伝えたかったこと
少年サッカーのコーチなんて、自己顕示欲が強い人ばっかでしょ。チームを勝たせて、それを誇りたいって考えて、強い選手うまい選手ばっかり使うのが普通だったと思う。
でも父ちゃんは、そんなことなかった。必ず全員出場させて、胡座をかいていたレギュラーにも緊張感もってプレーさせてた。それに、あの頃から、選手に考えさせるってことをやってたよね。
自分で判断させるより、教え込む方が楽だけど、ああしろこうしろって、言わなかったよね。
今回の就職のことについても、働くことの意味だとか、社会に出てどんな人生にして行くかって話はたくさんしたけど、どこに就職するかについては、何にも言わないで見守ってくれたよね。
昨夜、就職先が決まった息子から、そんな話をしてもらった。
息子に伝えたいのは、どんな逆境になっても、それを乗り越えられると信じさせてあげられるような背中を見せること。そして、生き抜く力を身に付けるろよってこと。
失敗は、早くに体験する方がいい。失敗しないように、先に杖を渡せば、無傷なまま育つかもしれない。でも、親の方が先に死ぬことを考えれば、一生添い遂げることはできっこない。
小さな怪我を積み重ねて強くなってもらう方がいい。
どんな会社で働くことになろうと、それは息子がそのときに体験すべきことなんだと思う。大企業に入れば安泰という時代ではないし、中小企業なら荒波に揉まれることも多いだろう。
でも、何もかも必要な巡り合わせなんだと、見守ろうと思ってきた。
コーチをしていたあの頃の選手たちの何人が、自分で考えて判断して行動できるようになったかは分からないけれど、一番傍にいた息子には、どうやら伝わったらしい。
給料じゃなく、自分に必要な体験が出きる会社を選んでくれた。その先の方向性を自ら決めて。
就職がゴールではない。これからその会社を、そこで働くことを手段として、社会のために役立つことを考えてくれている。
これまでに学んだことをそのまま使えるとは思わず、これから実践に則した勉強を続けるための地頭を作ってきたと考えてくれている。
笑顔と感謝を常に忘れないで、進んでくれると思う。幼い頃に背負うことになったハンデのことすら、そのお陰で得られたものが多いと言ってくれた。
厳しい道があっても、それを目の前にして、きっと楽しんでくれる。ピンチが来たら、面白くなってきたぞって、言ってくれる。
そんな息子になってくれた。ありがとう。