Jクラブ空白地帯なれど、実は「群雄割拠」〜フットボールの白地図 【第7回】 三重県
<三重県>
・総面積 約5774平方km
・総人口 約177万人
・都道府県庁所在地 津市
・隣接する都道府県 岐阜県、愛知県、滋賀県、京都府、奈良県、和歌山県
・主なサッカークラブ ヴィアティン三重、鈴鹿ポイントゲッターズ、FC.ISE-SHIMA、伊賀FCくノ一三重
・主な出身サッカー選手 樋口靖洋、阪倉裕二、間瀬秀一、小倉隆史、中西永輔、水本裕貴、金崎夢生、山口蛍、浅野拓磨、森島司
「フットボールの白地図」を塗りつぶしていくプロジェクト。前回はOWL Magazineへの転載という形で、J1の鹿島アントラーズとJ2の水戸ホーリーホックがある、茨城県を取り上げた。今回、フォーカスするのは三重県。このチョイスに「え?」と思われる方も、おそらく一定数いるはずだ。
非連続性を感じさせる一番の理由は、やはり三重県が「Jクラブ空白地帯」であることに尽きるだろう。しかしながら、決して「サッカー不毛の地」というわけでもない。それは「主な出身サッカー選手」の多士済々ぶりを見れば一目瞭然。高校サッカーでいえば、四日市中央工業高校、津工業高校、海星高校、三重高校などが強豪校として知られている。
さらに目をこらせば、JFLではヴィアティン三重と鈴鹿ポイントゲッターズの三重ダービーが行われているし、東海リーグのFC.ISE-SHIMA(伊勢志摩)、そして県1部所属のTSV1973四日市は、いずれも将来のJリーグ入りを目指している。確かにJクラブはないものの、実は「群雄割拠」の状態が続いているのが三重県。今回は、そのうちJFL所属の2クラブのホームタウンを紹介したい。
まずは鈴鹿市から。名古屋から近鉄名古屋線急行に1時間ほど乗車して、白子駅で下車。ここが鈴鹿の玄関口である。駅前には当地を訪れた、ワールドクラスのF1ドライバーたちの手形とサインが飾られてあった。鈴鹿といえば、鈴鹿サーキットが世界的にも有名。F1の日本グランプリなどの国際的なレースが開催され、わが国におけるモータースポーツの聖地となっている。
縦長の三重県は、土地によって多様性があり、しかも起伏に富んでいる。鈴鹿はその縮図と言ってよい。東は伊勢湾に面し、西は鈴鹿山脈が広がる。海の風景と山の風景、いずれも徒歩圏内で愉しむことができるのが素晴らしい。多様性と土地の起伏がコンパクトに収まっている三重県。一言では表現し難い、当地の「とらえどころのなさ」を、ここ鈴鹿で感じ取ることができた。
そういえば、鈴鹿ポイントゲッターズもまた、とらえどころのないクラブだと思っている。たとえば、クラブ名の変遷。昨年までは鈴鹿アンリミテッドFCという名称で活動しており、さらにその前はFC鈴鹿ランポーレだった。ちなみに、女性向けの美容エナジードリンク『お嬢様聖水』をメインスポンサーとしているため、地域リーグファンの間で「お嬢様」と呼ばれた時代もある。
クラブは昨年、新監督にスペイン人の女性指導者、ミラグロス・マルティネス・ドミンゲスを招聘。全国リーグを戦うチームの女性指導者は、日本では彼女が初である。クラブのフロントは「鈴鹿は市長をはじめ、教育庁や商工会議所のトップも、みんな女性なんですね。だったら、鈴鹿のサッカーチームを女性監督が率いるのも、ありなんじゃないか」と語っている。
そんな鈴鹿ポイントゲッターズとダービー関係にあるのが、彼らよりも2年早くJFLに昇格しているヴィアティン三重。もともと桑名市で生まれたクラブで、現在は、いなべ市、員弁郡東員町、桑名郡木曽岬町、三重郡菰野町、川越町、そして朝日町をホームタウンとしている。そのホームゲームを取材するべく、三岐鉄道北勢線という、かなりマニアックな路線に乗車した。
東員という駅で下車。ほとんどの乗客がここで下車したので「ヴィアティン、人気あるんだな」と思っていたら、彼らのお目当ては一面に咲き乱れるコスモスの花であった。「まあ、そうだよね」と思いつつも、何だかとっても得した気分になって撮影。広々としたえ青空と、マゼンダ色のコスモス、そして三岐鉄道のイエローが絶妙に響き合っている。
ヴィアティンのホームゲームが行われる、朝日ガスエナジー東員スタジアム。5000人規模の施設だが、クラブカラーのオレンジが随所に施されていて、雰囲気の良いスタジアムだ。のちに、ヴィアティンの関連会社が指定管理者となっていることを知って納得。今季のヴィアティンは、口惜しいところで昇格のチャンスを逃してしまっったが、遠からずここでJ3の試合が開催されることだろう。
三重県といえば2021年に三重とこわか国体が開催される(そのリハーサル大会として予定されてい全社の三重大会は、コロナ禍により中止となってしまったが)。国体のマスコットは、開催地のパブリックイメージが色濃く反映されるわけだが、多様性のある三重県は何を持ってくるのか大いに楽しみにしていた。結果はなんと、伊勢海老! 節足動物を大会マスコットにしてしまう、その柔軟すぎる発想に惜しみない拍手を贈りたい。
三重県のグルメといえば、高級路線なら松坂牛や伊勢海老、B級ならば四日市とんてき、津餃子、亀山みそやきうどんなどが挙げられよう。今回は桑名の名産として知られる蛤を紹介したい。こちらの蛤茶漬けは2000円。桑名は東海道の宿場町としても知られ、江戸の時代から当地の蛤は幕府に献上されていたことを知れば、この値段にも納得である。
<第8回につづく>
宇都宮徹壱(うつのみや・てついち)
写真家・ノンフィクションライター。
1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年に「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追い続ける取材活動を展開中。FIFAワールドカップ取材は98年フランス大会から、全国地域リーグ決勝大会(現地域CL)取材は2005年大会から継続中。
2017年7月より『宇都宮徹壱ウェブマガジン』の配信を開始。
著書多数。『フットボールの犬 欧羅巴1999‐2009』で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』でサッカー本大賞2017を受賞。近著『フットボール風土記 Jクラブが「ある土地」と「ない土地」の物語』。