
まずは近況から。
OWL magazineでも連載していた「フットボールの白地図」が、このほど『蹴日本紀行 47都道府県のフットボールのある風景』という写真集として上梓されることとなった。読み方は「しゅう・にほんきこう」。昭和世代ならば、冨田勲作曲によるNHKの紀行ドキュメンタリー『新日本紀行』のこちらのテーマ曲を想起することだろう。実際、追い込み作業の間は、時おりYouTubeで『新日本紀行』のアーカイブを再生しながら、気分を盛り上げていた。
一言で47都道府県といっても、Jクラブが6つとか4つとかある県もあれば、Jクラブがない県も7つあり、そのうち2県は全国リーグを戦うクラブすらもない。福井、三重、滋賀、和歌山、奈良、島根、そして高知。遠征好きを自認するサポの方でも、これらの県すべてに足を運び、現地でハーフウェイカテゴリーの試合を観戦した人は、そんなに多くはないはずだ。
これまで国内の「フットボールと旅」をテーマにした書籍は、なぜかJクラブを切り口にしたものばかり。それはそれで否定はしない。が、私に言わせれば、Jクラブというのは日本の「フットボールのある風景」の一部であって、すべてではない。よって本書は、Jクラブの有無に左右されることなく、47都道府県の「フットボールのある風景」を等価に紹介することを心がけた。実際、Jクラブがない県にも、皆さんに紹介したい美しく豊かなシーンはいくらでもある。
もうひとつ、写真選びで心がけたことがある。それは「距離感」についても等価で紹介する、ということだ。たとえば東京都で暮らしている人間からすると、北海道とか沖縄県とか京都府といった土地に対する憧れや妄想があり、それらは取材や撮影のモティベーションにもなる。しかしながら、よく訪れる土地(神奈川県とか埼玉県とか千葉県とか)にも、知らなかった魅力や気付かなかった美しさというものがある。そういったシーンについても、本書では積極的にピックアップした。
実は本書の企画は、2019年の晩秋からスタートしている。翌20年の1月に企画書を版元に提出して、2月にはゴーサインをいただいた。いちおう47都道府県は踏破しているが、取材と撮影の量には当然ながら濃淡はあるし、10年以上もご無沙汰している県もある。よって編集者とは「シーズンが始まったら追加取材を始めて、秋くらいに形になればいいですね」という話をしていた。
そして各カテゴリーの日程が出ると、綿密なスケジュールを組み、あとは出発を待つばかりの状態となった。ところが予想を覆す事態が出来(しゅったい)する。2020年の新型コロナウイルス感染拡大。当初は「1カ月もすれば、状況は改善されるだろう」と高をくくっていた。しかし、4月になっても5月になっても、改善されるどころか悪化するばかり。そのうち移動や旅といったものが、完全にタブー視される空気が蔓延していった。
かくして、2020年秋の出版を目指していた『蹴日本百景』の企画は、あえなく一時凍結となってしまったのである。
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