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生穂今昔雑記②

砂持について

砂持(すなもち)が意味するところは様々あるようで、植物にもスナモチがあるが、神戸湊川神社には「砂持式」という地鎮祭前儀があり絵葉書にもなっている。
この絵馬にも地鎮祭の様子(忌竹(斎竹)・祭壇・供物の餅・盛砂)が描かれているので、この地鎮祭前儀の砂持式だと思われる。

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広島城砂持

興味深いところでは、広島城下で幻の祭「砂持加勢」というものがあり、それを再現した祭が現在も行われている。
記録では、江戸時代の天保10 年(1839)ニ葉山八幡神社(現鶴羽根神社)の改築時と文久2年(1862)の瓦版が残っている。
江戸時代、広島藩主は町民に川底に溜まった砂をさらって運ぶ作業を命じており、この作業を応援(加勢)するために行われたもので、財団法人広島市文化財団 広島城 発行の『しろうや広島城』では、当時作成された『広島本川川ざらへ􀘙町中砂持加勢図』という瓦版の解説がある。
それによると、「各町単位(59 町)で出し物を作った。お囃子・お囃子を乗せた屋台・山車・仮装をした人々などで構成されており、踊りながら練り歩いた。」とある。
練子の仮装こそ違うが屋台に何かを載せているのは、鯛や大根を乗せた邌物(ねりもの)がある賀茂神社『本社砂持實況』絵馬の様子と酷似している。

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(筆者イラスト 参照:『広島本川川浚え町中砂持加勢図』)


この広島城の「砂持加勢」は、大阪玉造稲荷神社で寛政元年(1789)に、派手な衣装で鉦・太鼓・三味線で大騒ぎした「砂持」が広島に伝わって行われたようだ。と締め括られている。


大阪玉造稲荷砂持

大阪玉造稲荷の「砂持」が記された『栄々集』を見てみると、お面・釜・行燈を持った人達が神輿を担いでいる。神輿には米俵が乗り、忌竹に注連縄・提灯というものであるが、練り歩きさえすれ、広島城砂持加勢のような奇抜さは感じられない。

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(筆者イラスト 参照:『栄々集』)

さらに調べると、矢野太郎編(国史叢書)国史研究会 1917 の『浮世の有様􀘙巻之八』にも”砂持”の記述があった。
『天神砂持の盛況』では「猫間川を掘った土を玉造稲荷の辺りに運べ」、
「石屋仲間・砂持仲間よりも追々に人を出し~」とあり、もともと「砂持」は役職・職業のようなものだったと思われる。砂持の様子としては「何れも紅摺の衣服・縮緬(ちりめん)の玉襷(たすき)の揃にて、御加勢と印せし大幟を建連ねて」と衣装についても記されている。

当時、天保の大飢饉で大阪の町民は貧窮しており大塩平八郎の乱(天保8 年)に繋がるが、「天神砂持」は大塩の乱の翌年(1838)の事とある。
町民は貧窮からか「ええじゃないか騒動」のように、砂持への加勢が憂さ晴らし・現在のデモ・暴動のようになっていく。
文中からは、砂持に浮かれ男女混雑して方々を(裸でも)踊り廻った天神砂持が大阪中で大流行した・砂持の評判が諸国に聞こえ、わざわざ見物に来る者が多く大騒動であったこと等が分かり、「前代未聞の珍事である」と書かれている。
また町民による第2の大塩の乱を危惧している様子もあり、その規模の大きさも窺える。
『御霊猫間川砂持』には、天保9 年4 月24 日より天満砂持を37 日間行うこと・道頓堀幸町諭如山も同様に砂持を始めること・市中で盛大に種々な趣向で出ることが書かれており、ねり物番付に形取を書付けるとあり、狂句等が記されている。


まとめ

『天神砂持の盛況』や『しろうや広島城』にあるように、砂持の評判が大阪から広島まで伝わったのであろうか。
伝播の過程で淡路島にも伝わっていると予想される。淡路と大阪は交易船が往来しており、直接見物した可能性もある。また城下町と水路は関わりが深く、各地の城下町での水路工事から伝わっていったのかも知れない。
生穂砂持は広島砂持から約30 年後になる。その他に資料がないので淡路島内で最初だったのか、30年間各地でも行われていたのかは不明である。
いずれにしても、地鎮祭前儀の「砂持式」もしくはその役職であった「砂持」が、大阪の大騒ぎと一緒に伝わっていく過程で、「猫間川砂持」のような様々な趣向(仮装や練り物)で踊り歩き大騒ぎする「砂持加勢」へと変化していったと考えられる。
賀茂神社『本社砂持實況』とは、数日間練り(踊り)歩くことや邌物を出すことが共通している。
それが大阪から伝わったものなのか、地鎮祭前儀として古来より伝わっていたものなのか。元々の地鎮祭前儀に大阪・広島の騒ぎが加わったものなのか。
また描かれた各組の邌物は、元々祭礼・巡遷辨財天に出していた野台(邌物)なのか、この砂持のために作ったものなのかも合わせて不明であり、現在も調査中である。

注:「邌」は、ゆっくりと動く、またはその様子を表す。

ヘッダー画像:引用元『摂津名所圖會』

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