見出し画像

あなたにとって、どちらが大事?「賞を獲ること」と「本が売れること」〜ライターなるには日記【第7回】<裏>

 今年も「サッカー本大賞」の季節がやってきた。素晴らしい作品が並ぶ中、昨年夏に上梓した拙著『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』、そしてOWL magazine編『”サッカー旅”を食べ尽くせ! すたすたぐるぐる 埼玉編』もノミネートされている。

 こちらをご覧いただければわかるが、今回は例年以上に力作揃い。『すたすたぐるぐる』は読者賞を獲得できそうだが、私の『蹴日本紀行』は各賞を受賞するのは難しそう。15年にわたる国内取材の総決算としての自負はあるが、それを上回りそうな作品がいくつかあるからだ。

 思えば昨年も 『フットボール風土記 Jクラブが「ある土地」と「ない土地」の物語』がエントリーされたが、やはり優秀作品止まり。今年もそうなる可能性が高い、というのが私の見立てである。もちろん、奇跡的に受賞となれば嬉しい。なぜなら、より多くの方々の手元に作品が届く可能性があるからだ。換言するなら、私は受賞の向こう側にある「本が売れること」を何より重視している。

カバー

 今月のライターなるには日記は、ライターにとって「賞を獲ること」と「本が売れること」のどちらが大切なのか、というテーマで語っている。もちろん、どちらを重視するかは人によって異なるし、私自身も最初は「賞を獲ること」を希求していたが、最近は「本が売れること」に完全にシフトした。つまり、書き手としてキャリアを重ねるうちに、考え方が変わる可能性は十分にあり得るのである。

 そこで今回は、この「賞を獲ること」と「本が売れること」について、編集者目線を加えてみることにした。ご登場いただくのは、ミズノスポーツライター賞2009で最優秀賞を受賞した『フットボールの犬』の担当編集者だった、中林良輔さん。当時は東邦出版に勤務しており、まだ入社3年目の25歳だった。まずは、本書が生まれた経緯を振り返ってもらおう。

画像2

「最初に宇都宮さんの書籍に関わらせていただいたのが、2008年の『股旅フットボール』。当時は地域リーグはほとんど知られていなくて、普通に企画会議を通すのは難しいと思ったので、社長に直談判して企画を通しました。幸い『股旅フットボール』は重版しましたので、次の『フットボールの犬』については、それほどゴリ押しすることなくゴーサインが出ました」

 以前にも当連載で触れたが、学生時代からサッカーと書籍が大好きだった中林さんは、私の過去3冊の書籍を図書館で借りてきては貪るように読んで「いつかこの人の本を一緒に作りたい」と思っていたそうだ。そうした宿願から生まれたのが『股旅フットボール』。このマニアックな企画が成立したのも、中林さんが学生時代から育んできた宿願があればこそであった。

画像8

 そして2009年に上梓された、中林さんとコンビを組んで2作品目となる『フットボールの犬』は、タイトル獲得という私の宿願を成就させることとなる。だが版元の東邦出版にしてみれば、嬉しさよりも戸惑いのほうが大きかったようだ。作品のエントリーも、随分あとになってから把握していたという。

「取次や書店の方から『候補に入っているみたいですよ』みたいな話を聞いて、受賞したことはレターが送られてきて知りました。東邦出版としては初めての受賞でしたから、こういう時の対応についても誰も知らなかったんですよね。とりあえず受賞記念の金色の帯を作って、在庫分や書店に並んでいるものをこまめに取り替えました。相当なコストがかかったと思います」

 そんなこんなで、授賞式当日を迎える。私も中林さんも、こうしたフォーマルな場に慣れていなかったので、かなり浮いた存在になっていたと思う。来賓の中には、のちに東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長となる森喜朗さんや、のちにJFA会長となる田嶋幸三さんもいた。田嶋さんから握手を求められた時のぬくもりは、今でも鮮明に覚えている。

【以下、OWL magazine読者のみに公開】OWL magazineでは、サッカー記事や旅記事が毎日、更新されています。Jリーグだけでなく、JFLや地域リーグ、海外のマイナーリーグまで幅広く扱っています。読んでいるだけで、旅に出たくなるような記事が盛りだくさん。すべての有料記事が読み放題になる、月額700円コースがおすすめです。

 なお、今回のサッカー本大賞にノミネートされた『蹴日本紀行』は、徹壱堂でお買い上げいただきますと、著者サイン入りでお届けいたします。

ここから先は

1,478字 / 3画像
スポーツと旅を通じて人の繋がりが生まれ、人の繋がりによって、新たな旅が生まれていきます。旅を消費するのではなく旅によって価値を生み出していくことを目指したマガジンです。 毎月15〜20本の記事を更新しています。寄稿も随時受け付けています。

サポーターはあくまでも応援者であり、言ってしまえばサッカー界の脇役といえます。しかしながら、スポーツツーリズムという文脈においては、サポー…

よろしければ、サポートをよろしくお願いします。いただいたサポートは、今後の取材に活用させていただきます。