猫にかしずく。

 猫好きは、猫にひっかかれた腕を見せ合って自慢することがあります。
 みんな嬉しそう、幸せそう。
 マゾかヘンタイか。

 猫は女性に喩えられることが多い。
 身体の甘いやわらかさ、神秘な目、思わせぶり。

 猫にかしずいているとき、まるで見返りを求めず愛しているような気になってくるが、もしかしたら、猫はやはり女性的な生き物で、わたしたち猫を愛していると信じている者たちが、とんでもなく猫から愛されているのかもしれない。

 そうと考えない限り、ヒトのような利己主義な生き物が、これほど猫を愛してしまう理由が、わたしには、思い浮かびません。

 だから、猫好きは、決してマゾでもヘンタイでもなく、自分をほんとうにまるごと愛してくれる存在に出会ってしまった、或る意味、とても幸運な人間なのかもしれません。

 ちなみに、作家の三島由紀夫氏もとんでもない猫好きでした。氏の写真は青年時代から作家として売り出した頃まで、たいていは猫と共に写っています。
 そして、氏の表情は言うまでもなく、猫の表情を見ても、氏と猫がどれほど信頼し合っているかが、わかります。

 氏の奥さんとなった女性は猫嫌いでした。
 それで、愛妻家の三島由紀夫氏は猫を飼わなくなりました。

 まだ、新婚の三島氏の邸宅に、氏が結婚前から飼っていた猫がいた頃は、同居している氏の父親が女中に命じて猫の餌にひそかに少量ずつの毒物をもらせて、病死にみせかけて駆除しようとしていました。父親も猫が大嫌いだったのです。元農林水産省の役人で、大蔵省に入れなかったことを一生悔やんで、現役時代に横柄な態度で命令して来た大蔵官僚たちを恨んで生きた三島氏の、この父親は、猫は役に立たない動物だと思っていたそうです。

 あれだけの猫好きが、猫の嫌いな家族と暮らすのは、しんどかっただろうなと思います。
 

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